第5章 6 恋人になろうよ

 私は今ダニエル先輩とカフェテリアに来ている。


「君は何を食べるの?」


メニュー表を2人で見上げる。


「そうですね。では私はホットサンドセットで。」


「ふ〜ん、美味しそうだね。僕もそれにしよう。」


「はあ・・・。」


「飲み物はどうするの?」


「え?では私はカフェ・ラテで。」 


「それじゃ僕もカフェ・ラテにしようかな。」


「そうですか・・・。」


「何処で食べるの?」


「え?そうですね。今日は温かいので芝生公園で食べようかと・・・。」


「すみません。テイクアウトでお願いします。」


店員さんから紙袋にホットサンドセット2つを入れて貰うとダニエル先輩は私の意見を聞かずに腕を取ると言った。


「それじゃ行こうか?」


 芝生公園のテーブル席で私達は向かい合って座っている。

これは一体どういう状況なのだろう?私の向かい側ではダニエル先輩がホットサンドを食べている。


「へ〜。初めて食べるけど、美味しいね。」


「そうなんですよ。特に中の具材のスクランブルエッグが美味しいんですよ・・・って、そんな事言ってる場合じゃ無いですよ先輩!」

私はテーブルをバンと叩いた。


「何を興奮してるのさ。今は食事を楽しまなくちゃ。」


確かに先輩の言う事も最もだ。

「そうですね、食事は楽しく頂かないといけませんよね?」

私はホットサンドを一口食べる。う〜ん、卵の味、最高!


「くくっ・・・君って人は、本当に美味しそうに食べるよね。」


笑いを噛み殺しながらダニエル先輩は言う。


「そうですね。色んな人達に言われます。」

すると、突然不機嫌になる先輩。


「それってアラン王子とか、生徒会長とか・・他の男たちに?」


「え、ええ。まあそんな所ですけど?」


「そう。でも今は僕と2人で食事してるんだから、他の男の事話すのは失礼だからね。」


「は、はい。すみません・・・。」

ええ〜でも先に話を振ってきたのは先輩からですよね・・・等とは当然言えず。私達は黙々とランチを食べる。と、そこへ昨夜サロンで会った3人組の男性が側を通りかかった。


「お?何だ?ブライアント。昨夜の彼女とまた一緒にいるのか?」

「そっか~随分親し気だったもんな?」

「何言ってるんだ?お前ら知らないのか?昨夜この二人は御楽しみの夜を過ごしたんだぜ?」


あの、最後の人何だか随分過激な事をおっしゃっているようですけど?ダニエル先輩、早く否定して下さいよ!

ところが、先輩から出てきた言葉は・・・。


「そうだよ、昨夜は彼女と存分に楽しんだけど?」


 涼しい顔で言うダニエル先輩。ギャ~ッ!!何て事言うのよ、この人は!また誤解されるような事を・・・。それに何やら得意げに私をみているようですけど?!

それを聞いた男子学生3人は一様に驚いた顔をしている。それはそうだ。何より一番驚いているのはこの私自身なのだから。


「ほら、分かったら二人きりにさせてくれないかな?僕たちは今ランチを楽しんでいるんだから。」


ダニエル先輩は3人にあっちへ行けよと言わんばかりの口調で言った。


「お、おう・・・。」

「悪かったな。」

「おい、今度二人の馴れ初めを教えてくれよ。」


彼等は口々に言うとその場を去って行った。


「先輩・・・・。」

私は恨めしそうにダニエル先輩を見た。


「何?」

一向に気にする風でも無くホットサンドを口にするダニエル先輩。


「どうして!ソフィーさんや、さっきの人達に勘違いされるような言い方をするんですか?絶対に皆私と先輩の仲を疑っていますよ?!」


「別に僕たちが交際していると思わせておけばいいんじゃない?僕はちっとも困らないけど。」


「はあ?」

なんて無責任な事を言う先輩なのだろう。・・・はっきり言って困る。これ以上私はソフィーに目の敵にされたくないと言うのに。何だか自分の残酷な未来が近づいてきている気がする。


「だって誤解させておけばお互い助かるし。うん、この飲み物も美味しい。」


カフェ・ラテを飲みながら話す先輩。


「何処がお互い助かるんですか?ソフィーさんは完全に私の事を目の敵にしていますよ?これ以上彼女に誤解されるのは、はっきり言って困ります!」

ピシャリと言った。


「ねえ・・・・知ってる?」


突然ダニエル先輩の口調が変わる。

「知ってるって一体何をですか?」


「明日からノア先輩の停学処分が解けるって話。」


「え?私が聞いた話では後半月は停学だと聞いていましたけど?」


「それが、早まったんだよ。実家の方でも彼の事を持て余していたみたいでね。寄付金を増額させるから息子を学院に戻して欲しいって頼みこまれたらしいよ。」


 え・・・それは・・流石にノア先輩が可愛そうなのでは・・・?実の親にまで邪魔者扱いされているなんて。


「ねえ、ジェシカ。今ノア先輩に同情したんじゃないの?」


ダニエル先輩は指先で私の頭をコツンとこずくと言った。

「え?そ、それは・・・。」

私は言葉を濁す。するとダニエル先輩は続けた。


「・・・町での話は聞いてるよ。ジェシカ・・・ノア先輩に襲われそうになったんでしょう?あの先輩はね、自分が目を付けた女性にはどんな手を使ってでも手に入れないと気が済まない、恐ろしい人なんだよ。」


ダニエル先輩の目が真剣味を帯びて来る。


「恐らく停学処分が明けても、きっとまたジェシカを狙って来ると思うよ。今君の側にはアラン王子も、生徒会長も、そしていつも側についている銀の髪の男性もいないよね?」


銀の髪・・・?ああ、きっとマリウスの事を言ってるのかな?まあ俺様王子やM男、それに熱血生徒会長が側にいないのは確かに心もとない。ついでに言うとルークにグレイもだ。でもそれとダニエル先輩と交際しているフリをするのに一体どのような関係があると言うのだろうか?


「彼氏でも無い男が始終君の側に付いているのは流石に違和感があると思わない?」


「あの・・・つまりそれは・・・?」


「まだ分からないのかな?僕は面倒なあの女から逃げたい。そして君はノア先輩から狙われている。でも僕が君の彼氏のフリをして側にいれば、ノア先輩の魔の手から君を守ってあげる事が出来る。フィフティーフィフティーの関係でしょう?」


ダニエル先輩は小悪魔のような笑みを浮かべて私に言った。


「それに、どうせ僕と君が逢瀬の塔へ一緒に入ったって事は知れ渡ってしまったんだし、今更恋人同士になってもどうって事無いよ。ま、勿論期間限定で構わないから。お試し期間が終わっても関係を続けたいなら僕はそうしても構わないしね?」


一番最後の内容は気になるが、取り合えず私は言わせてもらう。

「う~。で、でも先輩は女嫌いで有名なんですよね?嫌じゃないんですか?例えフリでも私と恋人同士になるなんて。」


そうだ、私はこれ以上ソフィーに余計な恨みを買いたくない。それに既に私はアラン王子に気に入られて?いるから色々な女生徒に恨まれている。これ以上他の男性との噂が広まっては、大変な事になりそうな予感がする。


「僕は君の事は嫌じゃないよ。いや、君となら恋人同士のフリをする事が出来るかな?」


頬杖を付きながら私を見るダニエル先輩。


「私がガサツで女らしくないからですよね?」

先ほどソフィーが私の事を言った内容をそのまま話す。


「僕はジェシカがガサツで女らしくないなんて思った事は1度も無いけど?」


意外そうな顔で言うダニエル先輩。


「え・・・?だったら何故ですか?」


「う~ん・・・。何故なんだろう・・・?」


言った本人が考え込んでるよ。


「そうだな・・・。楽しいからかな?君と一緒にいると。うん、そうだ。僕がどんなに君の思っている事を言い当てて口に出してしまっても、君がちっともそれに対して嫌がる素振りを見せないから・・気楽に話せる相手だから一緒にいて楽しいんだ。」


急に納得したかのように言うダニエル先輩。


「それじゃ、今夜早速デートしなくちゃね。」


あの、私まだ恋人ごっこするの承諾していませんけど?勝手にどんどん話を進めていくダニエル先輩。


「あの、私まだ恋人のフリするなんて一言も・・・。」


それを遮るように先輩は言った。


「今夜、一緒に映画を観に行こう。」


え・・・?映画?この世界に映画が存在するの?途端に私の好奇心はムクムクと湧いてくるのだった—。

















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