第5章 10 これも予知夢?

 女子寮に戻ってきた私。ああいう雰囲気を作ってしまったのは、多分私のせいだ。きっとダニエル先輩は流されて私にあんな事をしてきたのだろう・・・。う〜ん、やっぱりあれじゃダニエル先輩に気まずい思いさせてしまったよね。やはり、ここは精神年齢25歳である私が明日から何事も無く振る舞ってあげるしかないだろう。日本にいた時は、そこそこ恋愛も経験してきた訳だから、ここは大人の余裕を見せなければ。よし、気持ちを切り替えて、明日からはマリウス達が戻るまでダニエル先輩と恋人同士の演技を続けて、ノアから守って貰おう。確か小説の設定では先輩は魔力がとても強く、魔法攻撃に関しては右に出るものはいないと書いた位だから。


 それにしても・・・。

私はデスクの上に置いたPCとプリンターにかけた布を剥がした。

「どうするのよ、これ・・・。」

起動ボタンは押してもうんともすんとも言わない。これでは本当に邪魔な置物でしか無い。ほんとに電気があれば、コンセントがあれば・・・。PCを起動する事が出来るのに・・。ああ、欲しい。電気が、コンセントがあっ!と願っても当然出てくるはずも無く・・。考えた挙句。


「シャワー浴びよ。」

私は気持ちを切り替える事にした。

熱いシャワーを浴び、すっきりして以前ルークから貰った果実酒を飲みながらこれからの事を考えよう。取り合えず私の今後の課題は図書館司書のアメリアと仲良くなりつつ、アカシックレコードの謎を解く本を探す事だ。

 でも自分があまりテレビを観たり、ゲームをする習慣が無い人間で本当に良かったとつくづく思う。そうでなければこんな電気すらないアナログ生活耐えられなかっただろうしね。


 私は部屋に備え付けのシャワールームへ入ると、バスタブにお湯を溜める。その間に着替えの用意をして寝る準備を整えた。


「もうお湯たまったかな?」

暫くたってからバスルームを覗くと、丁度良い具合にお湯が溜まっていた。

よし、これならもう入れそうだ。



「ふ~気持ちいい~。」

本当なら大浴場に行って思い切り足を伸ばしてお湯に入りたいところなのだが、ソフィーとあんな事になってしまったからには行くわけにはいかない。正直今のソフィーが何を考えてるのか私には全く分からない。それどころか、酷く恨まれている気もするし・・・。とにかく今は下手に接触を避けるべきだろう。非常に残念だけど大浴場は暫くおあづけかな・・?


 今日は色々な事があり過ぎて疲れてしまったのでちょっと頭の中で今日会った出来事を整理する事にしよう。まずは・・・


① 前日の夜にソフィーの事で話があるとダニエル先輩にサロンに誘われ、お酒を飲みすぎて、意識を失い、先輩に逢瀬の塔に運んで貰った


② 私が夢の中で黒髪の男に裁きを受け、監獄に幽閉されるという妙にリアルすぎる夢を見た


③ 二日酔い治療の為にマリア先生の元を訪れ、夢の話をしたところ『アカシックレコード』の話を聞かされる


④ ソフィーに付きまとわれるダニエル先輩、そしてノアに付きまとわれる私が結託してマリウス達が戻ってくるまで恋人(仮)の演技をする事になった


⑤ 授業を休んだ私は『アカシックレコード』の事を調べるために図書館へ行くと、そこの図書館司書が私にメモを渡してきた女性だった(名前はアメリア)。そして彼女は何故か記憶喪失となっていた


⑥ ダニエル先輩と夜、デートをした私は映画を観て感動して泣いてしまい、何故か先輩にキスされてしまった


 指折り数えて、私は頭がクラクラしてきた。

たった1日でこれ程の出来事があったとは・・・。これでは身体も心も疲れ切っているはずだ。でもまだまだ、バタバタした日常が続くのだろうな・・。何せ、あの男が停学処分が終わって学院に戻って来るのだから・・・。それにソフィーという厄介なヒロインも存在しているし。

ああっ!もう何もかも投げ出して逃げ出したい!でも、今の状態で逃げ出したとして生活をしていけるのだろうか?やはりここは何か生計を立てられる仕事をこの学院にいる間に見つけて、どこか遠くに出奔して・・?


「そうよ・・・・。私が裁かれる前にこの学院から逃げ出してしまえばいいだけじゃない・・。」

そうだ、何故こんな簡単な話に今まで気が付かなかったのだろう。要は私がこの学院から・・と言うか、皆の前から姿を消してしまえばいいだけの話。

「よし、そうと決まれば色々準備していかないとね・・・・。」


 

 お風呂から上がると、私は自分が持ってきた持ち物を改めて全て確認してみる。

トランクにはまだまだ露出の激しいナイトドレスがぎっしり入っていた。

これらを売ればかなりの金額になるに決まっている。

 次に調べたのは宝飾品の数々、大小様々な箱に時価総額幾らになるか想像もつかないようなダイヤのアクセサリーがこれまた大量に入っている。本当にジェシカは呆れる程贅沢が身に染みている女だったようだ。リッジウェイ家はひょっとすると領地の民に重い課税を行い、自分たちは贅沢三昧な生活をしていたのだろうか?もしそうだとすると、リッジウェイ家の人間達は最低な人種なのかもしれない。

「って何考え込んでるのよ、私ったら!今は一刻も早くこの学院から逃げ出す準備を始めるのよ!」

 私は残りのトランクを次々と開けていった。・・・うん、結局今の私が必要と思われる荷物は一切無かった。よって、これらを休暇の度に町へ出て。足が付かないように少しずつ処理をしていく事に決定!

「後は・・・何処へ逃げて、どんなふうに生活していくかよね・・・。何処の国へ行けば一番生活しやすいんだろう?誰に聞けばいいのかなあ・・・?」

マリウスやアラン王子等に質問しようものなら大騒ぎになって出奔の計画はパアにされてしまうだろう。ここは一つ、女性に・・・。

「そうだ、エマに聞いてみればいいんだ・・・。」

エマは兎に角なんでも物知りだ。きっと彼女ならどこの国が女1人でも住みやすい国なのか、きっと知ってるはずなので教えて貰おう。


 途端に私の心は軽くなり、楽しい気分になってきた。後は、誰にも知られずにこっそり学院を出る事だよね。どうすればいいのか・・・じっくり計画を練る事にしよう。

 とりあえず私はルークのくれた果実酒を1杯飲んでベッドに入った・・・。




ハアハア・・・・息が切れる。私は必死で森の中を逃げている。背後からは馬に乗った大勢の兵士たちが私の後を追ってきている。

早く、早く逃げなくては・・・捕まってしまう。


「待て!ジェシカ・リッジウェイ!貴様・・・この学院から逃げられるとでも思ったか?!」


怒鳴り声が私を委縮させる。でも、こんな所で捕まる訳には行かない!だって私は・・・・・・!


 その時、私は木の幹に足を引っかけて派手に転んでしまう。急いで身を起こし、逃げようとしたが、右足に酷い激痛が走った。う!い、痛い・・!!


「ついに捕らえたぞ!この悪女め!!」


追いつかれた私は腕を掴まれ、無理やり立たされる。右足に激しい激痛が走り、思わず痛さで顔が歪む。


「ハッハッハ!!いいざまだ!ジェシカ・リッジウェイ!やはり聖女様の言った通り、この道を通って逃げ出したか!」


私を捉えた兵士は鉄仮面を被っていた為、表情をうかがい知れない。


その時、1頭の白馬に乗った2人の人物が現れた。


そこに乗っていたのは・・・。


「ジェシカさん、逃げるとより一層罪が重くなりますよ。どうか学院に戻ってご自分の犯した罪を償って下さい。」


まるで姫のような姿をしたソフィーが後ろに乗ったアラン王子に抱きかかえられるように馬に乗って現れたのだった・・・・。

















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