第6章 2 取り調べは応接室で
豪華な皮張りのソファ、立派な調度品に家具・・・ここは学院の応接室である。
俺様王子と熱血生徒会長が強引に学院側から貸し切ってしまったのだ。
ソファに座らされた私の左右にはそれぞれ、俺様王子にスイーツ大好き生徒会長、そして俺様王子の隣にマリウスが座っている。
一方、大きなテーブルを挟んだ向かい側のソファには中央にダニエル先輩、そして彼を挟むように座っているグレイとルーク。
グレイやルークは何故、俺達がここの席に・・・等と小声でぼやいていたようだが、その場にいる全員は聞こえないフリをしていた。
「さて、ダニエル・ブライアント。何故お前がジェシカの恋人になっているのか説明して貰おうか?」
アラン王子は腕組みをしながらダニエル先輩に命令口調で言う。おおっ!完全にこの場をしきっているよ。
それにしても、あの・・・・貴方は王子様かもしれませんが、仮にも相手は先輩ですよ?そんな口の利き方をするなんて・・・。私はチラリと恨めしそうにアラン王子を見る。
「何故、貴方に説明しなくてはならないのですか?」
ダニエル先輩はため息の後、私に微笑んだ。
「大丈夫、ジェシカ?」
「!貴様・・・!勝手に俺のジェシカを見つめるな!」
今にもソファから立ち上がりそうな勢いで怒鳴る俺様王子。だから、私は貴女のジェシカではありませんてば!
「アラン王子、落ち着いて下さい。」
マリウスは興奮しているアラン王子を宥めている。よし、その調子だマリウス。やっぱりマリウスをアラン王子の隣に座らせたのは正解だった。
「ダニエル、ジェシカは俺の預かる生徒会候補の大事な一員だ。勝手に手を出されては困る。」
生徒会長・・・・やっぱり貴方、頭のネジが1、2本外れてしまっているのでは無いですか?絶対生徒会には入らないと何度も言っているでしょう?
「ジェシカは生徒会には入りたくないと言ってると聞いていましたけど?」
ダニエル先輩も負けてはいない。
「大体、彼女を襲おうとしたノア先輩がいる生徒会に誘おうとするなんて、どうかしてると思いますよ。なので絶対に僕はジェシカを生徒会に入れる事に反対します。」
「な、何?貴様、神聖なる生徒会を愚弄するのか?!」
興奮して立ち上がる生徒会長。ねえ。ダニエル先輩は生徒会をそこまで酷く言っていませんよねえ?やっぱり一度耳の検査を受けた方がいいのではないですか?
私はダニエル先輩の両隣に座らされているグレイとルークを見た。可哀そうに、彼らが一番居心地悪そうにしているよ。
本当に誰かこの俺様王子と暴君生徒会長を何とかして欲しいものだ。
「ジェシカ、可哀そうに。今までこんなに横暴な彼等に付きまとわれていたんだね。本当に同情するよ・・・。」
ダニエル先輩は私をじっと見つめて言う。
「ダニエル様・・・。」
私が思わず名前を呼びかける。
おいそこの2人、勝手に見つめ合うなと小姑のような生徒会長が隣で文句を言ってるが、ここはスルー。その時だ。
「失礼ですが、あまり私のジェシカお嬢様に馴れ馴れしくしないで頂けますか?」
それまで静かだったマリウスが言った。ちょっと!だから誤解されるような言い方はしないでよ!私は貴方みたいなM男は側に置いておきたくないんだからね!!
グレイやルークも何か言いたげにソワソワしているが、恐らくアラン王子の手前、何も言えないのだろう。ストレスたまるだろうな・・・。気の毒に。
「あの・・・もうそろそろ次の授業が始まるので、これで終わりにしませんか・・・?」
私がうんざりしたように提案する。
「「駄目だ!!」」
アラン王子とポンコツ生徒会長に一括される。
「もういい、ジェシカ。お前に直接聞く。」
突然アラン王子は私の方を向くと、右手を取り自分の両手で包み込んだ。
「な、何するんですか!アラン王子!!」
慌てる私。
「アラン王子!その手を放せ!」
ダニエル先輩は声をあげた。
しかし、グレイとルークに取り押さえられてしまう。
「さあ、どうしてお前があの男と恋人同士になったというのだ?もしかしてあの男に脅迫されたか?優男に騙されたのか?怒らないから2人の経緯を詳しく俺に話してくれ。」
「そ、それは・・・。」
優し気に言うアラン王子。何ですか?その態度は。私とダニエル先輩とでは180度態度が違っていますよね?しかも先輩に対するその物言い、あまりに失礼だ。
「いい、僕から全て話すよ。」
ダニエル先輩は溜息をつくと言った。
「僕はね、ソフィーという女がいてしつこく付きまとわれ、困っていたんだ。しかもあの女は落とし穴に落とされて足首を怪我したと出まかせを僕に言ってきたんだよ。挙げ句に突き落としたのはジェシカだと言うんだ。」
「馬鹿な!ジェシカがそのような卑怯な真似をするはずが無い!」
またまた大声を出す生徒会長。まあ、確かに私は生徒会長とは違って卑怯な人間ではありませんけどね。
「そしてその事をジェシカに話す為に2人でサロンに行ったのさ。」
サロンと聞いてルークがピクリと反応した。
「ノア先輩が学院に戻る事も決まって、僕等はサロンで話し合って、僕はソフィーをあきらめさせる為、そしてジェシカをノア先輩から守る為、お互いに恋人同士のフリをして側にいる事に決めたんだ。あの2人に怪しまれないようにね。」
ダニエル先輩は説明した。あれ?でも肝心の俺様王子達が合宿から戻ってくるまでと言う部分は抜けてますよ?
「本当にそれだけか?」
アラン王子はまだ私の手を握りしめている。それが気に入らないのかダニエル先輩は更に話を続けた。
「いや、それだけじゃ無いよ。」
何を言うつもりなんですか?ダニエル先輩・・・。果てしなく嫌な予感がする。
「僕たち2人は楽しくサロンでお酒を飲んで、逢瀬の塔で一晩共に過ごしたんだ。」
「「「「「何だって?!」」」」」
全員が大声で一斉にハモる。あの・・・耳が痛くなるんですけど・・っというか、そんな事言ってる場合ではない!!
「ダ、ダニエル様・・・な、何と事を言うのですか・・・。」
私は冷汗を流しながら言う。
生徒会長は魂が抜けたように呆けてしまうし、マリウスは石のように固まっている。グレイとルークは・・・あれ?何だか涙ぐんでないか・・?そして・・・。
「な・な・な・・・何だとお~ッ!!」
アラン王子は今にも掴みかかりそうな勢いで立ち上がり、我に返ったマリウスに取り押さえられている。
「お、お、落ち着いて下さいッ!アラン王子!」
私は必死で宥めようとした。なのに声が届かないのか、ダニエル先輩を射殺さんばかりの目で睨み付けている。
「ジェシカ、その話・・・本当なのか・・?」
グレイは青ざめた顔で私を見た。
「あ、あの、確かに行ったのは事実だけど・・・。」
答えると、アラン王子がまた喚く。
「何いっ!やはり行ったのか!!」
「あーもう、少し静かにして下さい、アラン王子!これでは説明する事も出来ないじゃ無いですか!」
私がピシャリと言うと、ようやくアラン王子の興奮が治まった。
「わ・・分かった。弁明なら聞く。」
ちょっと、何ですか?その弁明って。少し言い方が気に入らないのですが・・・。
私は溜息をつくと言った。
「私がサロンでお酒を飲みすぎて潰れてしまったので、仕方が無くダニエル様が逢瀬の塔まで運んでくれたんです。私をベッドに寝かせてくれて、ダニエル様はソファで休まれた、それだけの事なんです。」
そうですよね?ダニエル先輩。私は先輩の顔をチラリと見たが、何故か先輩は意味深な笑みを浮かべている。
「そ、そうか・・・。それだけの事なのか・・。」
何故かルークがほっとしたように言うが、納得しないのはアラン王子と生徒会長である。
「いや、しかし!若い男女があのような場所で2人きりで過ごして健全でいられるのか?!」
と、生徒会長が言えば
「お前・・・ジェシカが意識を無くしているのを良い事に本当は何かしたのではないだろうな・・?」
アラン王子はマリウスに押さえつけられながら、ダニエル先輩を睨み付けている。
ねえ・・・アラン王子、ちょっと怖いんですけど・・。
「さあ、それはご想像にお任せします。」
所がダニエル先輩はお道化たように言う。
「「「「「はあ?!」」」」」
もう、何度目だろう・・この繰り返しは・・・。
挙句にとどめの最後の言葉。
「だって僕たちはキスした仲だから。ね?ジェシカ?」
そして私にほほ笑みかける。
ピシイッ!
ダニエル先輩を除いたその場に居た全員が凍り付く音が聞こえた―。
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