第5章 5 ヒロインに嫉妬される悪女
「マリア先生、今日はありがとうございました。」
私は頭を下げた。
「あら、別にいいのよ。まあ、貴女にとっては災難な話かもしれないけれど、私は今すごくワクワクしてるのだから。アカシックレコードの話なんて今迄他の人達に話しても皆笑い飛ばして信じてくれなかったのよ?おかしいと思わない。魔法が存在しているのに、予知夢やアカシックレコードの話は信じようともしないのだから。」
私は苦笑した。このマリア先生はやはり他の人達から見たら、かなりの変わり者になるのかもしれない・・・。でもふと、ある事に気が付いた。
「そう言えば先生、以前ソフィーさんが足を怪我してダニエル先輩が医務室に連れて来たことがあるそうなんですけど・・・?」
「あら?貴女知らなかった?この医務室は2人体制で行われているのよ。でも待って。ソフィーさんがこの医務室に来たことがあるんですって?嫌だ、そういう話は早くしてくれないと。少し待って、今診療履歴を調べてみるから。」
マリア先生は診察室の机の引き出しからノートを取り出し、ページを開いた。
「え~とソフィー・ローラン・・・。あ、あったわ!え・・あら、何かしら。この記録は?」
マリア先生はノートの記録を見ながら首を傾げている。何だろう?非常に気になる。
「マリア先生、どうかされたのですか?」
我慢が出来ず私は先生に尋ねてみた。
『ソフィー・ローラン。 18歳 9月15日 左足首負傷:傷病名及び原因不明』
「傷病名も怪我の原因も不明なんて・・・不思議な話だわ。」
マリア先生は首を捻っている。それはそうだろう。だってソフィーの怪我は魔法によってつけられたダミーのようなものなのだから。
「全く、あの人ったら・・・!きちんと患者の診察すら出来ないのかしら。」
あの人?妙な言い方をするマリア先生。余程親しい仲なのだろうか・・。ひょっとすると先生の後輩に当たるのかな?よし、試しに聞いてみよう。
「マリア先生、あの人と言うのは・・?」
「ああ、もう一人の医者と言うのは私の夫よ。アダム・ペイン。私と夫は交代でこの学院の医務室に勤務しているの。」
「えええっ!!マリア先生、結婚されていたんですか?!」
い、意外過ぎる話だ・・・!絶対、独身だと思っていたのに。人は見かけによらないものだ・・。
「あら?そんなに驚くような話かしら?でも貴女。本当に運が良かったわ。だって私の方が医師としては有能だからね。」
・・・凄い自信だ。でもある意味そこが頼もしい。
ボ~ンボ~ン・・・その時、12時を知らせる鐘が鳴った。
「あ、もうこんな時間!マリア先生、すっかり長居してしまって申し訳ありません。」
私は慌てて席を立った。
「あら、いいのよ。今日は患者さん1人も来なかったからいい暇つぶしが出来たわ。それじゃジェシカんさん。進展があったら、また知らせに来てね。」
マリア先生は手をヒラヒラ振った。
「はい、先生。ハーブティーご馳走様でした。お陰で気分もすっかり良くなりました。」
私はマリア先生にお礼を言うと、医務室を後にした。さてと、お昼かあ。どうしようかな。エマは多分私は寮で休んでいると思っているだろし・・・。どこかでランチを食べて、その後は図書館で『アカシックレコード』について自分でも調べてみようかな・・・?
学生食堂へ向かって歩きだした時である。
何やら聞き覚えのある男女の話し声が聞こえてきた。
あれ?もしかしてあの声は・・・?私は声のした方向に足を向けた。
学食のある建物の裏手は箱庭のようになっている。そして木が沢山生い茂っているので、秘密の恋をしている恋人たちによく使われているのだが・・・何とその木の陰に隠れるように立っていたのは、あろうことかソフィーとダニエル先輩だったのだ。
私は何やら不吉な予感がした。いつもの自分なら人の恋路を邪魔するような野暮な真似は一切しないのだが、今回ばかりは別だ。だって夢の中ではダニエル先輩は私の味方だったはずなのに、ソフィーと一緒にいるのだから。急に立場が変わってしまったのだろうか?その真意を何としても確かめなくては。(いいわけになるかもしれないが、決して私は盗み聞きをするつもりは無い。)
足音を立てないように、2人にバレないように静かに静かに近付く。そして茂みの中に身を隠す。よし、ここなら話声も良く聞こえる。うん?どうやら一方的にソフィーがダニエル先輩に詰め寄っている様だ・・・。
「酷い、ダニエル様。私、あれ程言ったではありませんか。私が足を怪我してしまったのはジェシカ様が落とし穴に突き落としたからだと。証拠映像だってご覧になりましたよね?」
松葉杖をついたソフィーは声を震わせて話している。・・・もしかして泣いているのだろうか?
「でも学院側では誰も犯人は彼女だとは認めていないよね?映像だって後ろ姿だっただったんでしょう?もうそれ位にして、いい加減にしてくれないかな?」
もう、うんざりだとでも言わんばかりのダニエル先輩。
「この学院は酷すぎます!私が準男爵だからと言って、優遇されるのはいつも爵位が高い人達ばかり・・・!私の方が、絶対にジェシカさんより魅力があるはずなのに!だってあの人は全然女らしくないし、がさつだし・・・。」
ヒステリックに叫ぶヒロイン。え?何故そこで私の名前が出てくる?それにしても酷い言われようだわ。大体、私の事それ程知らないはずだよね?随分被害妄想が強過ぎる。本当に私の書いた小説のヒロインなのだろうか?
「ねぇ、君はいったい何がしたいの?僕にどうしろと言うの?」
ため息混じりに言うダニエル先輩。途端に声色が変わるソフィー。
「そんなの・・・言わなくても分かりますよね?私にはもう貴方しか残されていないんです・・・。だから・・・。」
そしてダニエル先輩に腕を絡めるソフィー。
「・・・ねぇ、離してくれないかな。穢らわしい。」
ダニエル先輩はまるで汚らしい物でも見るような目付きでソフィーを見た。あ〜あの目はマリウスが好みそうな目だ。しかし、ソフィーにはそうとうショックだったらしい。
「ッ!」
声にならない声を出すソフィー。身体がビクリと大きく反応し、思わずダニエル先輩から手を離す。
「ダ、ダニエル様・・・や、やっぱり・・・?」
ん?どうした?ソフィー。
「逢瀬の塔でジェシカさんと一晩を共に過ごしたのですね?!」
ち、ちょっと待てーっ!!何?その語弊のある言い方は!他の人が聞いたら勘違いするでしょう?!さあ、ダニエル先輩、すぐに今の話を否定して下さい!
ところが・・・・。
「だったら、何?」
髪をかきあげながら言うダニエル先輩。え?
ち、ちょっと何ですか?その思わせぶりな言い方は?
「そ、そんな!嘘ですよね?!」
食い下がるソフィー。ほら、先輩。早く誤解を解いて下さいよっ。
「うるさいなあ。僕たちが、何処でどんな関係を持とうが、君には全く関係無い話だよねえ?」
その言葉を聞いて、みるみるソフィーの目に涙が溜まる。あ、終わった・・・。
「ひ、酷い・・・。」
ソフィーは涙を拭うと、松葉杖を持って、歩いて去って行った・・・。何だ、やっぱり普通に歩けるのね。
「ねぇ、ジェシカ。いつまでそこにいるつもりなの?」
ギクウッ!!
私は観念して茂みから出てきた。
「いつから気付いていたのですか?」
「?そんなの初めからに決まってるでしょう?」
そ、そんな初めからバレてたなんて。
「全くしつこい女だ。僕が一番軽蔑するタイプだよ。」
吐き捨てる様に言う先輩。はあ、そうですか・・・。いやいや、それどころでは無い。
「先輩、何故あんな勘違いさせる様な言い方したのですか〜っ!!」
私の声が辺りに響き渡るのだった・・・。
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