第2章 14 勘違いする2人
生徒会長は男色家では無い事が分かった。
「まあ。そんな事より、いつ生徒会には顔を出すのだ?」
まだこんな事言ってるよ、この人は。難聴だけでなく認知症も患っているのかもしれない。・・・気の毒な人だ。
「何だ?その憐れみを含んだような顔は・・?」
「いえ、何でもありません。気のせいではありませんか?」
生徒会長め、中々勘が鋭い。相手の心を読む読心術でも心得ているのだろうか?
「何度も申し上げましたが、私は絶対に生徒会には入りません。これ以上しつこく勧誘してくるようなら学院の理事長にパワハラで訴えますよ。」
私は上目遣いに生徒会長を見た。
「パワハラとは何の事だ?」
そうだ、この世界ではパワハラ等と言う言葉は存在しない。
「何でもありません。聞き間違いではありませんか?それにマリウスも生徒会には入らないとはっきり言ってましたよ。」
「そうなのか?!あれ程生徒会の為に尽力を尽くすので是非入らせて下さいと言っていたのに!」
うん?そんな言い方マリウスはしていなかったよねえ?どうもこの生徒会長は事実を捻じ曲げて頭にインプットされてしまうようだ。
「兎に角、私とマリウスは生徒会には何があっても入る気はありませんので、どうぞ他所を当たって下さい。私等ではなく、もっと有能な人物がいるのではありませんか?例えばアラン王子とか・・・。」
ここで私はさり気なくアラン王子を推薦した。
「そうか・・・確かにアラン王子は有能な人物だ。まして王族の人間だし、彼が生徒会に入ってくれれば、もっと学院の運営資金を我々の思うまま、自由に動かせるかもしれない・・。」
最後の方は何やら腹黒い事を言っているようだが、聞かなかったことにしよう。
「お話は済みましたね。それではお昼ご飯も食べた事ですので、私はここで失礼致します。」
私は立ち上がってその場を去ろうとしたが、またしても生徒会長に強く腕を引かれて引き留められてしまう。
「まだ、話は終わっていないぞ。お前は何故、そこまで生徒会に入るのを拒む?」
真剣な表情で尋ねて来る生徒会長。
それはね、貴方がこの小説に出て来る重要人物の一人で、ジェシカのソフィーに対する悪事(本当はジェシカがやった事ではないけれども)を暴き、アラン王子に報告して私を罪人に仕立て上げた人物の一人だからです等とはとても言えず・・・。
「それなら、逆に尋ねますけど何故生徒会長はそれ程までに私にこだわるのですか?」
「う・・そ、それは・・・。」
何故か答えに窮する生徒会長。
「ほら、答えられないじゃ無いですか。でもどうしても私が生徒会に入りたくない理由を述べるように仰るのであれば、お話しても良いですけどね。」
そう、私にはもう1つ、絶対に生徒会に入りたく無い理由があるのだ。
「本当か?是非聞かせてくれ!」
生徒会長はパッと明るい顔になり私の答えを促した。
「・・・副会長がいるからですよ。」
「ノアの事か?確かにあいつは少し素行に問題はあるものの・・・女性達からはすこぶる人気が高いぞ?だから彼を名ばかりの生徒会員へ引き入れたのだが・・。第一彼は全く顔を見せない幽霊役員だ。普通は彼を目当てに生徒会に入れてくれと頼んでくる女生徒の方が多いと言うのに・・・。」
何?そんな理由でノア先輩を生徒会に入れたわけ?小説の中ではノア先輩が何故、副生徒会長になったのかの理由は書かなかったが、まさかそんな単純な理由だったとは・・・最早生徒会長が有能なのか無能なのか分からなくなってしまった。
「あの先輩は・・危険です。一緒にいると貞操の危機を感じます。」
私が真顔で言うと生徒会長は目が点になった。・・・ように見えた。
「お前・・・女の身でありながら、こんな昼間から何て言葉を使うんだ?確かにあいつは女癖は悪いが・・。!ま、まさかノアに何かされたのか?!」
生徒会長は私の両肩をガシイッと掴むと、睫毛が触れる位私に顔を近付けて見つめてきた。
あの・・・非常に近いんですけど。
「すみませんが、もう少し離れて頂けませんか?これだけ近いと話す事もままならないので。」
「あ、ああ。すまなかった。つい、焦ってしまって。それでノアに何かされたのか?」
生徒会長は私から距離を置くと再びたずねてきた。何故、そこまで私を気にかけるのだろう?
「別に、大したことはありませんよ。ただ、迫られただけです。でも・・・・少し怖かったですよ。だから、そんな危険な先輩がいる生徒会には入りたくありません。」
余計な事は話さず、私は事実だけを簡潔に述べた。
「そうか・・・よし、分かった!ならノアを生徒会から辞めさせる!そうしたら生徒会に入ってくれるな?」
生徒会長は再びガシイッと今度は私の両手を握りしめると意気揚々と言った。はい?!何故そうなるのだ?この生徒会長は。自分の目的の為なら簡単に人を切るのか?!やはり典型的なパワハラ男だ。日本にいたら、ろくな上司にならないだろう。この男は・・・。
私は両手を強く握りしめ、生徒会長を見上げた。
「それでも絶対に嫌です!失礼致します!」
私は生徒会長を振り払うように言った。
もうこれ以上誰にも構って欲しく無い。
私はこの場から立ち去ろうとしたが、最後にふとある事を尋ねてみたくなった。
「ユリウス様。」
「何だ?生徒会に入る気になったか?」
生徒会長は嬉しそうな声を出した。
あのねえ、たった数秒前の考えが急に変わる訳無いでしょう?
「いえ、そうでは無くてですね・・・。あの、少し質問しにくい内容なのですが・・。」
「大丈夫だ、お前の質問ならどのような内容でも受け付けるぞ。」
そうか、それなら安心して質問してみよう。
「逢瀬の塔は完全予約制なのですか?」
「・・・は?」
生徒会長は唖然とした顔をしている。私の声が聞き取りにくかったのだろうか?
「ですから、逢瀬の塔は予約しないと利用出来ないか、どうかお尋ねしているのですが。」
そう、私はこう考えたのだ。もしかすると逢瀬の塔は完全予約制で、昨夜ナターシャは予約を入れていなかった為にマリウスと中に入る事は出来なかった。けれども次の予約を入れて・・・だからナターシャは女のプライドを傷つけられた訳でも無く、機嫌が良かった。と、私は頭の中でストーリーを考えたのだ。
「お、お前・・・あの場所を利用したいのか・・・?」
ん?今何と言った?
「一体、相手は誰なのだ?お前といつも一緒にいるあの男か?それともアラン王子?・・・ハッ!もしかすると他にも別の男がいるのか?そうか?そうなのか?!。」
生徒会長は傍目からも分かる位に大袈裟によろめいている。
本当にいちいち芝居がかっているんだよね。この人は。ましてこんなコスプレのような制服を着ているのだから、まるで本物の役者みたいだ。・・・それにしても何故ここまで動揺しているのだろう?私が誰とどんな関係を持とうが、全く関係無いはずだ。
それとも昼間から不謹慎な発言をする私に衝撃を受けているのだろうか?
仮にも生徒会長だしな・・・。
でも、これだけは確認しておきたい。
「で、どうなんですか?予約は必要なんですか?」
「い、いや・・・部屋が空いていれば、特に、その必要は・・・無い。」
動揺を隠しきれない様子の生徒会長。
でも、そうか。予約は、必要無いのか。だとしたら昨夜2人は、やっぱり・・・?
「誰なんだ・・・?」
「はい?」
生徒会長の突然の質問に、間の抜けた返事をする。
「お前が逢瀬の塔を一緒に利用したい男はどこのどいつなのだーっ!」
・・・何だか思い切り勘違いされているようだった・・・。
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