第3章 4 初めての女友達
ルークとマリウスは2人でいがみ合っていたが、私が新しく着替えた姿を見てすぐに言い争いをやめた。
「ああ、お嬢様。すごく良くお似合いです!邸宅にいた頃の胸元が大きく開き、身体のラインを強調するかのようなきわどいドレスもお似合いでしたが、そのように清楚な洋服もとてもお似合いです。またお嬢様の新たな一面をこの目で見る事が出来て、私は本当に幸せ者です。」
・・・毎度の事ながら、いちいちマリウスの誉め言葉が何故か引っかかるので素直に喜べない。本人にしてみれば最大の賛辞の言葉を送ってるつもりなのだろうが、もう少し女心と言う物を理解出来ないと恋人なんか見つからないよ。私は心の中で忠告した。
「ジェシカ・・・。お前の制服姿以外の恰好初めて見るけど・・うん。すごく良く似合ってるよ。何と言うか・・・可愛い・・。」
グレイの言葉に思わず不覚にも少し顔が赤らむ私。そう、こういう胸キュンな言葉が一番女性の心をくすぐるのだ。やっぱりグレイはマリウスよりもずっとまともだ。
「あ、ありがとう。」
思わず声が上ずって見つめ合うグレイと私。そこへルークも声をかけてきた。
「今度は・・俺にもお前の服、選ばせて貰えないか?お前にぴったりの服、見つけるから。」
おおっ!ルークも中々言ってくれるじゃない。そこで私も笑顔で答える。
「うん、それじゃ次の店ではルークに選んでもらおうかな?」
よし、今のところ女性を褒める点数は
1位 グレイ 90点
2位 ルーク 75点
3位 マリウス -5点
こんな所だろうか。マリウスは私が露出の激しい服を嫌っているくせにお似合いだと言ったのだから、マイナス点をつけてやった。
「それではお嬢様。残りのドレスも処分なさりたいと言う事でしたよね?また別のお店を探しに参りましょうか?」
マリウスは自分が女性褒め言葉選手権?でマイナス点を取った事等、つゆほども知らないであろう・・・。
その後も4人でブティック巡りをして、全ての衣装を処分し終えた。
そして今、私達はこの町一番の大きなブティック店に来ている。
「それじゃ、いいか?全員でこれから制限時間1時間でジェシカに似合う服を選んで持って来るんだからな?」
グレイはマリウスとルークに説明している。
「ええ、でも当然勝つのは私です。何故なら10年間もジェシカお嬢様の御側にいたのですから。」
「最初に言い出したのは俺なのに、何故こんな事になったんだ・・・?」
ルークは頭を抱えている。うん、うん。私もそう思うよ。でも1時間は1人の時間を持てるのだ。私も自分でゆっくりと洋服選びを出来そうだ。
「いいか?集合場所は今いるここだ?それじゃ行くぞ!」
「望むところです!」
何故か燃えているグレイとマリウス。そして1人どこか冷めたようなルーク。
「Go!」
グレイの掛け声とともに一斉にいなくなる男3人。はいはい、頑張ってね。行ってらっしゃ~い。さて、私も自分の洋服を選びに行きましょうか・・・。
この店は町一番の大きなブティックだけあって、大勢の同じ学院の女生徒達が楽し気に買い物をしている。う~ん・・。考えてみれば私ってまだ親しい同性の友達っていないんだよね。何故か周りにいるのは男性達ばかりだ。当初、この世界に来てしまった時には誰とも関わり合いたくないと思っていたが、やはり慣れてくれば日本にいた時のような女子会だってやってみたい。考えてみれば、物語に関係ないモブキャラ達と交流すれば何も問題は無いのでは・・・?
そう思って周囲を見渡せば、おあつらえ向きに大人しそうな少女が1人で洋服を選んでいる姿を発見した。あ、あの女の子は見たことがある。確か同じクラスの女生徒だ。
眼鏡をかけ、チョコレート色の巻き毛の少女でいつも本を持ち歩き、1人で行動していたので、実は気にかけていたのである。
見た所、今も1人ぼっちのようだ。・・・どうしよう。声をかけてみようか?
だけどある意味私は有名人。いきなり声をかけて嫌がられたりしないか・・・。
何だか、これではまるで女子学生が好きな男子学生にラブレターを渡すかどうか悩んでいるシチュエーションのようでは無いか。
・・やっぱりやめておこう。諦めて自分の洋服選びをしていると突然声をかけられた。
「こ、こんにちは。あの・・・リッジウェイさんですよね?」
「え?」
驚いて声をかけると先程私が発見した女生徒だった。
「あ、す・すみません!突然お声をかけてしまって・・・。あの、私は同じクラスの・・。」
慌てた様子の女生徒、でも大丈夫。私は名前を知っている。
「ええ。確か・・・『エマ・フォスター』さん。」
やった!彼女の方から声をかけてきた!私は内心の嬉しさを隠し、挨拶を返した。
「え?私の名前ご存じだったのですか?!」
「はい。クラスメイトの名前は全員おぼえております。」
う~ん・・・やはり上流階級の話し言葉は苦手だ。
「あの・・・実は私まだ学院でお友達が出来なくて、それで周りから人望のあるリッジウェイさんとお友達になれればなあと思って・・。」
ん、人望?誰の話?私にあるのは人望では無く、周囲から目立ちたくないと願う願望だけだ。私がポカンとしていると、更にエマは言葉を続ける。
「リッジウェイさんて。勉強は出来るし、いつも御側に置かれているマリウス様や、アラン王子様にも毅然とした態度を取られている・・・そのお姿に憧れているんです。私はこの通り、地味で目立たない女ですから・・・。リッジウェイさんは私の憧れなんです。」
何?このエマって娘は私の事をそんな目で見ていたの?生憎それは毅然とした態度では無く、拒絶をしているだけなんだけど?そうか・・・傍から見れば私ってそんな風に見えるのか。
「だから、リッジウェイさんさえよければ、私とお友達に・・・。」
「それじゃ、これからは私の事リッジウェイでは無く、ジェシカって呼んでくれる?私も貴女の事エマと呼ばせて下さい。」
「え・・・?」
エマは私の突然の豹変ぶりに目をパチクリさせていたが、やがて楽しそうに声を上げて笑い出した。
「プッ。やだ・・・ジェシカさんて本当はそんな性格だったんですね・・・。」
「幻滅しましたか?」
「いいえ、むしろ安心しました。でもこんな私を友達にしてくれてありがとうございます。」
「だって私も実はエマさんと友達になりたいって思っていたんですよ。」
私は右手を差し出すと言った。
「これからよろしくね?エマさん。」
そして私たちはしっかり握手を交わした―。
「ええ~それじゃ3人ともジェシカさんの服を選びに行ってしまったのですか?」
私達はブティック内にあるベンチに座って話をしていた。
「そうなんです。勝手に話を進めて、皆して勝手に何処かへ行っちゃって。本当は洋服選びなんて女の子と一緒に選びたいのに。嫌になりますよ。」
「それじゃあ、2人で一緒に洋服選びませんか。」
うん、やっぱりそれが一番だね。私はエマの提案に乗った。
「うん、そうしましょ。」
私とエマはベンチから立ち上がり、互いに洋服を見て回る事にした。
2人で店内を見て回っていると、この世界では珍しいフレアパンツの洋服が目に留まった。
「ねえねえ。見てエマさん。この洋服・・。」
私はエマに声をかけたその時、何故か振り向いたエマが私を見て顔色を変えた。
「え・・?」
私も自分の背後に人の気配を感じたので、振り向くとそこに立っていたのはノア・シンプソンだった。
彼は冷たい笑顔を見せると、胸元から小さな小瓶の容器を取り出し、自分の口元をハンカチで押さえた後に私の顔にスプレーを吹き付けた。
途端に襲って来る激しい眠気・・・。何やらエマが騒いでいる声を遠くに感じながら、私の意識は暗転した—。
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