第5章 11 意外な展開

「!」

私はそこで突然目が覚め、飛び起きた。心臓は早鐘を打ち、身体はしっとり汗で濡れている。

「な、なんて夢・・・・。」

私は溜息をつき、時計を見た。時刻は6時になろうとしていた。


「シャワー浴びてこよう・・・。」

私はベッドからゆっくり起き上がるとバスルームへ向かった。


コックを捻り、熱いシャワーを頭から被る。先ほど見た夢の内容をシャワーと共に全て洗い流してしまいたがったが、生憎そういう訳にはいかないようだ。


「どうして、あんな夢を・・・。それともあれは只の夢なんかでは無くて予知夢・・?」


 でも小説の中のジェシカにはそういった能力は一切記述しなかった。それはそうだろう。ジェシカに予知能力があったなら、最後に流刑島に流されてしまうようなへまはやらなかったはずだ。

・・・それにしても気になる点があった。私は夢の中の出来事をもう一度思い返してみる。始めにみた夢の中では、それは凍えるような寒さを体験していた。夢に出て来ていた登場人物達も冬の装いをしていたような気がする。でも、今日見た夢はどうだっただろうか?

夢の中では凍えるような寒さは感じなかった。木には葉が生い茂り、地面には草が生えていた。まるでこの世の物とは思えない、それは美しい景色だった。きっと季節は冬では無かったはずだ。それどころか花も咲いていた気がする。

ジェシカは掴まってすぐには裁判にかけられなかったのだろうか・・?


「一体、あの2つの夢はいつから始まる出来事だって言うの・・?」

私はそのまま暫くの間、頭からシャワーを被り続けていた・・・。


 制服に着替えてバスルームから出て来ると、私はデスクの上に置かれているPCをもう一度改めてマジマジと見つめた。

ああ・・・コンセントがあればなあ・・・・ん?私はその時気が付いた。窓際の壁の右端にデスクは置かれている。デスクの足元の壁をよく見ると、コンセントが付いていたのである。

「え・・ええ?!」

そんな、まさか。昨夜はこんなもの壁に付いていなかった。ひょっとするとこのPCを出現させた時と同様、コンセントが欲しいと強く願ったので、また自分の願望を具現化する事に成功したのだろうか?

私は逸る胸を押さえ、電源プラグをコンセントに差し込んでPCの起動ボタンを押す。

カチン。

どうか、どうか、動きますように!神様、お釈迦様、菩薩様―っ!!


ウィ~ン・・・・。

「う、動いた!!」

この機械音、この起動中の画面の動き、まさに私が夢にまで見た、PCが起動する瞬間―

ああ、今までこれ程までにPCを動かせるという事に感動と喜びを経験した事が私の人生経験の中で過去にあっただろうか?いや、無い!私は今日と言うこの日を一生忘れる事は無いだろう・・・!

あ、駄目だ。最近私はあの熱血生徒会長のせいで、自分まで徐々に感化されてきているようだ。

・・等と考えている最中に、ついにPCはたちあがり・・・・

「え?」

画面には起動する為のパスワードを入力画面が表示されていた。

ま、まさかここまできてのパスワード?どうしよう、何ていれればいいんだろう?

よ、よし・・・一番定番な・・・パシパシパシ・・・

「password」

さて、どうだろう?・・・駄目だった。

ではこれならどうだ?パシパシパシ・・・・

「user」

これも駄目・・・・。

「あ~!もう!パスワードなんて、分かるはず無いじゃない!大体、どこのPCかも分からないのに・・?」

ん?待てよ?

う~ん・・・どうもこのPC見覚えがあるのだが・・・何の気なしに私はマウスを裏側にひっくり返し、危うく悲鳴を上げそうになった。う、嘘でしょう・・・?これは・・私が使っていたPCだ・・・。

マウスの裏側には私のお気に入りのご当地物のゆるキャラのシールを貼っていたのだが、同じ位置に同様のシールが貼られていたのである。間違いない、これは私のPCだ。

そ、それならもうパスワードはこれしかない!パシパシパシ・・・私は慎重にPCのキーボードを叩く。

「こ・・これでどうよ!」

Enterのキーを叩く!

すると・・・・ついに画面が切り替わり、いつもの見慣れた画面が表示されたのだ。

私はデスクトップに表示されているアイコンにざっと目を通す。

うん、間違いない。これは紛れもなく私のPCだ。どうしよう、嬉しさで悲鳴を上げてしまいそうだ。

私がここの世界に飛ばされて・・・そしてついに自分と深く関わりのあるPCが私の手元に届いたのだ。

「よし、決めた。このPCに名前を付ける事にしよう。そう・・・名前は・・ずばり

『相棒』よ!!」

私はビシイッとPCに指さして言った。やはり私は生徒会長化してきているようだった・・・。



 7時—

私はホールに朝食を食べに来ていた。入り口を覗き込んで、ソフィーがいるかどうかキョロキョロしていると、突然背後からポンと肩を叩かれた。


「おはよう、ジェシカさ・・・。」


「キャアッ!」

私は思わず乙女らしい悲鳴を上げていた。


「ど、どうしたの?ジェシカさん?」


その声に振り向くと、驚いたような顔をエマが立っていた。何だ・・・エマだったのか・・。ふう・・・心臓が止まるかと思った・・。


「あ、ご、ごめんなさい。ちょっと驚いたものだから・・。」


「私こそ、ごめんなさい。急に後ろから肩を叩かれたら驚いてしまうわね。」


エマは申し訳なさそうに言う。


「ところでジェシカさん。誰か探していたの?」


「え、ええ。ソフィーさんはいるのかな~と思って・・・」


すると途端にエマは眉を潜めた。え?どうしたの?何かあったのだろうか?


「そうね。ジェシカさんは知らないかもね。実は噂によるとソフィーさんの足の怪我なんだけど・・・。」


ドキッ!私の心臓が大きく跳ねる。も・もしかして、私にけがを負わされたと言うデマが飛び交っているのではないだろうか・・・?


「自分で魔法を使って、あたかも怪我を負ったように見せかけていたらしいわ。それで学院側からお咎めがあって、ここのホールで食事をする事を禁じられたらしいわよ。」


エマは小声で私に教えてくれた。


「だから、ほら。見て。ますますナターシャさんの立場が悪くなってしまったのよ。」


エマの視線の先にはナターシャがポツンと1人で一番端の席で縮こまるように食事を取っている姿があった。私が昨日1日学院を休んでいる間にそんな出来事があったとは・・・。ん?でも待てよ?


「あ、あの。どうしてソフィーさんの足の怪我が魔法によって付けられた怪我だと言う事が発覚したのかしら?」

そこだけはどうしても確認したい。何せ最重要項目なのだから。


「それがね、どうも医務室の先生からの指摘があったらしいわ。怪我の記録がおかしいから再度ソフィーさんを呼び出して、魔術を教える先生の立ち合いの元、診察をし直してみると、どこも怪我をしてる場所は見当たらず、魔法による見せかけの怪我だと言う事が発覚したらしいの。」


そんな事が・・・。まさか私の為にマリア先生が・・?後で先生を尋ねてみよう。


「もう、皆カンカンに怒っているわ。準男爵家のくせに、見せかけの怪我を装って、ホールで食事するなんて図々しいにもほどがあるって。」


エマはますます声を潜めて私に言う。


「だから、ナターシャさんの立場も今まで以上に酷くなってしまったと言う訳なの。」


「そう・・・そんな事があったのね。」

正直、ソフィーがこのホールに食事をしに来なくなったと言う話は私にとって吉報だ。しかし、このことが原因でますます私を逆恨みする事になるのではないか・・・?

そこが、今一番私の気になる所であった―




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る