第3章 8 スイートルームで甘い時間?

 「はい、失礼します・・・。」

部屋の扉を開けてびっくり。何?!この部屋は。だだっ広い部屋に高い天井、大きな窓からは夕暮れの空が見え、床には上品なカーペットが敷き詰められている。

部屋のかしこにはこれまた豪華な調度品が備え付けられ、さながら豪華スイートホテル並みの部屋だった。

この学院てこんな豪華な療養病室があったの?いや、それとも王族だから特別にあしらえた部屋なのか・・・?

唖然と辺りを見渡していると、上質なガウンに身を包んだアラン王子がニコニコしながら声をかけてきた。


「どうしたんだ?そんな部屋の入り口に立っていないでこちらへ来たらどうだ?」


「は、はい・・・。」

私はアラン王子のいるベッドの約1m手前まできて止まった。


「?何故そんな中途半端な場所にいるのだ?」


不思議そうな顔で私を見るアラン王子。ええ、ええ。貴方は気付いていないでしょうけど、その王子様オーラに押されて近寄れないんですよ。


「ほら、もっと側に来い。話も出来ないじゃないか。あ、成程そうか、椅子が無いからなのか?ではソファ席へ移動しよう。」


私が何か言う前にアラン王子は勝ってにしゃべり、ベッドから降りるといきなり私の手を握りソファ席へと移動した。


「さあ、座れ。」


これまた立派なレザーの3人掛けのソファに座ると、何故かアラン王子は自分の隣の空いてる場所をポンポンと叩いた。あの~もしや隣に座れとおっしゃっているのでしょうか・・・?

私は無視を決め込み、アラン王子とテーブルを挟んだ向かい側の1人掛けソファに座る。

「失礼致します。」

私が座ると何故かアラン王子の舌打ちするような・・・?音が聞こえた。


「今日は入学して初めての休暇だったな?俺が流感にかかってしまい、一緒に町へ行く事が出来なくてすまなかった。折角ジェシカが楽しみにしていたのに悪かったな。」


ん?その言い方はまるで私がアラン王子との外出を残念がっているように聞こえるけど・・・?私が黙っていると更にアラン王子の話は続く。


「ここ数日、俺に会えなくて寂しかっただろう?でも流感は大したことは無かったし週明けにはまた授業に出る事が出来るからな?」


そして爽やかな王子様笑顔でほほ笑む。


「はあ・・・左様でございますか・・。」

流石俺様王子、思い込みが激しすぎる。恐らく自分は万人に好かれて当然という育ち方をしてきたのであろう。


「ところで、ジェシカ。今まで制服姿しか見たことが無かったが、その私服姿・・・すごくいいな。やはりお前はどんな衣装を着ても良く似合う。」


少しだけ頬を赤らめて笑う王子。

くう・・・。流石王子、女性の心理も良く勉強されていると見える。どんな表情で誉め言葉を言えば良いのか心得ている様だ。さては王宮で女性の心を掴む方法を誰かから学んだな?思わずこの私ですら不覚にも胸がときめいてしまったのだから。


「あの、アラン王子。実はお見舞いの品を持ってきたのですが・・・よろしければ受け取って頂けますか?」


私は手に持っていたバックからラッピングされた万年筆をテーブルの前に置いた。


「ジェシカからのプレゼントか・・・?!」


アラン王子は目を輝かせながら私と品物を見比べている。いえ、ですからそちらの品物はプレゼントではなくお見舞いの品です。


「開けてみてもいいだろうか?」


「はい、どうぞ。アラン王子への御品物ですので。」


アラン王子は子供の様にわくわくしながら包み紙を開けている。妙に子供っぽい所もあるんだな。その姿を見れば、まだ18歳のあどけなさが残っている。


「おおっ!これは素晴らしい!」


アラン王子はケースから万年筆を取り出すと大袈裟なくらいに感動している。


「すみません、どのような品を選べば良いのか分からず万年筆を選んでしまいました。」

生徒会長のお墨付きでね。


「何を言ってるんだ?これで手紙を書く事が出来る。」


はい?手紙?何やらデジャブを感じる。


「お手紙・・・ですか?どなたにですか?」


「家族に書くに決まっているだろう?」


 まさか生徒会長と同じ回答が返って来るとは思わなかった。そうか、この世界には

PCも携帯もタブレットも存在しない世界、当然メールは出来っこない。だから手紙を家族に書いているのか。


「それにしても、俺の従者からどうしてもジェシカがお見舞いに来たいと言ってると話を聞いたときは感動した。それ程この俺に会いたかったのだろう?」


はい?聞き間違いじゃないよね?私がいつアラン王子にお見舞いに行きたいと言う話になっているのだろう?


「あの、アラン王子。その話はグレイとルークから聞いたのでしょうか?」


私の言葉にアラン王子はピクリと反応した。


「グレイにルークだと・・・・?」


「はい、アラン王子の従者の方のお名前ですよね?」


「何故ジェシカが二人の名前を知っているのだ?」


「え?クラスメイトですし、何よりお二人とはお友達になりましたから。」


「あいつら、いつの間に・・・。」


何故だかアラン王子から怒りのオーラが噴出してきているような・・?


「あの・・?どうされましたか?また具合でも悪くなってしまいましたか?」


だったら私は御暇しますよと言うつもりだったのに・・・。


「いや、全く体調に問題はない。そうだ、ジェシカ。甘いものは好きか?実は俺への差し入れとして、沢山甘い菓子を貰ってあるのだ。少し待っていろ。」


アラン王子は手元にあるベルを鳴らすと、どこから湧いて出てきたのか大勢の執事?が現れて、次々とテーブルに甘いお菓子を並べていく。3段重ねのケーキスタンドに乗せたプチケーキ。皿にカットした山盛りのフルーツ、紅茶にビスケット等々・・。

甘いもの好きの生徒会長がこの場にいたら泣いて喜んでいるだろう。

でも悲しいかな、私はそれ程甘いものが好きでは無い。女のくせにと言われても人にはそれぞれ好き嫌いがあるのだから。それに女子は全員スイーツ好きと思われるのが何より嫌だった。


「アラン王子・・・あの、これは・・?」

私は顔面蒼白になりながらも何とか作り笑いをしてテーブルに並べられたスイーツを指さした。


「どうだ?女性は甘い物が大好きだろう?好きなだけ食べていくといい。」


いえ!結構です。こんなに甘い食べ物の山、見ているだけで胃もたれを起こしそうです。等とはいえず。


「あ、あの。どうかお気になさらないで下さい。もうすぐ夕食の時間ですし、これ程の甘いお菓子を食べてしまうと食事を取れなくなってしまいますので。」

よし、さり気なく断ったし今日はもう帰ろう。

ところが・・。


「ほら、遠慮はするな。どれがいいんだ?何なら食べさせてやろうか?選べ。」


アラン王子はウキウキしながら言っている。・・完全に楽しんでいるな・・・。

私は甘いカクテルは好きですが、スイーツは好きではありませんと、この際白状してしまおうか・・・。

その時、ふと大粒のチョコレートが目に入った。


「アラン王子、こちらは何の食べ物ですか?」


「ああ、それはウィスキーボンボンだ。かなり度数の強いアルコールがはいってるようだが・・。」


「ではこちらを頂きます。」


私は皿にウィスキーボンボンを取ると、口に入れた。

何、これ。美味しい~。ビターチョコの中に芳醇な香りのブランデーが入っていて、チョコレートとの相性は抜群だ。うん、これならいける。

私が笑顔でウィスキーボンボンを口にしているとアラン王子はふっと笑った。


「何だ?そんなにこのチョコが気に入ったのか?こんなのでよければまだ沢山あるから持って帰るか?」


「はい、是非お願いします!」

すごい!さすが王子、太っ腹だ!


「その代わり・・・。」


アラン王子は何か含みを持たせるように言った。


「今夜のディナーは2人きりでここで食事を取る事だ。」















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