第3章 2 休日の幕開け
ううう~。この男・・・本気で踏みつけてやりたい!だけどそんな事をすれば益々マリウスを喜ばせるだけだ。絶対に喜ばせてなどやるものか。
イライラする気持ちを押さえながら私は持っていた重たい紙バッグ2つをマリウスに押し付けた。
「マリウス、今日町へ出るからこの紙バッグ2つ持って頂戴ね。」
「ええ、それは構いませんが・・・一体何が入っているのですか?」
「洋服よ・・・。」
私は面白くなさそうに返事をした。
「どれもこれも気に入らない服ばかりだから、この際町で全部売って、もっとラフな感じの洋服を買おうかと思ってるんだ。後ろ前も開いて無くて、スカート丈はもっと長い服をね。あんな露出の激しいの、恥ずかしくて着れたものじゃないから。」
「ええええっ!」
それを聞いたマリウスは大袈裟なほど驚いた。何よ、そこ。そんなに驚く事なの?
「し・・・信じられません!誰よりも露出の激しい服ばかり着ていた貴女が!制服で使用されている布地の約半分以下という非常に少ない布地で作られた服ばかりを好まれていたジェシカお嬢様が!普通の町娘のような洋服を欲しがるなんて・・・・!」
「・・・・。」
私は言葉を無くして聞いていた。そうか、でもやはりジェシカはそんな服ばかり着ていたのね。これじゃあ外見だけで悪女と言われても仕方が無いかもしれない・・。
「あ、お嬢様。それで先程からそのようなマントを身に付けられていたのですね?」
そう、実は私は膝下まで隠れるボタン止めのマントを見つけたので、今はジェシカの服の上からそれを羽織っているのである。多少違和感があるかもしれないが、露出の激しい姿を見られるよりもずっとマシだ。
どうもマリウスは私が最初に設定した「記憶喪失」と言う設定を忘れている様だ。
なので再確認させる。
「いい、マリウス。私以前にも話したと思うけど、今は記憶喪失なの。だから性格まで多分以前とは変わってしまっているの。だから当然趣味や趣向も変わってしまっているのだから、それを踏まえて今後は私に接してくれないと駄目だからね!」
「はい、承知致しました。では、ジェシカ様。そちらのお荷物も一緒にお持ちしますよ。」
マリウスは私の返事も聞かずに紙バッグを手に取った。最終的に4つの紙バッグを持つ事になったのだが、マリウスは涼しい顔をしている。
「ねえ・・・。重くないの?」
「いえ、全然。こんなの重いうちに入りませんよ。」
マリウスは笑顔で答える。そうだ、そう言えばマリウスの趣味は身体を鍛える事。身体は細身なのに、実は筋肉で鍛え上げられている。いわゆる細マッチョという体型なのだ。それに剣術の腕も凄いし、魔力も強く、イケメンだ。これであのような変態的思考の持ち主で無ければ完璧なのに・・・。残念で仕方無い。
「そう言えば・・・。」
おもむろにマリウスが口を開いた。
「何?」
「いえ、実は今朝突然にナターシャ様からの伝言で本日の外出はご一緒出来なくなりました。申し訳ございません、とメッセージが届いたのですよ。一体何があったのやら・・・。」
考え込むマリウス。あ、この能天気男を見ていたらまた怒りが込み上げてきた。大体貴方のせいで昨夜私がどれだけ大変な目に遭ったと思っているの?危うくこちらは貞操の危機に遭いそうになったんだからね?!しかも無関係なルークまで巻き込んで・・・。そもそもこの男が優柔不断な態度をナターシャに取りさえしなければ、こんな事にはならなかったのだ・・・!
どすッ!!
私は無言でマリウスの足をかかとで踏みつけた。
「お・・・お嬢様・・?い、一体何を・・・?」
おや?どうも靴のかかと部分が痛みのツボに命中したようだ。半分涙目になってこちらを見るマリウス。
「あーら、ごめんね。まさかそこにマリウスの足があるとは思わなくて・・・。」
オホホホと言ってごまかす私。ふふん、どうよ?これで少しは懲りたんじゃないの?
けれどマリウスはボ~ッと顔を赤らめて私の事を何か言いたげに見つめるばかり。
返って喜ばせるだけになってしまった。あ~いやだいやだ。もうこんな不毛な事やるのやめよう
その時、ふと強い視線を感じた。何だろう?私はその視線の持ち主を探した。
すると、その視線の持ち主はナターシャに腕を絡み取られたノア先輩だったのだ。
意味深にこちらを見る彼、纏わりつくような視線にゾッとする。
私は思わずマリウスの腕にしがみ付くと、ますますノア先輩の鋭い視線を感じた。
ノア先輩は約束を守ってくれたけど、私にまだまだ執着心を持っているようだ。
怖い―。絶対に今日町で一人にならないようにしなくては・・・。
「お・・お嬢様?どうされたのですか?何時ものお嬢様らしくないですね。でも・・こんな風に私を頼ってくれるお嬢様も大変好ましいですけど。」
照れた風に笑うマリウス。よし、なら言ってやろう。
「それなら、いい?今日は絶対に私を町で一人きりにしないでよ?何があっても私から離れないでね!」
「は・はい!」
顔を真っ赤にして返事をするマリウス。・・・それでも何だか不安が拭えないなあ。
もっと、他に誰か護衛?がいれば安心出来るのだけど・・。
「よう、ジェシカ!」
丁度その時、声をかけられた。あ!あの声は・・・!
振り向くとそこにいたのはグレイとルークだった。
「ジェシカ、俺達と一緒に町に行く約束していただろう?」
グレイは私に駆け寄ると爽やかスマイルで言った。私が返事をする前に何故かマリウスが私とグレイの前に立ちはだかる。
「申し訳ありませんが、本日はジェシカお嬢様は私と一緒に町に出掛ける約束をしているのですが?」
笑顔で言うものの、その眼はちっとも笑っていない。
「はあ?何言ってるんだお前。大体お前はナターシャとか言う女と今日は1日一緒に出掛ける約束をしていたんじゃなかったのか?しかもジェシカまで連れて。そのせいでジェシカがどれだけ悩んでいたと思うんだよ。」
2人が火花?を散らしている間に私はルークに近付くと声をかけた。
「ルーク、昨夜は本当にありがとう。」
「い、いや・・・。俺はたまたまあそこに居合わせただけだったから。」
何故か頬を赤らめて視線を合わせようとしなルーク。
「そんな事無いよ。ルークがあの場所にいてくれなかったら、私今頃どうなっていたか分からないもの。」
私は肩を震わせて言った。
「・・・大丈夫か?昨夜ちゃんと眠れたのか?何か怖い夢とかは・・・。」
ルークが心配そうに私を覗き込もうとした時・・・
「お二人とも、一体何をされているのですか?」
突然マリウスが私の肩に手を置き、自分の元へ引き寄せた。
「おい!お前、何勝手にジェシカに触ってるんだよ!」
グレイが何やら文句を言っている。更にルークの方を見ると続けた。
「それに、ルーク。何だか今随分いい雰囲気だったな?お前たちいつの間にそんなに仲が良くなったんだ?さては・・・昨夜何かあったな・・。」
「お嬢様、彼ら等放っておいて早く参りましょう。」
グレイは4つの紙袋を右手に持つと、空いている左手で私の手をむんずと捕まえ、町へと続く門へと向かって歩き出す。
「いくら付き人とか何とか言って、お前ジェシカと距離が近すぎだろう!」
後ろから追って来たグレイがマリウスに握られていた手を無理やり解くと、自分の手に絡み取って来た。
「さあ、行こうぜ。ジェシカ。俺、お前が気に入りそうな店知ってるんだ。案内してやるよ。」
あの・・・・この間までは私に距離が近過ぎとか言っていたのに、今日は一体どうしたと言うのでしょう・・・。
等と考えていると、いつの間にかルークが空いてる私の隣に立って並んで歩いている。
「・・・?」
私は不思議に思ってルークを見上げると、何故か優し気に私にほほ笑む。一体、この二人はどうしてしまったのだ・・・・??
一方のマリウスは何やら後ろから付いてきて文句を言っているようだが、うん。
ここは聞かなかった事にしておこう。
こうして波乱万丈?になりそうな休日が幕を開けた―。
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