第2章 13 私達は空気が読めない
「お嬢様、一体彼等とどのようなお話をされているのですか?よろしければ私も混ぜて頂けないでしょうか?」
マリウスがぴったり私の背後に張り付いて話しかけてきた。マリウスの顔を見上げると何故かグレイとルークに冷たい視線を投げつけているかのように見える・・・?
「おい、丁度ご本人様が登場したぞ?ほら、ジェシカ聞いてみろよ。」
「グ、グレイ?!」
な、なんて余計な事を言ってくれるの?少しは空気を読んでよ!私はジロリとグレイを睨み付けてやった。
「お嬢様・・・いつの間にか随分彼等と仲良くなられたようですね。私に何か聞きたい事があるのなら、何故直接聞いて下さらないのですか?」
恨みがましそうに私を見るマリウスの目。・・・いつの間にかこんな目をするようになったのね。やるじゃない。私はまけじとぐっとマリウスを見つめた。一瞬、マリウスの顔が真っ赤に染まる。こ、こら!人前で変なスイッチ入れないでよ!
「ほら。もうすぐ授業が始まるから席に戻ろうよ。じゃあね。グレイ、ルーク。」
私はマリウスの背中を押すように席へ戻ろうとしたその時、またグレイがそこで爆弾発言をしてくれた。
「じゃあな、ジェシカ。明日楽しみにしてるよ。」
わざとらしい笑みを浮かべているグレイ。どうやらこの男は私とマリウスの中を引っ掻き回して楽しみたいようだ。いい加減にして欲しい。
その言葉に反応するマリウス。ピクリと肩を動かすと私ではなく何故かグレイの方を向いた。
「明日・・・?明日一体何があると言うんですか?」
マリウスの背後から何やら黒いオーラが出ているようにも見える。あの・・・少し怖いんですけど。
「おい、そろそろこの辺でやめておけ。」
ついに見かねたのかルークはグレイを止めようと間に入ってきた。ねえ、止めるならもっと早く止めてよね。仮にも貴方の相棒でしょう?
「別に、ただ明日は俺達と町へ出ないかって誘っただけだ。」
一体何を考えているのか涼しい顔をしたグレイはマリウスの正面に立つと腰に手を当てて言った。あ、終わった・・・。
「お嬢様・・・。」
ギギギギ・・・首からまるで音が出るのでは無いかと思うくらい、ゆっくりとこちらを振り向くマリウス。その顔は笑みをたたえているが、何故か背すじが寒くなる。
「は、はぃぃ!」
思わず声が裏返る。駄目だ、今日のマリウスはおかしい。これならいつものM男の方が数倍マシだ。
その時・・・
キ〜ンコ〜ンカ〜ンコ〜ン・・
予令のチャイムが鳴り響いた。
「ああ、授業が始まりますね。お嬢様、席に戻りましょう。」
マリウスは逃さないぞと言わんばかりに私の腕をガッチリ掴むと、グレイとルークの方を振り向いた。
「それでは失礼致します。」
そして私は半ば強引に引きづられるように席へ連れ戻されるのだった。
私がこの時程、マリウスが自分の隣の席である事を恨んだのは言うまでも無い。
午前中の授業はとてもじゃないが集中して受けられたものでは無かった。何しろマリウスが事ある度に、こちらを何か言いたげに凝視してくるのでたまったものではない。
でもそれを言うならこっちにだって言い分はある。本当に昨夜はナターシャと逢瀬の塔に行き、事に及んだのか・・・。駄目だ、やっぱり聞けない。何だか自分だけ針のむしろ状態で不公平では無いだろうか?
やがて息が詰まるような時間は終わった。
授業は殆ど集中出来なかったので、今夜は寮に戻ったら復習をした方が良いだろう。
「さあ、お嬢様。午前中の授業が終わりましたので、昼食に行きましょう。積もる話しもありますし。」
ね?と言わんばかりに笑顔で言うマリウス。
駄目だ。今日の私は食欲等皆無だ。いや、むしろ食べたら胃もたれをおこしてしまうかもしれない。
こうなったのも全てグレイのせいだ。彼には責任を取って貰わなければ・・・。そう思いグレイを探すと、ちょうど彼は私に手を振って教室を出るところだった。
あ!卑怯者!逃げたな!
「どうしたのですか?お嬢様。行きますよ。」
黙っている私にマリウスは再び声をかけてきた。観念した私は立ち上がり・・・。
「マリウス様!」
甘えた声でマリウスの名前を呼ぶ声。
声の持ち主は案の定、ナターシャだった。
ピシッ!
マリウスが固まる音が聞こえた気がした。
「ナ、ナターシャ様・・・何故こちらの教室に・・・?」
明らかにマリウスの顔は青ざめている。
おや?何故だろう。昨夜2人は思いを通じ合わせたのでは無かったのか?
「嫌ですわ。そのような言い方・・・。私と貴方の仲ではありませんか。」
ナターシャは頬を染めている。あれ?そう言えば今日は取り巻きがいないわね。
ナターシャは私を見ると言った。
「と言う訳で、ジェシカ様。マリウス様をお借りしてもよろしいでしょうか?」
やった!ナターシャに感謝!
「ええ、勿論。どうぞ私にお構いなく。」
「そんな!お嬢様?!」
「それでは失礼致します。」
悲痛な声を上げるマリウスの声を聞かなかった事にして、私は教室を後にしたー。
面倒なマリウスをナターシャに押し付ける事に無事成功した私。
気が楽になった私は俄然食欲が湧いてきた。
さて、今日は何処でお昼を食べようか・・・。
ブラブラ外を歩き回っているとハンバーガーショップのテナントを発見。
うん、天気も良いし、今日は外で食べよう。
チーズのたっぷり乗ったハンバーガーにポテト、サラダ、そしてアイスコーヒーのセットメニューをテイクアウトして、芝生のある園庭に移動し、手近な木の下にあるベンチに座ると、早速ハンバーガーを手に取り・・・。
「邪魔するぞ。」
突然ドサッと私の隣に座る人物。恐る恐る顔を上げるとそこにいたのは熱血生徒会長。
何故、そこに坐る?と言うか、何処から湧いて出てきたのだ。この人は。
「ほう。今日の昼食はハンバーガーか。」
生徒会長は私のランチを覗き見る。
「・・・何故ここにいるのですか?」
私は冷めきった目で生徒会長を見る。
「いや、たまたまお前の姿が目に入ったからな。」
どうだか。怪しいものだ。
「お前1人とは珍しいな。」
言いながら生徒会長は手に持っていたバスケットの蓋を開ける・・・は?バスケット?
男性のくせに随分女らしいアイテムを・・・。さらに中から取り出したランチを取り出した。
「?!」
な、なんと言う事でしょう・・・生徒会長のランチは可愛いらしいロールサンドイッチではありませんか!
隣で紙袋に入ったチーズたっぷり肉厚ハンバーガーを食べてる私って一体・・・。
「生徒会長・・・。」
「生徒会長ではない。名前で呼べと言っただろう。」
ああ、もう面倒臭い。
「ユリウス様・・・。」
「何だ?」
心なしか生徒会長が嬉しそうに返事をした・・・ように見えた。
「もしかして、恋人でもいらっしゃいますか?」
「ゴフッ!」
やだ、汚い。この人、吐き出したよ。
「な、何をを突然言い出すのだ?お前は。」
「だって、そのサンドイッチ・・・。」
とても乙女チックですよ。と私は心の中で続きを語る。
「ああ、これは俺の手作りだ。」
事もなげに言う生徒会長。
「はいい?!」
噓だ!そんな強面で、このような可愛らしいお弁当を作るなんて・・・。はっ!もしかして生徒会長には・・・。
「あの・・・ユリウス様。」
「何だ?」
「好きな女性がいるんですか?」
そうだ、きっと生徒会長には好きな女性がいるのだ。その人の為にランチを作ったに違いない。それなら私と一瞬に昼食を食べてる場合では無いはずだ。
「突然、何を言い出すのだ。お前は!いたらお前の所に来るはずは無いだろう?」
う〜ん・・・言われて見れば確かにそうかも。と、言う事は・・・。
「ユリウス様。安心して下さい。」
「何をだ?」
訳が分からないようで首をかしげる生徒会長。
「周りがどう言おうと、私は応援しますよ。」
「は?」
「人はどんな相手を好きになろうと、周りが止める権利はありません。」
「おい、さっきから一体何を・・・。」
「大丈夫ですって!私は誰にも言いませんから。」
「だから、何を話してるのか、はっきり言え。」
「ユリウス様は・・・。男色家なんですよね?」
「・・・・ふ、」
生徒会長は俯いて肩を震わせている。
「ふ?」
私は首をひねった。
「ふざけるな〜ッ!!」
直後、生徒会長の怒鳴り声が辺りに響き渡ったー。
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