第1章 11 アラン王子の嫌がらせ?

 マリウスに悪い事をしてしまったので私は彼の食事に付き合う事にした。

食堂に戻ると、先程の混雑とは打って変わって、学生の数はかなり減っている。


「何かメニュー残っていればいいね。」

私はマリウスとフードコーナーを見てまわる。

「私はお嬢様と一緒ならどんな食事でも構いませんよ。」

マリウスが私の目をじっと見つめて言う。


「マリウス・・・・。」

なんて一途な台詞を言うのだろう。イケメンからそのような言葉を言われれば少しだけ胸がときめき、私もマリウスを見つめ返す。


「例えばお嬢様が残飯を食べろと仰るなら・・・・。」


ん?何だか雲行きが怪しい。


「私は何杯でもお代わりして食べ続けるでしょう!」


・・・やはり、そうきたか。マリウスから見た私はさながら女王様にでも見えるのだろうか。確かにやや釣り目ではあるが、生憎私は誰かを虐めたいと言う趣味は無い。


「どんなものでもいいのなら私が選んでも良いの?」


グズグズしていれば残りのメニューも完売してしまうかもしれない。取り合えず私は残り僅かとなっていたライスと白身魚のムニエルのセットを注文した。

しかしマリウスだけ食事となると私は手持ち無沙汰になってしまうので、本日2杯目のコーヒーを注文する。


「マリウス、私は先に席について待ってるからね。」

私はコーヒーを店員から受け取ると、窓際の眺めの良い席に座った。そして何気なく窓の外を眺める。時刻は19時半を指していた。ここから見える外の景色はとても幻想的である。

食堂前には丸い噴水がライトアップされている。灯りが照らす先にはベンチが置かれ、仲睦まじそうなカップルたちが寄り添いあって楽し気に話をしている姿も見られた。日本に住んでいた時の記憶に思いを馳せる。今頃ならこの時間、私はどんなふうに過ごしていたっけ・・・。私は余程ぼんやりしていたのか、この時外を通りかかったアラン王子が私に手を振ってる事など、全く気が付いていなかった。


 ガタン!椅子が引かれる音がして私は顔を上げた。

「マリウス。早か・・・・・・え?」

私の隣に座っていたのはマリウスではなく頬杖をついてこちらを見ているアラン王子だったのだ・・・。


「今外からお前の姿が目に入ったので手を振ってみたが気付いてくれなかったようだから寄らせてもらった。何だ。またあの男と一緒なのか」

マリウスに間違えられたアラン王子は何故か不機嫌そうだ。


「そうだったのですか?気付かず申し訳ございませんでした。確かにマリウスを待っておりますが?」

中々勘の良い王子だ。


「いつも2人は一緒に居て飽きないのか?」

そう言えばアラン王子は今も1人だ。一国の王子を1人にして大丈夫なのだろうか?


「アラン王子様は今も御1人なのですね。」

私はコーヒーを一口飲んだ。


「ああ、この時間は自分のプライベートな時間だからな。」


どこか嬉しそうに目を細めながらアラン王子は言う。成程、王子ともなれば中々1人になれる時間が取れないのかもしれない。


「そうですね。私にもプライベートな時間が必要ですから。」

だから何処かへ行ってくれよと遠回しに言っているのですけど。王子と一緒にいるだけで厄介ごとに巻き込まれそうだ。


「それはそうだな。俺達気が合いそうだ。」

しかし何をどう勘違いしているのか、アラン王子は私の言葉を聞いて機嫌が良くなってきているようだ。・・・どうもこの王子は物事を都合の良いように解釈する傾向があるようだ。兎に角王子と一緒に居ては私の気が休まらない。まだマリウスと一緒にいたほうがマシだ。そう言えばマリウスは何処に行ったのだろう?そう思った矢先に

料理を受け取ったマリウスが見えた。

よし、マリウスの側へ行く振りをしてさり気なくこの王子から離れよう。

ガタン!私は席を立った。


「おい、何処へ行く?」

アラン王子は驚いた風に私を見た。


「料理を受け取ったマリウスが私の事を探しているので行ってきます。」


「彼をここへ呼べばいい。」


「王子様と食事をするのは気が弱いマリウスには負担ですので。」

実際はマリウスの気が弱いかどうかなんて、この際知った事では無い。


「俺はそんな事少しも気にしないぞ?」

しつこく食い下がる王子。


「アラン王子様が良くても、マリウスが気にするので。」

もういい加減にしてよ~私には構わないで欲しい。下手に王子と関わって悲惨な末路をたどりたくは無いのだから。


「お前・・・そんなにあの男が大事なのか?」


は?突然何を言い出すのだろう?この王子は。まさか私とマリウスが恋人同士では無いかと疑ってるのか?でもそのように思ってくれていた方が私としては都合が良い。


「ええ、マリウスは私にとって大事な人(下僕)ですから。」

にっこり笑いながら言った。


「・・・そうか。」

何故か残念そうな表情を浮かべるアラン王子。


「それでは失礼しますね。」


「待て。」

踵を返そうとする私をアラン王子は引き留めた。


「ジェシカ、酒を飲むのは好きか?」


じっと真剣な眼差しで私を見る王子。お酒か・・。そうだ、今夜はサロンに飲みに行こうと思っていたのだ。

「ええ。大好きです。」


「なら、これをお前にやろう。」

王子は懐から1枚のチケットを取り出した。それは1時間アルコールフリータイムと書かれたチケットであった。この学院では学食は学費に含まれているがアルコールだけは実費がかかる。しかも割と値段が張るものばかりだ。でもこのチケットがあれば最低1時間は料金を気にするこ事なく好きなだけアルコールを飲むことが出来る。


「い、いいのですか?このようなチケットを頂いても。」

自然と私の声が興奮で震える。


「ああ、本日の詫びの印として受け取ってくれ。何、安心しろ。このチケットはまだ沢山もっているのだから1枚ぐらいどうって事は無い。」


おおっ!さすがは王子。太っ腹である。それなら話は早い。


「では、遠慮なく頂きます・・・。」

恭しくチケットを受け取ると、私は再度頭を下げてマリウスの元へと向かった。

やった!今夜はタダでお酒が飲める!私はその場で小躍りしたい気分だった―。



「何だか嬉しそうですね。お嬢様。」

マリウスはフォークとナイフを使い、器用に料理を食べている。さすがはマリウス。テーブルマナーは完璧である。


「やっぱりわかる?実はね、アラン王子に1時間アルコールフリーチケットを貰ったのよ!」

私はチケットを見せながらマリウスに言った。


「そうなんですか?でも何故アラン王子はお嬢様にチケットを差し上げたのでしょうね。少し見せて頂いてもよろしいですか?」


「うん、いいよ。はい。」


私はマリウスにチケットを渡した。チケットを受け取ったマリウスはじ~っと眺めているが、やがて顔を上げた。


「お嬢様・・・。」


「何?」


「このチケット・・・。」


「うん。」


「有効期限切れてます・・・よ。」


な・何い?!間違えて私に有効期限が切れているチケットを渡したのか?それとも嫌がらせのつもりでわざと期限切れのチケットを渡してきたのか・・・でもあの最後に見た王子のずる賢そうな顔。やはり私を喜ばせておいて、どん底に突き落とすつもりだったのだろう。やはり原黒王子だったのかもしれない。

そんな悔しそうな私の様子を見てマリウスは突然頭を下げた。


「すみません!お嬢様!。」


え?何故貴方が私に謝るの?


「お酒の事になると見境が無くなり、注意散漫、我を忘れてしまうお嬢様にアラン王子からチケットを頂くときに私さえ側にいればお嬢様をこのように不愉快な思いをさせる事等無かったのに・・・・。使い物にならない私をどうぞいつものように言葉のムチで打ちのめしてください。四つん這いになって3回まわって犬の鳴きまねをしろと言うなら喜んでそのように致します。さあ、どうか愚かな下僕の私に命じてください!」


私の事を慰めてるのかけなしてるのか分からないマリウスの言動に思わず鳥肌が立つ。この男、やっぱりおかしい。マリウスの言う言葉が段々過激になってくる。彼は定期的にジェシカから甚振られないとMのリバウンドが起きてしまうのだろうか?もうこうなったら自棄だ。


「マ・・マリウス・・・。お手!」

半ば自棄になってマリウスに右手を出すと、当然の如くマリウスは笑顔で私の手のひらの上に自分の手を乗せるのだった—。

私にはこれが限界。




















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