マリウスの日記 — ①

9月1日


 本日からお嬢様と二人、「セント・レイズ」学院へ無事入学を果たしました。

今日のジェシカお嬢様は余程緊張していたのでしょうか?突然式が始まる前に私に講堂に留まるよう言いつけた後、ふらりと何処かへ消えてしまいました。

待てど暮らせど戻って来ないお嬢様の居場所を偶然知り、迎えに行ってみるとまるで別人のように変わっておりました。自分は記憶喪失になったと言われましたが、確かにその通りかもしれません。

何せ私を激しく罵る事もされない、それどころか私を頼り切った、まるで打ち捨てられた小鹿のような瞳で私を見つめて来るのですから。

まさかジェシカお嬢様からそんな態度で接してくれるとは夢にも思わなかった私は、信じられませんでした。ましてや微笑まれたあの瞬間、もうこのまま死んでも構わないと思ったくらいです。私をこんな気持ちにさせるなんて本当にお嬢様は罪な方です。


 それにしてもお嬢様の新入生代表挨拶には驚かされました。あのように堂々と新入生の前で立派なスピーチをされるとは。前夜の予行演習の時とは全く内容が違いましたが、私はこの時のスピーチの方が素晴らしかったと思います。この方が主人であることをとても誇らしく感じました。


 お嬢様、一つ謝罪させて下さい。ジェシカお嬢様が記憶喪失なのを良いことに、抱き上げたり手を握ってしまったりした事、勝手に触れてしまい申し訳ございません。貴女の記憶が戻られたとき叱られてしまうでしょうか?でも私はそれでも構いません。だって貴女から注目されるだけで私は幸せなのですから。それが例えどんな形でも・・・。


 そう言えば生徒会長様とアラン王太子様・・・早速ジェシカお嬢様をお気に召した様ですね。それは当然の事でしょう。何せ私が仕えるお嬢様は世界一魅力的な女性なのですから。私の望みはお嬢様が良き伴侶を見付けて、その方に嫁ぎ、幸せになって頂く事です。でもどうかその時は願わくば下僕としていつまでもこの私を御側に置いて頂けますか?


 一つ、気がかりな事があります。この学院は全寮制で異性の部屋には立ち入る事が出来ない事です。その為お嬢様に夜のお務めのご奉仕が出来なくなってしまいました。

お嬢様は昔から夜寝る前は私が淹れる特製のハーブティーに、肩と足裏のマッサージを行わなければ、安眠出来ない方でしたよね。

それで夜のお務めを暫く行えない事をお嬢様に伝えたのに・・・何故かお嬢様は顔を真っ赤にして慌てふためいた様子でした。一体何故、お嬢様はあのような態度を取られたのか・・・近日中に尋ねてみようかと思います。


お嬢様自ら私の腕を取ってくれた今日は私の大切な記念日となりました。


それではお嬢様、どうぞ良い夢を見てください―。 


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