第3章 3 気の合う?二人

大勢の学生達が校舎裏に設置されている巨大門に集まり始めた。門は神秘的な模様が描かれ、青く光輝いている。この輝きが失われる迄が自由に往き来出来る仕組みになっているのだ。うん、我ながらよく出来た設定だなあ・・・。原作者の私は心の中でほくそ笑んだ。でも実際、この目で門を見ると、本当に感激だ。だってずっと頭の中で考えていたイメージとぴったりなのだから。


 この学院の門の管理者が学生達に言っている。

「ではこれより門を開閉する。学生諸君はくれぐれもこの門の輝きが失われる迄に学院に戻るように。間に合わなければ自力で学院迄戻って来なければならないので、その事を念頭に置いて行動するように。」

そして、門は開かれた―。


 町は賑わいを見せていた。この小説の作者でありながら、私は初めて見るファンタジー世界の町に大興奮していた。

 綺麗に敷き詰められた煉瓦の道、町の中を馬車やレトロカーが行き交い、広場には大きな噴水があり、周辺のマルシェでは美味しそうな食材が売られている。

どれもこれもが物珍しく、私は大興奮していた。


「ねえ、ねえ、あの店は何の店なの?」


「あれは魔法薬を売ってる店ですよ。」


「あ、あの店は?」


「ハハッ!お前、本当に食べ物に目が無いんだな。あれは焼いた肉を薄く焼いた塩の生地で包んだ食べ物ですごく旨いんだぞ。そうだ、お昼はあれを食べてみないか?」


笑いながら言うグレイ。


「お言葉ですが、お嬢様には私が作った昼食を用意してありますので、本日はそちらを召し上がっていただく予定です。」


その直後、マリウスが言う。


「俺はジェシカに話してるんだよ。」


互いに睨みあうマリウスとグレイ。


「あ、あの瓶に入った奇麗な飲み物は?」


「あれはこの地域で採れる果実から造られた酒で町の特産品なんだ。後で土産として買って行くか?」


照れた様に私に言うルーク。


「お嬢様のガイドは私の役目です!」


「ルーク、抜け駆けするな!」


もう大騒ぎである。私はため息を付いた。ああ・・・1人で町を周りたいと。



 結局、私の荷物はマリウス、グレイ、ルークの3人が現在持っている。

これはグレイの提案で、私の荷物は誰かが私と2人きりになれないようにする為の保険?のような物だとか・・・。まあ、その荷物が無ければ、売りに出して、私の新しい服を買えないわけで・・・。でも何が何だか、もうよく分からない。


 とりあえず、私達はブティックを探す事にした。


「お嬢様、どのような服をご所望なのですか?」


「う~ん・・・。取りあえずは露出が少ない洋服がいいかな?今着てる服だって何だか全体がスースーして落ち着かなくて。」


「お、おい!お前、一体どんな服着てるんだよ?!」


慌てたように言うグレイ。


「それ・・・言わなきゃダメかなあ?」


「い、いや。言うな!言わなくていい!」


そんな私をルークは顔を真っ赤にして止める。うん、やっぱりこのメンバーの中に

ルークがいて正解だった。


 女性向けブティックを探す事数分。白いレンガ造りで赤い屋根の建物を発見。

窓ガラス越しにはマネキンにかかった女性向けの洋服が着せられている。


「ジェシカ。あの店がそうじゃないか?」


グレイが指さして言う。


「確かにそうですね。ではお二人とも、ジェシカお嬢様の荷物をお預かりします。後は私がお嬢様と行動しますから、どうかお二人はご自由に町を楽しんでください。」


マリウスはグレイとルークに言った。


「は?何でだよ。元々は俺達がジェシカと町へ行く約束をしていたんだぞ?!」


グレイはマリウスを睨み付けた。


「ああ、確かに俺達は約束しているな。」


物言いは穏やかだが、強い口調で言うルーク。


「何をおっしゃってるのですか?元々はお嬢様から剣の練習試合の時にアラン王子に私が勝てたら一緒に町へ行こうと誘われていたのですよ。」


言われてみれば確かにそうだったっけ。でもつい最近の事なのに余りにも多くの出来事があったので随分昔の事のように感じる。・・・つまり忘れていたって事なんだけど。


「でも引き分けだった。だからその約束は無効のはずだ。それにナターシャとか言う女とも一緒に出掛ける約束をしていたようだしな・・・。」


ルークは昨晩の恨みでもあるのか、迫力ある言い方をした。さあどうするマリウス?

今完全に二人にやりこめられているよネ?


「・・・分かりました。仕方が無い方々ですね。そこまでおっしゃるならご一緒に行動致しましょうか?」


「だから、お前が仕切るなっ!」


グレイはイライラした様子でマリウスに言った。うんうん、分かるよグレイ。私も普段からどれだけマリウスにはイライラさせられているか・・・。

あ~それにしてもいつまでこんな事続けるんだろう。これじゃ時間ばかりかかって、少しも目的を果たせないよ・・・。

そこへルークに肩を叩かれた。


「あいつらの事は放っておいて、先に中へ入っていようか?」


おおっ、それはナイスな提案。

「うん。そうしよう。」

そして私とルークはいがみ合っているマリウスとグレイを残して、ブティックの中へと入って行った。



「とりあえず、まずはこちらの洋服の査定をお願い出来ますか?」

店に入った私は女性定員の前でカウンターに自分が持参した大量の衣装を置いた。


「はい、査定いたしますね・・・。」

店員は一つずつ丁寧にチェックしていく。でもきっと問題は無いだろう。恐らくこれらの衣装は全て一度も手を通したことが無く、しかも新品のはずだから。


まるで水着のような衣装に下着が見えてしまうのではないかと思われるようなギリギリのラインのワンピース。どちらが前か後ろか分からないようなきわどいデザインの衣装・・・等々。

初心?なルークは店員が衣装を広げて点検するたびに、真っ赤な顔をして目のやり場に困ったような表情をしている。

う~ん・・・やっぱり男性には刺激の強すぎる衣装ばかりなんだと改めて納得。


 十数分後、査定が完了。


「はい、お客様がお持ちになられた衣類はこちらの金額でご提示させて頂きたいと思いますがいかがでしょうか?」


女性定員が提示して来た金額を見て私は驚いた。日本円に直すと30万円以上にはなる。こ、これは凄い・・・。やはりジェシカは紛れもない侯爵令嬢だ・・・! 

一緒にいるルークも驚いたようにその金額を見ていた。うん、よし決めた。売りに出そう!


「すみません、では全て買取でお願いします。それで・・・今町で一般的な女性が着る洋服を選んで頂きたいのですが・・・。」


遠慮がちに言うと、女性店員は嬉しそうにニコリと笑った。


「ええ。喜んで。」


・・・約10分後。私は女性定員が選んでくれた洋服を着てルークの前に立っていた。

「どう?似合う?」

私が今着ている服は襟元にフリルが付き、袖がふっくらした真っ白のブラウスに赤いベスト、そして同色系の赤いフレア―スカートを着用している。ベストとスカートに施された青や金色で刺繍された花の模様が美しい。


「ああ・・。すごく良く似合っている・・。」

照れたように言うルークの姿を見て、ついつい可愛いと思ってしまう精神年齢25歳の私です。


 他にも10点程店員に衣類を選んでもらい、お会計を済ませてブティックを出ると未だに揉めているマリウスとルークの姿がそこにあった。


「なーに?まだ二人して揉めていたの?ひょっとして二人は凄く仲が良いんじゃないの?」

からかうように言う私に二人は言った。


「絶対にそんなことはありません!」

「絶対にそんなことは無い!」


途中まで見事にはもった二人。やっぱり仲が良いのだと私は思った。







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