アラン王子からの手紙 —①

親愛なる我が弟よ。

ついに4年間の学院での生活が始まった。常に従者に監視され、これから窮屈な日常が始まるかと入学前は憂鬱で仕方無かったのだが、面白い出会いがあったぞ。 

入学式の当日、式が始まる前の退屈しのぎに俺は従者を撒いて学院の外へと抜け出した。お前も知っての通りあの学院の半径10kは何もない。ただ草原が続くのみだ。

町へ出て羽目を外そうにも思うようにはいかない。

俺は何をするでもなくブラブラと周囲を歩き回っていると、突然空から一筋の光がある1点に降り注いでいるのを発見した。

あれはいったい何だろう?好奇心に駆られた俺は急いで光の指す方角へと走って行くと、そこには妖艶な美女が草むらに横たわっていたのだ。驚きだろう?

一体この女は何故このような場所で眠っているのだろうと思い、ふと気が付いた。

女が着ている服は俺と同じ学院の制服を着用していたからである。

しかも肩章を見ると同じ新入生であることが分かった。

全くこんな場所で眠っているなんて呑気な女だ。俺が独り言を行った時、彼女は目を覚まし、俺の事を天使だと言いながら再び眠ろうとした。全く何を寝ぼけているのか。俺が小ばかにしたような口調で話すと、流石に気を悪くしたのか、何やら俺に説教をし始めたのさ。

おまけに時折出て来る訳の分からない単語・・・・。

意味不明な事ばかり言う女に俺はイライラしていたが、ここで面白い事があった。

突然自分の髪を引っ張ったかと思うと痛がるし、青ざめて頭を抱え込むしで、見てて俺は笑いをこらえるのが必死だった。

しかも女は入学式が始まるというのに何処かへ行こうとしている。これは流石に同じ新入生として見過ごすわけにはいかない。一応俺は女に忠告だけしてその場を去ったわけだ。

俺が学院に戻ってくると従者達が慌ててやってきたので事の顛末を説明していると突然脇から銀髪の男が泡を食ったように話に割り込んできた。

どうもその男は女の知り合いだったようで、取り合えずどの辺りに女がいたのかだけ教えると、馬鹿に丁寧にお礼を言って慌てて探しに行ったようだったよ。


 俺が新入生代表スピーチに選ばれたのは当然弟のお前は知っているだろう?今年は他に成績優秀者の女がいたらしく、俺の次にスピーチをする為に壇上に上がってきた女が現れたのだが、俺はその人物を見て心底驚いたよ。何故かというと、式の前に草むらで呑気に眠っていた女だったからだ。

人は見かけによらないのだなと思い、どんなスピーチをするのか俺は興味深く見守っていると、これも強烈な内容だったよ。

およそ女が語る内容じゃなかったな。お前にも聞かせてやりたかったよ。傑作だったぞ。他の連中もスピーチを聞き終えた後、呆然としていたのだから。

俺はその時から無性にその女に興味を持ったのは確かだ。

女の名前はジェシカ・リッジウェイという名前で、これは後から聞いたのだが侯爵家の娘だったらしい。意外なほど高い身分の女で驚いたよ。


もっと彼女と親しくなりたい。そう思った俺は学食で偶然彼女を見かけて声をかけたのだが、そこでも面白い事があった。一体何だと思う?なんと彼女、俺に挨拶するときに頭を深く下げたのだが、俺が面を上げろと言うまで下げ続けると言うのだから笑わせてくれる。彼女と一緒なら学院生活も悪くない・・・。いつの間にか俺は目が離せなくなってしまったようだった。



何とかしてもっと親しくなりたいと思って、俺はどんな方法を取ったと思う?

多分彼女は酒が好きに違いない、そう思った俺はサロンに呼び出すためにわざと期限切れのアルコールのフリードリンク券を渡したのさ。

どこか抜けている彼女なら、きっと券を渡したその場では有効期限に気が付かないはず。意気揚々とサロンに現れるに違いないと踏んだ俺は従者たちを遠ざけてサロンで彼女を待つことにしたのだが、俺の目論見は失敗に終わってしまったよ。

てっきり俺に文句の一つでも言う為にサロンにやって来るかと思っていたのに彼女はとうとう姿を現さなかったのだから。

こんな回りくどい方法取るべきじゃ無かったんだろうな?どうも今迄の俺は黙っていても女の方からやってきたので、こういう事に慣れていないようだ。


もしかすると彼女はずっと側についている「付き人」やらと就寝時間まで一緒に過ごしたのかもしれない。何せその男を「大切な人」と言ったのだから。


まあ、後4年間もあるのだからきっと何とかなるはずだろう。だって俺達は王族なのだからな。


 クリストフ、お前も2年後にはこの学院に入学してくる。それまで元気でいろよ。

剣術の訓練も怠らないようにな。


                                 アランより

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