第3章 7 婚約者がいるなんて

 その後も私とエマは強面生徒会長に様々な店へと連れ回されたが、意外な事に生徒会長は可愛い物系が好きなキャラだったので、可愛らしいティーカップや文具を扱っている雑貨屋さん、お洒落なかばん屋さん、クッションカバー等を取り扱ったインテリアショップ、おまけにアクセサリーショップまで案内してくれたのだ。

本当に変わった人だ。顔はイケメンだけど強面、性格は何だか一昔前の青春スポーツドラマに出てくるようなタイプなのに、何故か乙女チックな一面も持ち合わせている。ひょっとすると生徒会長は女の姉妹たちに囲まれて育ったのではないかと思い、聞いてみる事にした。


「ユリウス様、ひょっとしてご家族の中でお姉さんか妹さんがいらっしゃいますか?」


「どうした?何故急にそんなことを聞く?」


「いえ、少し気になったもので。」


「ええ、私も生徒会長の家族構成が気になりますわ。」


エマも私同様ひょっとして同じことを考えているのかも・・・・?


「俺は4人兄弟の長男だ。家族構成は父、母、そして3人の弟がいる。」


「あ・・・そうですか。」

なんだ、男の兄弟しかいないのか。


その時、夕方の5時を知らせる音楽が町中に鳴り響いてきた。


「ああ、もうそんな時間か。どうする?俺はそろそろ学院に戻らなければならないが・・。」


生徒会長は私たちを見ながら言った。ええ、ええ。どうぞお気になさらずお先に学院へ戻って下さい。そう言おうと思っていたのに・・。


「だからお前たちも学院へ戻るぞ。」


ええ?!何故そうなるの!私はこの後も町を散策し、お酒を飲んで帰ろうかと思っていたのに。これではあまりに横暴だ。思わず恨みがましい目つきで生徒会長を見る。


「何だ?何か言いたげだな?」


そんな私の視線に生徒会長は気が付いたようだ。


「ええ、まだ買いたい物も残っているので、どうぞ生徒会長は気になさらずにお帰り頂いて結構ですが?ね、エマさん。」


「はい、私もまだ買い物が残っているんです。婚約者にお土産を買って送りたいので。」


エマのまさかの爆弾発言だ。


「ええ?!エマさん、婚約者がいるの?!」


「何?そうなのか?!」


私と生徒会長は同時に声を上げてしまった。


「ええ。そうですよ。そんなに驚く事でしょうか?」


エマはきょとんとした顔をしている。そんな事言っても私と生徒会長が驚くのは無理も無い。大体、この学院に入学してくる学生たちは、まだ自分の未来の伴侶となる相手がいない男女が入学してくるものと相場が決まっているのだ。そして4年間の学院生活で大抵結婚相手を見つけるのである。中には学生結婚をして、夫婦専用の塔に住み、子供を育てている若い学生達だっている。


「な、何故お前は婚約者がいながらこの学院に入学してきたのだ?!理由を我々に聞かせてもらえないか?!いや、俺は生徒会長。聞く権利はある!」


出たよ、生徒会長の役者もどきが。それは特権乱用では無いですか?でも私自身も何故エマがこの学院にいるのかは大いなる謎を感じる。


「ええ、それは私には魔力があって、婚約者には魔力が無いのでこの学院には入れなかった。ただ、それだけの事です。」


確かにこの学院には魔力が無い人間は入る資格は無い。だからと言って魔力があるからと無理に入学を勧められる訳でもない。そういう場合は魔力が無くても入れる学校に入学すればいいだけの事なのだ。


「両親や婚約者から門を守る大切なお役目を果たせる学校に入学すべきだと言われて入ったの。でも、私の心は彼の物だから絶対にこの学院で別の男性を選ぶことは無いけどね。」


 うっとりするような眼つきで婚約者の事を語るエマ。本好きの大人しい女の子だとばかり思っていたのに、彼女にこんな顔をさせる婚約者とは一体・・・。


「きっと、すごく素敵な男性なんでしょうね。」

私は思った事を素直に口に出していた。


一方の生徒会長は何故かショックを受けたようでブツブツと口の中で何事が呟いている。


「エマに婚約者・・・4年間学院に通っている俺にだってそんな相手はいないのに・・・。」


ああ・・・やっぱりね。生徒会長ご愁傷様。でも何故自分に彼女が出来ないのか、その理由を自分で一度じっくり考えた方が良いかもね。


「お土産を選ぶなら、私も付き合います。それに私もまだ買い残したものがあるから。」


そうだった、うっかりしていた。私は今日この後グレイとルークにアラン王子のお見舞いに行くように頼まれていたんだっけ。


「え?そうなんですか?」


「ええ、この後アラン王子のお見舞いに行かないとならなくて。」


「何い?!ジェシカ!お前はアラン王子の見舞いに行くのか?!何故?何故なのだあ?!」


あ~うるさい。町中で大声で叫ぶのだけはやめてよね。


「仕方が無いんですよ・・・・。グレイとルークから本日アラン王子の面会に行くように頼まれてしまったのですから。」

私は心底嫌そうに言った。


「まあ・・・大変ですね。王子様のお見舞いなんて。気をつかってしまいそうです。」


「はい。でも仕方が無いの。命令だから・・・。」

別に強制された訳では無いが、グレイとルークが無理やりアラン王子に命令されているので気の毒に思い、行くだけの話である。


「そ、そうか。命令ならば仕方が無いな。では男性向けの商品が扱ってある店に案内しよう。こちらだ、ついて来い。」


先頭に立って歩く生徒会長。

へえ~女性向けのショップばかりチェックしている訳では無いようだ。


 生徒会長が案内してくれた店は主に男性をターゲットにした店だった。

店内にはレザー製品や男性向けのフレグランス商品などが並んでいる。

 

エマは散々悩んだ挙句、レザーで作られた財布を買った。

一方の私は・・・ん?何故たかだか見舞いに行くだけなのにこんな店に来ているのだろう?不意に疑問に思った。

だって、アラン王子って確かただの流感で療養病棟にいるだけだよね・・。


「一体、療養病棟に面会に行く時、男性には何を持って行けば良いのかな?」

思わず私は口に出していた。


「よし、それならこの俺に任せろ。」


何故か口を挟んでくる生徒会長。

「万年筆を渡せばよい!」


自信満々に言う生徒会長。

「あの・・・何故万年筆なのですか?」


「手紙を書く為に決まっているだろう?」


「手紙?誰に?」


「家族宛てに書くに決まっているだろう。」


「はあ・・・。」

もうこれ以上追及しても参考になる回答は得られそうに無かった。仕方ない、生徒会長の言う通り、無難な万年筆を選ぶと一応?ラッピングをしてもらった。

さて、買い物も済んだし学院に戻る事にしよう。


 町の外れにある門へ行くと、まだ門の輝きは光り輝いている。この光が続くのは後約4時間。そう言えばあの後マリウス達はどうしたのだろうか?


 光り輝く門を私たちは通り抜けた。


「よし、それではお前たち、またな。今日は1日楽しかったぞ。」


・・・やっぱり生徒会長、貴方が楽しみたかったのですね・・・。納得。

その後私はエマと別れると1人、療養病棟へと向かった。

療養病棟は医務室が入っている棟と同じである。受付でアラン王子の面会について尋ねると、やはり話はもう届いているらしく、アラン王子がいる部屋番号を教えて貰った。

はあ・・。何故私が俺様王子のいる療養病棟に面会に来なければならないのだろう。


 足取りも重く、私はアラン王子の部屋の前まで来るとドアをノックした。

私が返事をするまでも無く、すぐに返事が返ってきた。


「もしかしてジェシカか?!」


「はい、私ですが。」


「早く部屋の中へ入って来てくれ。」


「はい、失礼します・・・。」

私はドアを開けて室内に入ると、そこにはニコニコと笑顔でベッドの上にいるアラン王子がいた。














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