第2章 12 キャパオーバー
結局、昨夜マリウスとナターシャの間に何が起こったのは確認する事が出来なかった。でもまあ、仕方が無い。それよりも明日は入学して初めての休日だ。ソフィーの明日の予定は確認済みだし、後はアラン王子に一緒に出掛ける約束を取り付けてみよう。そう思って教室へ入ったのだが、何かおかしい。
アラン王子の姿が見えないのだ。でも一番前の席には腰巾着A・・・もとい、グレイが座っている。隣に居るのは腰巾着B。一体アラン王子は何処へ行ったのだろう?
「どうされたのですか?お嬢様。」
マリウスは私がずっと立ったままなのを見て不思議に思ったのか、声をかけてきた。
「あ、あのね。私グレイに用事があるから、ちょっと行って来るね。」
「え?グレイ?」
一瞬マリウスは眉を潜めた気がしたが、そんな事かまっちゃいられない。
私は急いで、彼らの元へ向かった。
「グレイ!」
私は声をかけた。
「うおっ、何だ。ジェシカか。驚かすなよ。所で昨夜は何か良い本借りる事が出来たか?」
爽やかな笑顔でグレイは尋ねて来た。
「うん。お陰様でね。」
「どんな本を借りたんだ?」
「ミステリー小説と恋愛小説よ。」
「へえー。ミステリー小説を好きそうなのは分かるが、まさかジェシカが恋愛小説とはね。」
何やらニヤニヤしながら言うグレイ。
「何?似合わないとでも思ってるの?」
「いや。そうじゃない。だってジェシカは恋愛には興味が無さそうに見えたからさ。」
「どうしてそう思うの?」
「だって、マリウスのような男が側にいても、興味が無さそうだし、挙句にアラン王子に言い寄られても何か逃げ腰だもんな。」
一方、私とグレイが仲良さげに話しているのを腰巾着Bは不思議に思ったのか、突然話に割って入って来た。
「おい、どうしたんだよ。お前ら、いつの間に仲良くなったんだ?」
腰巾着Bは私とグレイの間に入ってきた。
「あ、お早う。Bさん。」
「お、おう。」
私が挨拶すると、途端に顔を背けて返事をするBさん。ん?何だろう?
するとグレイは笑いながら言った。
「悪いな、こいつ見かけによらずあまり女に免疫が無いんだよ。」
笑いながらBさんの背中を軽く叩く。あら、イケメンなのにそれは気の毒な・・・。
「う、煩い。余計な事言うな。それに大体Bさんて何だよ。」
あ、グレイと同じ事言われちゃった。
「ごめんなさい。名前が分からなかったからBさんて私の中で勝手に呼んでただけなの。」
「・・・だ。」
「え?」
何を言ったのか声が小さくて聞き取れなかった。
「俺の名前はルーク・ハンターだ。」
「そう、ルーク。よろしくね。」
「ふん。」
ルークはそっぽを向いてしまったが、耳まで赤く染まっている。やだ、何か可愛いんですけど。この人。・・・年下の弟みたい。
「ところでジェシカ。お前もしかしてアラン王子に用が会って来たのか?」
「あ。そうそう。忘れてた。」
「忘れてたって・・・お前なあ・・・。クッ・・気の毒な王子だぜ。」
グレイは笑いをこらえるように言った。
「ねえ、アラン王子はどうしたの?明日の件で話があるんだけど。」
「アラン王子なら流感にかかって、療養病棟に入っている。」
ルークがぶすっとした様子で答えた。
「ええ?アラン王子が?!」
な、何てこと・・!折角の明日の計画がパーに・・!
「何だ?もしかして明日の休日、アラン王子と出掛ける約束でもするつもりだったのか?」
まさかな~なんて言いながらグレイは言う。
「うん、そうだけど。」
「「何い?!」」
グレイとルークが同時に声を上げた。・・・うるさい。
「何で驚くの?私がアラン王子を誘いに来たらいけないの?」
こっちだって好きで声をかけにきたんじゃありませんよ、ソフィーとアラン王子を何とか引き合わせる為にセッティングの場を設けようとしているだけです。
「でも・・・具合が悪いなら、明日は無理だよねえ。」
私は溜息をついた。あ~あ・・・。
それなのに、何を勘違いしたのかグレイは嬉しそうに言った。
「それじゃあ、ジェシカ。明日の予定はどうするんだ?」
「・・・特に何も考えていないけど・・。」
恐らくマリウスはナターシャ達と一緒に過ごすかもしれない。いや、是非
そうして貰いたい。下手に二人きりで外出してナターシャ達の恨みを買いたくはない。マリウス、ごめん。ナターシャ達と仲良くしてあげて。
「一人で町へ行って来ようかな・・。」
どの道、町へは行かなくてはならない。今ある手持ちの服を全部売って、新しい洋服を買い替えなければならないのだから。
「ならさあ、悪いけどアラン王子のお見舞いに行ってやってくれないかなあ?」
とんでもない事を言うグレイ。
「ええ?!どうして私が?」
療養病棟―それは身内か、余程親しい間柄しか見舞いに行く事は出来ない場所なのだ。そこへ見舞いに行けだなんて―。
「無理だってば!私がアラン王子の見舞いに行けるはず無いでしょう?」
「大丈夫だって。俺とルークで話し通して置くからさ。な・頼むよ。」
グレイはしきりに頭を下げて来る。・・・仕方が無い。
「分かったわよ・・・。行ってくればいいんでしょう?」
「おう、よろしく頼むな。」
グレイはわたしの肩をポンポン叩きながら言った。うん、こういう気さくな態度は嫌いじゃない。
「ああ、そうだ。」
一通り話しが終わり、私がグレイ達の側を去ろうとした時、グレイは声をかけて来た。
「何?」
私はグレイを見た。
「ジェシカ、明日もし誰とも一緒に町に行く相手がいなければ俺たちが付き合ってやってもいいからな。」
「な、何お前勝手な事言ってるんだ!」
ルークは驚いた良い様に大声を上げる。反応有り過ぎだよ。
「大体、その女には付人がいるんだろう?」
「いや〜それがそうでも無いんだよな。」
意味深に私を見ながら言うグレイ。何?一体何が言いたいの?
「う〜ん・・これって言ってもいいのかなあ。」
何言ってるの?そこまで言って教えないつもり?
「もったいぶらないで教えてよ!」
私は必死で詰め寄る。
「わ、分かったってば!言うよ!その代わり責任持てないからな。」
観念したようにグレイは言った。
「実はさ・・・ジェシカと別れた後、見ちまったんだよ。」
「見たって何を?」
「マリウスが女と一緒に逢瀬の塔に入る所をさ。」
え・えええ〜!!
「や、やっぱり・・・。」
「何だ?やっぱりって知ってたのか?」
「うん・・・。今朝朝食の時間、他の女生徒達が話してるのを耳にして・・。でもまさか中に入ったとは思わなかった。」
そ、それではやっぱり2人はあの塔の中の部屋で・・・?!
「そ、それで2人はどの位で塔から出てきたの?!」
私はさらに詰め寄り、気付けばグレイの両肩を揺さぶっていた。
「し、知らねーよ!第一、何であいつ等を俺が見守ってなくちゃならないんだよ?」
ああ!なんて、使えない男なの?!思わず頭を掻きむしる。
「お、おい。少し落ち着いたらどうだ?」
今迄黙っていたルークが声をかけて来た。
「だって、これが落ち着いていられると思う?!」
私はキッとルークを見る。思わずたじろぐルーク。
「おい、そんなに気になるならそこにいる本人に直接聞けばいいじゃないか。」
グレイの言った方を向くと、そこに立っていたのはマリウスだった・・・。
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