第4章 10 レディ・キラーを飲みながら
ソフィーに話を聞かれたくない?それにカフェテリアで会った私にソフィーが投げかけた言葉・・・今からダニエル先輩が話そうとしている内容に関連しているのだろうか?
「君・・・ソフィーに何をしたの?」
神妙な顔つきで開口一番ダニエル先輩が言った。え?何の事?
「あの・・・おっしゃっている意味が良く分からないのですが・・・?」
この人は何を言いたいのだろう?ソフィーは一体ダニエル先輩に何を話したのか?私には全く思い当たる節が無い。だってソフィーとはクラスも寮の場所も違うのだから、接点等殆ど無い。せいぜいあるとしたら、2回だけ一緒にお風呂に入っただけだ。
「やっぱり・・・そう言うと思ってた。あ、ブランデー、ロックで。」
話の途中でカウンター越しに居たバーテンダーにアルコールを注文するダニエル先輩。お酒は好きでは無いと言っておきながら、中々強いアルコールを飲むじゃないの。それともシラフで話せない内容なのだろうか?よし、それならこちらも・・・。
「すみません、私にはスクリュードライバーを下さい。」
「ちょっと、ジェシカ。君そんな強いカクテルを・・・。それ、何て呼ばれてるか知ってるの?」
お互いのアルコールが目の前に置かれるとダニエル先輩は言った。
「勿論、知ってますよ。別名『レディー・キラー』と呼ばれてるんですよね?」
ふふん。これぐらいのお酒で酔いつぶれてしまうような私では無い。やれるものならやってみろと言う感じだ。
「あ、そう。でも酔いつぶれたとしても僕は知らないよ。置いて帰るから責任持てないよ。いいね?」
「ご心配なく、先輩に御迷惑をおかけする事はありませんから。」
私とダニエル先輩は無言で一口アルコールを飲むと、やがてダニエル先輩が口を開いた。
「彼女の足の怪我・・・見た?」
「いいえ。足はギプスで固定されているので見ていませんが。」
「・・・そう。僕は・・見た。と、言うよりも見させられた。」
「はい?!」
思わず大声を出してしまった。見させられた?一体いつどこで?二人はそうとう深い関係にあるのだろうか・・・?う~ん、気になる。だってソフィーの相手は小説通りならアラン王子ではないか。この世界では相手役がダニエル先輩に変わってしまったのだろうか?
「あ、あの・・・ど、何処で見させられたのですか?!」
「ねえ・・・。君さ、もしかして凄く勘違いしてるんじゃないの?僕と彼女の事。」
溜息をつきながら、冷たい目つきで私を見るダニエル先輩。うん、マリウスが好みそうな視線だ。
「・・・と、言いますと・・?」
気を取り直して続きを促す私。
「今から2週間位前の話かな・・・。男子新入生が合宿に行く前の話だね。その時僕は君と初めて会った場所で焚火をして芋を焼いていたのさ。」
「はあ・・・お芋ですか・・?」
この先輩は2週間前もあそこで一人焼き芋をしていたと言う訳か。
「その時裏手で悲鳴が聞こえたんだよ。何事かと行って見れば地面に深い穴が空いていて、そこに彼女が落ちていたと言う訳さ。」
グラスを持つ手が震えてきた。やはり、ソフィーは小説通り落とし穴に落ちていたのか・・・。
「穴の底から覗き込んだら彼女が僕に向かって助け求めてきたんだ。仕方なく浮遊の魔法で彼女を穴の底から持ち上げて助けてあげたんだけどね。」
私は黙ってダニエル先輩の話を聞いていた。小説通りなら爵位の高い女生徒達が仕組んだ事になっているが、果たしてここの世界ではどうなっているのだろう・・・。
「足をすごく痛がっていたから見て見ると足首が腫れていたんだ。これまた仕方なく
医務室まで浮遊魔法で運んであげようとしたら、彼女何て言ったと思う?」
嫌そうに眉をしかめながらダニエル先輩はブランデーを一気飲みする。
「ソフィーは・・・何と言ったのですか?」
私もカクテルを飲みながら先を促した。
「抱き上げて、医務室まで運んでほしいって言ったんだよ?!この僕に!」
忌々し気にダンッ!と空になったグラスを置くダニエル先輩。カラン。グラスの中の氷が鳴る。
ヒ、ヒエエエエッ!初対面でいきなりダニエル先輩にそんな難易度?の高いセリフを言ってしまったの?ソフィーは。
だってこの小説の中のダニエル先輩は男性登場人物の中で一番ヒロインに対する好感度が低い人物なんだから。それが物語が進むことによって、徐々に心を開いていき・・ヒロインに対するジェシカの嫌がらせの証拠を掴みアラン王子に報告する。
最後、アラン王子とソフィーが互いに愛し合っている事実を知った時、『大好きだったよ』と初めて想いを伝えながらも、二人の事を祝福する・・・いわゆるツンデレタイプのキャラクターなのである。
イライラしながらまだダニエル先輩の話は続く。
「全く、彼女ときたら図々しいよ。穴に落ちたのだから当然制服だって汚れているよね?しかも白い制服だから当然汚れは目立つでしょ?抱き上げりしたら僕の制服だって汚れてしまうじゃないか。だから断ったら、『そんな、酷い。痛くて歩けないので抱き上げてください』って半泣きになるんだもの。仕方が無いから抱き上げて医務室へ運んで行ったよ。お陰で僕の制服は土汚れがついて、クリーニングに出したんだからね。ほんとに請求してやりたいぐらいだよ!」
益々ヒートアップしてくるダニエル先輩。バーテンを呼んで又注文。
「すみません、テキーラ一つ。」
「あ、では私にはソルティ・ドッグを。」
「ふ~ん・・・。君も中々飲むね。」
何故か楽しそうにニヤリとするダニエル先輩。
「ええ、そうですね。お酒、好きなので。そういう先輩もお酒好きじゃないなんて言いながらかなり強いじゃ無いですか。」
「僕がお酒を好きじゃないって言ったのは楽しい気分で飲めた事が無いからさ。」
ブスッとむくれたように言う先輩を見て思った。それなら今はさぞかし嫌な気分で飲んでるのだろうな・・・と。
「何?言いたい事があるなら言えば?」
あ、またしても心の中を読まれた気がする。
「先輩って、人の心を読むの得意みたいですね。」
「そうかもね・・・。よく言われる。だからかもね、親しかった人達がいつの間にか僕の側から離れていくのは。」
おや?何だか意味深な言葉を言う。そう言えばダニエル先輩は小説の中でいつも1人でいる描写で書いていたっけ・・・。成程、人の心を読むのが得意なので周囲から孤立してしまったのが孤独へと繋がったのか。自分で作った小説なのに、我ながら1人で納得してしまった。
「それでは、今もさぞかし嫌な気分で飲んでいるのでしょうね。ソフィーさんとの嫌な思い出の話をしているのですから。」
いつの間にか目の前に置かれていたカクテルを飲みながらダニエル先輩に言った。
「いや。それがそんなには嫌な気分で飲んでいる訳でも無いんだよね。もしかすると・・・一緒に飲んでる相手が君だからなのかなあ?」
不思議そうに首を傾げながらテキーラを飲むダニエル先輩。うん?何だか妙な事を言い始めた。私と一緒だから楽しい気分?多分先輩は酔いが回って来た為からおかしな台詞が出たのだろう。よく見れば、先輩の瞳は潤み、白い頬は赤みが増してきた。う~ん・・・。やっぱりこうしてみると美形だ・・・と、言うか美人だなあ。
「とにかく、その後医務室へ連れて行く途中、彼女は何て言ったと思う?」
再び話を元に戻す先輩。
「さあ・・・?何と言ったのですか?」
「彼女はね・・・ジェシカ・リッジウェイに落とし穴に突き落とされたと言ったんだよ。」
え・・・・?聞き間違いでは無いだろうか・・・?
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