第2章 15 先手必勝
私の目の前で思い切り勘違いをしている生徒会長。でもこの勘違いが続く限りは生徒会への勧誘どころでは無いだろう。
それならこのまま生徒会長には勘違いさせておこう。
そこで私はナイスな考えが頭に浮かんだ。
「ええ、そうですね。近々利用したいと思ってオリマス。」
あ、棒読みになっちゃった。
「な、なんと言う事だ・・。」
生徒会長は私の下手な演技を完全に真に受けているのか、顔面蒼白だ。だから、何故そこまでショックを受けているのでしょう?
私が、何処の誰とお付き合いしようが、関係無いはずだ。大体、小説の中の生徒会長はジェシカに付き纏われて、うんざりしている設定だ。そして生徒会長が密かに思いを寄せていたのは、言うまでもなく本作品の主人公ソフィーである。
しかし、ソフィーは現段階ではこれと言って特筆すべき目立った点は特に無い。アラン王子と接点も無いときている。今のままでは話に埋もれる美しいモブキャラで終わりかね無い。このままではまずい・・・!私の小説の世界が崩れてしまう・・・。この世界での私の目標はソフィーとアラン王子をめでたくゴールインさせ、自分は悪女になる事も無く、学院を無事卒業して自立した働く女性を目指す。何としてでも2人のまだ始まってもいない恋?を成就させなくては・・・!
生徒会長は未だに頭を抱えて悶絶している。
・・・もう放っておこう。
「それでは失礼致します。」
私はまだパニックを起こしている生徒会長に挨拶をして教室に戻る事にした。何とかして、ソフィーをこの物語の主人公へと押し上げなくては・・・!
教室へ入る前に私は中を覗き込む。幸い?な事にマリウスはまだ戻っては来ておらず、グレイとルークは殆ど学生がいない教室に戻ってきていた。
授業が始まる迄はまだ余裕がある。この学院の昼の休憩時間は90分もあるのだ。しかし、残り時間があと30分とは・・・。生徒会長と1時間近くもくだらない時を過ごしてしまったのか・・・。
まあでも二人が丁度教室に居て私は実にラッキーだ。ここは先程の件で文句の1つでも言って、今後の私の平和な学生生活を過ごす為にも余計な事は口走らぬように釘を指しておかなければ。何せグレイもルークもアラン王子の付き人なのだから。
「グレイ!」
私はグレイの側に行き、名前を呼んだ。
「何だ、ジェシカか。さてはまた俺に会いたくなって、やってきたのか?」
何処か私をからかうように言うグレイ。
「おい、グレイ。またお前は・・・。」
ルークはグレイを窘めようとしたが、私は言ってやった。
「ええ、そうよ。貴方に会いに来たのよ。」
ちゃんと話ををつける為にね・・・!
なのに何故か私の言った言葉に予想外な反応をするグレイ。
「あ、え〜と、そうなのか?」
少し戸惑いを見せるグレイの腕を私はむんずと掴んだ。そしてルークに言う。
「ごめんね、ルーク。少しグレイの事借りるね。行くわよ、グレイ!」
そして問答無用でズンズンとグレイの腕を掴んで廊下を進む。
早く、早くマリウスが教室へ戻る前に話をつけなければ。今後は一切私とマリウスの仲を引っ掻き回さないようにと・・・!
「お、おい!何処へ行くつもりだよ?!」
「誰にも邪魔されない所よ!」
グレイが、息を呑む気配がした。もしかしたら私の迫力に焦っているのかもしれない。
とにかく、マリウスや生徒会長・・・その他モロモロの邪魔が入っては落ち着いて話も出来ない。
そうしてキョロキョロしていると、おあつらえ向きに備品室が目に入った。よし、ここならあまり人も立ち寄らないからゆっくり話が出来そうだ。
「入って!」
私はドアを開けると、グレイの背中を押して中に入らせると自分も中に入り、ドアを閉めた。
中は薄暗く、少し埃っぽい。でも話をするだけだから別にいいだろう。
「おい・・・どういうつもりだよ。」
グレイはあまり日が差さない窓に寄りかかりながら何やら困ったように声をかけてきた。
はて?どういうつもりとは?
「ジェシカ、お前なあ・・・男をこんな人気の無い場所に連れ込むって事がどういう意味か分かってるのか?」
グレイは髪をクシャリと掻きむしりながらため息1つ。
ああ、そうか。実際の私は25歳の精神年齢を持っている。だから18歳の彼等は私にとっては年下の弟みたいなもので・・男性と意識等してなどいなかった。・・・等と考えてる場合ではない。
「そんな事より!」
私はグレイに詰め寄った。
「どういうつもりよ。マリウスにあんな事言うなんて。」
「あんな事って?」
グレイは涼し気な顔でしらを切る。全く、ここに登場する男性キャラはどいつもこいつも・・・。
「あ・・・貴方ねえ。ふざけないでよ!元はと言えばグレイがマリウスの前で意味深な事を言うから変に誤解されてしまったんだからね?もう私達の仲を引っ掻き回すのは金輪際二度としないでよ!」
私はグレイの襟首を掴み、自分に引き寄せると強く言った。目の前にはドアップなグレイの顔。グレイの顔には明らかに狼狽の色が現れている。
ふふん、これだけ釘を刺して置けば大丈夫だろう。
「わ、分かったよ・・・。悪かった。ついお前等を見ていたら、からかいたくなって。」
あ、以外。素直に謝ったよ。でも、まあいい。
「それならいいよ。じゃあ、教室に戻ろうか?」
私はグレイに背を向けて備品室のドアを開けようと背を向けたその時―
突然、私はグレイの腕の中に捕らえられていた。
「グ、グレイ?!」
一体彼は何をしているのだろう?グレイは私の髪に顔を埋めている。
「どうしたの?」
何故かグレイが震えているのが分かった。何かあったのだろうか・・・。
「何でだよ・・・。」
「え?」
「何でお前はこんな事されても余裕なんだよ・・・。」
「グレイ?」
彼は私に何を言いたいのだろう?私にはグレイの気持ちが分からない。
「俺だけじゃ無い。マリウスにも、アラン王子に対しても余裕な表情を見せて・・・!」
何処か痛みを伴うようなグレイの言葉。どうしよう・・・。と、思った矢先。
「な〜んてな。」
急に明るい声でグレイは私からパッと手を離した。唖然とする私にグレイはいつもの様なイタズラな笑みを浮かべると言った。
「どうだ?びっくりしたか?」
「え?」
「女にあまり言われっ放しも尺に触るからな〜。中々の演技だっただろう?ああ、でも安心しろ。あの生真面目なマリウスの前ではお前に対する悪ふざけはもうしないからさ。だってお前の前で言うのも何だが、あいつ、ちょっと普通に見えないんだよなぁ。」
なんと!グレイにはマリウスのヤバイ部分に気付いているのか?!
「ど、どうしてそんな風に思ったのかな〜なんて・・・。」
「いや、別にただの感だよ。そんな事よりもそろそろ教室に戻ろうぜ。マリウスに見つかったらマズイだろう?」
「あ、そ・そうだった!」
大変だっ。マリウスが教室に戻る前に一刻も早く戻らなければ・・・!
慌てて教室に戻る私とグレイ。幸いな事にまだマリウスは戻っていなかった。
安心して胸を撫で下ろす私。何事も無かったかのように授業の準備をしていると、フラフラになりながらマリウス登場。
おぉ〜。イケメンが何処かやつれた姿も中々素敵では無いの・・・?
「お、お嬢様・・・お昼はきちんと召し上がりましたか?」
やつれた笑顔で私に問いかけるマリウス。
「私はちゃんと食べたけど・・・マリウスは食事したのかな?」
ねぇ、人の心配するより自分の心配した方が良いよ。
「ええ。ナターシャ嬢の手作りの昼食を・・・。味付けがあまりに独特で・・・ですから明日は私が昼食をご用意する事になりました。」
「えええっ?!」
気の毒なマリウス・・・・。自分で墓穴をほってるね。まあ、気の毒ではあるが、明日もナターシャとデートを頑張って下さい。今は彼女が苦手でも、その内マリウスにも恋愛感情が芽生えて来るかもしれない。
私はノーマル人間だから、M男君は受け入れられないのだよ。それにこの間の朝食の席で私はナターシャのS的要素を垣間見た気がする。うん、きっと2人はお似合いだと思った矢先、マリウスからとんでもない台詞が飛び出した。
「ですから、お嬢様。明日はナターシャ様と3人で町へ一緒に行って頂けますね?」
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