第1章 1 ここは何処?私は誰?

 気が付いてみると私は草むらに横たわっていた。目の前には澄み切った青い空。

気持ちいい・・・・。再び目を閉じると、突然声をかけられた。


「珍しい女だな。こんな所で眠っているとは。」


ん・・・・?我に返った私は慌てて目を開けると、そこには私を見下ろすように立っている若者の姿が見えた。

アイスブルーの瞳に輝くような金色の髪、そしてハリウッドスターのような超絶イケメン男性はどうみても日本人では無い。おまけに白い軍服のような衣装を身に纏っている。


「天使がいる・・・。」

ああ、きっと私はあの時に死んでしまったのだろう。天使が迎えに来てくれたんだ。

それじゃあ私は天国にいけるのかな・・等と考えつつ再び目を閉じると、上から大きなため息が聞こえた。


「誰が天使だ。仮にも女性が外で昼寝とはあり得ない。全くなんて下品な女なんだ。」

美しい眉を潜め、どこか人を馬鹿にするような口調は初対面の相手に対して少し失礼では無いだろうか。それに年齢的にどう見ても私よりは年下だ。


私は無言で立ち上がると、腰に手をやり男性に向かって言った。

「あなたねえ、幾ら何でも初対面の相手に対して失礼だと思わないの?それに年上の相手にはもう少し丁寧な言葉遣いをしないと駄目でしょう?」


「は?」

言われた若者は目をパチクリさせている。


私は続けた。

「それにしても変わった衣装を着ているね・・。あ、もしかしてコスプレイヤーさんなのかな?それで日本に遊びに来たって訳だ。それにしても日本語上手だね。」


しかし喋れば喋る程何故か相手は眉間に皺を寄せて不機嫌になっていく。そして我慢が出来なくなったのか、ついに口を開いた。

「おい、黙っていれば先程から一体何を話しているんだ?ニホンだとか、コスプレイヤーだとか、訳の分からない事ばかり・・・第一、誰がお前より年下だと言うのだ?どうみてもお前と俺とでは然程年齢は違わないと思うが。」



 その時突然強い風が吹き、私の髪の毛が舞い上がった。直後、栗毛色の長い髪の毛が目に飛び込んできた。

「・・・え?」

私は自分の髪の毛をすくいあげた。波打つウェーブの栗毛色の髪・・・何だろう?

ウィッグでも付いているのだろうか?思い切り強く髪の毛を引っ張ってみた。

「あ、痛たたた・・・!」

どうしよう。地毛だ—。こんなに髪の毛が長くなった覚えも無いし、パーマをかけたり髪を染めた記憶もない。もしかして頭を強く打った拍子で一時的に記憶喪失になってしまったのだろうか?考えてみれば今ここにいる場所も、何故自分がこの場所に居るのかも全く思い出せない。青ざめて思わず頭を抱えて慌てふためく。


「おい、いったいお前はなにをやっているんだ?突然髪の毛を引っ張ってみたり、頭を抱えて青ざめたり・・・。」

腕組みをして男性はこちらを見ている。


どうしよう・・・。これでは完全に不審者扱いされている。

「な・何でもないから。それじゃ私、もう行くから。」

私はくるりと男性に背を向けた。

こんな場所早くに立ち去ろう。ん?でも一体どこへ行けばいいんだろう・・・?


「おい、待て。」

男性が後ろから声をかけてきたので私は振り返った。

「行くって、どこへだ?」


「え・・・と、さ・さあ・・・どこでしょう?」

私は愛想笑いをしながら答える。


「お前・・・・頭がおかしいのか?その制服は俺と同じ学校『セント・レイズ』学院の制服だろう?その肩章に付いているラインは1年生を現している。後1時間もすれば入学式が始まる。いつまでも寝ぼけているんじゃないぞ。」


「え?」

私は驚いて、改めて今自分が着ている服を眺めた。エンブレムが付いた白いジャケットに白いフレアスカート。中に着こんであるブラウスの胸元は赤いリボンを付けている。そして男性が言った通り、私の肩章には赤いラインが入っている。

「な・何?このコスプレみたいな衣装は?!」

私は改めて今自分が着ている制服を見て軽いパニックを起こした。

いや、別にコスプレする人達をどうこう言っている訳では無いが、そのような世界とは無縁に生きてきただけに、いざ自分がこのような格好をしているのかと思うと恥ずかしくて顔から火が出そうになった。


「また、お前はコスプレだとか訳の分からない事を・・・。」

流石に男性の目に同情の色が現れてきた。


「いいか、今日は学院の入学式。肩章の色を見る限り、俺とお前は新入生だ。兎に角もうすぐ入学式が始まるから、せいぜい遅れないようにな。」

そう言い残すと男性は去って行った。


一方、立ち去った男性の言葉で益々私は混乱していた。何?入学式って?私はもう25歳だ。今更学校に入りなおす気は無い。それに何故自分がこんな場所で眠っていたのかも記憶に無い。


「それに・・・学校って何処にあるんだろう?」

私は腕組みをして暫く頭を捻っていたが、何も思い浮かばない。どうしてこんな事になってしまったか。あの後、一ノ瀬琴美と健一はどうなったのだろう?

暫くその場に佇んでいると、遠くの方から誰かが声を上げてこちらへ駆け寄ってくる姿が見えた。


「・・・嬢様・・!ジェシカお嬢様!!」

息を切らしながら私の目の前に先程の男性と同年代位の若者が走り寄ってきた。

「ハア、ハア・・・・探しましたよ。ジェシカお嬢様。どうしてこのような場所にいるのですか?もうすぐ入学式が始まりますよ。」

うわ、この人もすごいイケメン。銀色の髪にグリーンの瞳、驚くほど長身な彼は見上げると首が痛くなるほどだ。先程の男性同様に彼も同じ制服を着ている。


「あの・・・?どちら様?人違いでは無いですか?」

私は愛想笑いを浮かべながら男性を見上げた。すると見る見るうちに男性の顔に驚愕の表情が浮かぶ。


「お嬢様・・・それは何かの冗談ですか?」

あ、まずい。怒らせちゃったかな?


「い、いえ。冗談なんかじゃなくて・・・・。」


「ああ!それでは新たなプレイだったんですか?!冷たい瞳で睨み付ける、私への罵詈雑言。そろそろマンネリ化して飽きてきたのでしょう?そこで新たに考え付いたのが・・・つまり放置プレイ!!」

何故か頬を赤らめて嬉しそうに早口でまくし立てている男性。


「流石に今回の件、この私マリウスは慌てました。学院の講堂で待つように言われていたのに、待てど暮らせどお嬢様はいらっしゃらない。不安に駆られている時に丁度アラン様が他の方々とジェシカお嬢様によく似た人物が草むらで眠っていたと言う話を小耳に挟んで・・・!慌てて駆けつけてみれば、やはりジェシカお嬢様だったのですから。でも待ってる間のせっぱつまっていたあの状況・・・思い出す度ゾクゾクします!」


・・・・何?この人。もしかして少し・・・と言うか、かなりヤバイ人なのでは?

私は1歩後退してから気になる事を質問した。

「あの・・・ジェシカお嬢様って・・・?」


「ああ、呼び方がお気に召されませんでしたか?では何とお呼びいたしましょう?」

男性は私ににじり寄って来る。


「い・いいです!その呼び方で!と、所で・・貴方の名前はマリウスと言うのですか?」


途端に男性の表情が曇る。

「ジェシカお嬢様?先程から気になっていたのですが・・・何と言うか雰囲気がいつもとかなり違いますね・・・。物腰が柔らかいと言うか・・・。」


物腰は柔らかい方がいいでしょう!私は思わず心の中で突っ込みを入れた。


「何か変な物でも拾って食べられましたか?いつもなら私で試してからだったのに・・・。それでこのように雰囲気が変わってしまったのでしょうか・・。普段通り全身がカチンカチンに凍り付くぐらいの冷たい瞳で私を見て頂けませんか?」


ダメだ、このマリウスという男性。顔はイケメンなのに中身はどうしようもない人間なのかもしれない・・・。外見がこれだけいいのだから残念度は半端ではない。


「お嬢様・・・。そう、その冷めきった目です!ああ、やはりお嬢様はそうでなくてはなりません!」

マリウスは両手を組んで嬉しそうにしている。・・・何か怖い。


「さあ、お嬢様。もっと冷たい瞳で私をなじって下さい。」

更に間を詰めて来る。もう限界。


「いやああ!それ以上近寄らないで!」

私は手直にあった棒を拾い上げるとマリウスに向けた。


「そう、それです!」

どうやら私の取った行動は余計に彼を喜ばす事になってしまったようだった・・・。


















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