第3章 6 生徒会長のお勧めランチ

 結局、私がブティックから攫われて助け出されたのは2時間後だった。

救出劇後、生徒会長は店に連絡してくれて、ようやくエマやマリウス達に再会出来た。


「お、お嬢様!ご無事で何よりです。本当に申し訳ございませんでした。私が目を離したばかりに・・。」


「すまん、ジェシカ。俺がこいつらに変な競争を持ちかけたせいで、怖い目に合わせてしまったんだよな?本当に悪かった。」


「ごめん。まさかアイツがまだお前を諦めていなかったなんて思いもしなかったんだ・・・。」


マリウス、グレイ、ルークが次々と私に謝ってくるが、私以上に怒っていたのが意外な事にエマだった。

エマは自分の目の前で私がノアに連れ去られるのを見て相当パニックを起こしたらしく、必死でマリウス達を探したそうだ。


「全く、貴方がたって本当に頼りにならないですね!いいですか?ジェシカさんはずっとノア様に狙われていたわけですよね?それを知っていてどうして1人きりにさせたのですか?本当にあり得ない話ですよ!」


 私はエマの勇ましい姿に正直言って驚いた、と同時に本当に私の事を心配してくれていたのだと思うと嬉しかった。

3人はエマに最もな事を言われて、かなり落ち込んでいるのが目に見えて分かった。

私自身、彼等に文句の一つも言ってやりたいところだったが、エマが代わりに怒ってくれたので良しとしよう。


「エマの言う通りだ。お前たち、大の男3人も揃っていて何故ジェシカをあのような目に合わせたのだ。もう、お前たちにはジェシカの面倒を見させるわけにはいかない。今から俺がジェシカに付いて歩く事にする。エマ、君も一緒に行こう。」


生徒会長は当然だと言わんばかりに私の方を向いて言う。


「「「ええッ?!」」」


男3人は情けない声を揃えて驚いている。それはこちらだって同じだ。

何?今何て言ったの?この生徒会長は。何が悲しくて今度は強面男の生徒会長と一緒に行動しなくてはならない訳?って言うか貴方、連行されたノア先輩に付いて行かなくていいのですか?生徒会長なら仕事しろよ!私は心の中で思い切り毒づいた。


「え?でもそれは・・・。」


エマがそこで言い淀む。うん、お願い!生徒会長を説得して!ノア先輩も連れ去られた事だし、もう危険はないよねえ?私は出来ればエマと二人で町巡りをしたい!


「女2人だけでは危険が伴うかもしれない。それに俺は生徒会長。生徒の身を守るのも俺の仕事だ。」


・・・なんか最もらしい台詞を言ってらっしゃいますけど!本当は仕事さぼりたいだけなんじゃないの?って言うか助けておいて貰ってなんだけど、どうしてこの生徒会長はいつも私に構うの?お願いだから放って置いて下さい。


「はい・・・。分かりました・・。」


エマは不承不承、承諾してしまう。え?今の生徒会長の言葉で納得しちゃうの?


「生徒会長はジェシカさんを助けて下さった方ですから、あの方達よりは頼りになりますしね。」


にっこり笑いながら、さり気なく毒を吐くエマ。そして、言葉に詰まる男3人。

・・・私は随分頼りがいのある友人をゲットする事が出来たようだ。


「ほら、分かったら行った、行った。」


生徒会長は、まるで犬でも追い払うような手つきでマリウス達を追いやった。

男3人、何か言いたげだったがやがて、背中を向けてすごすごと去って行く。

う~ん・・・。男の3人連れ・・中々シュールな光景だ。


 マリウス達が去るのを見届けると生徒会長はクルリと私たちの方に向き直って言った。


「さあ、2人とも。何処に行きたい?俺はこの町の事なら知り尽くしている。好きな場所へ連れて行ってやるぞ?何、生徒会長だからと言って遠慮する事は無い。」


いえ、遠慮するどころか、本当は付いてこられるのを遠慮したいのですが・・・とは言えず、こうして息の詰まるような町巡りが再開された。



「2人とも、そう言えばお腹は空いていないか?あの騒ぎで昼食どころでは無かっただろう?」


言われてみればお腹が空いたなー。腕時計を見れば時刻は午後2時。とっくにお昼の時間を過ぎている。


「そうですね。お腹が空きました。何か食べたいです。」


私が言うとエマも賛同した。


「ええ、私も食事にしたいです。」


「よし、それなら良い店を知ってる。2人ともついて来い」


 え?何食べたいか聞いてくれないんですか?そこは普通どんな物が食べたいか聞いてくれてもいいんじゃないの?

しかし、得意げに前を歩く生徒会長の前ではとても私たちは言い出せず・・仕方が無くついて行く事にした。 


 歩く事約10分。

生徒会長は大通りに面したある1軒の店の前で足を止めた。


「さあ、この店だ!」


私とエマは店の看板を見上げた。店の看板には可愛らしい動物のイラストやらスイーツの絵がふんだんに描かれている。


「あの・・・。こちらはどのような店なのでしょうか・・?」


エマが恐る恐る聞いてきた。あ、顔がひきつってるよ。うん、分かる分かる。


「ああ。よく聞いてくれたな。ずばりこの店は『アニマルスイーツカフェ』だ!」


「アニマル・・スイーツカフェ・・・?」


店の名前を復唱したエマ。あ、何だか顔が青ざめてるよ。それはそうだろう。実は生徒会長はその強面とは想像もつかない、乙女チックな一面があるなんて事を―!


「生徒会長・・もとい、ユリウス様。もしや今日のお昼はこちらで・・・?」

私は白けた目で生徒会長を見た。


「ああ、当然だ。ガイドブックによるとこの店の一押しはフワフワの3段重ねのパンケーキに生クリームたっぷりのチョコがけソースが人気メニューらしい。セットにするとアニマル柄の可愛らしいクッキーとホットココアが付いて来るそうだ。」


自慢気に言う。あ、聞いてるだけで甘いものだらけで胃もたれを起こしそうだ。言っておくが私は甘いものは嫌いでは無いが、それ程好きでもない。仮にケーキと御煎餅を選べと言われたら迷わず御煎餅を選ぶだろう。

何が悲しくて昼食にそんな糖分たっぷりのスイーツを食べなくてはならないのか・・。


エマも私と同様、嫌そうな顔をしているが相手は生徒会長と言う事で気を使っているのだろう。


「そ、それでは一応中に入ってみましょうか・・・?」


エマがそう言うならこちらも嫌とは言えない。仕方が無い。私は一番最後に店内に足を踏み入れた。


 やっぱりだ、予想通り男性はこの店に生徒会長を除き、誰一人としていない。

気づまりしないのだろうか?それなのに当の本人は全く気にする素振りも無く楽しそうにメニューを開いてにらめっこしている。


「う~ん・・・どれも迷う。本日のおすすめスイーツセットか、スペシャルスイーツAセットか・・。」


私は溜息をつくと渋々メニューを開いた。

・・・おや?スイーツ以外もあるじゃないの。メニューの下の段にはパスタ料理が書いてある。私は取りあえず一番無難そうなミートソースパスタを選んだ。

エマはと言うと、シーフードパスタをチョイスしたようだ。



「・・・何故だ?何故お前たちはスイーツカフェに来ていながら、スイーツを食べないのだ?!いいか?店には店の流儀と言う物がある。その店の一押しメニューを注文するのが筋なのだ!」


私とエマの頼んだパスタがテーブルに届くなり、また何か訳の分からない台詞を言いだす生徒会長。


もう、いい加減その芝居じみた行動するのは止めにして欲しい。一緒にいるこっちが恥ずかしい。ほら、あのテーブル席の人達、こっちを見て笑いを堪えているよ・・。


 エマも飛んだ災難だったね。ごめんなさい、こんな変な生徒会長に妙に私が懐かれてしまったばかりに。

私は心の中でエマに謝罪した・・・。






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