第4話 東京魔法学園

 東京魔法学園。

 国内でも数校しかない、魔法使い養成学校。


 「魔法力」と呼ばれる、わずか1%ほどの人間しか持ち得ない素質を持った俺は、魔法を学ぶためにこの学校へと通っていた。

 もちろん魔法だけでなく、普通の高校で教えるようなことも勉強している。むしろ魔法授業は指導できる教員が少ないため、一般授業のほうが多かった。


 ホームルームが終わるとすぐに先生が入れ替わり、歴史の授業が始まる。

 予習済みなので、自分で調べたことと板書に書かれたことが一致しているか確認し、覚え切れていないことを頭にたたき込んでいった。テストに出そうな所を先生の様子を見てチェックするのも忘れない。

 予習に力を入れ、分からなかった所だけを復習する。

 それが中学から続けている俺の勉強スタイルだった。

 ノートの後ろにまとめておいた年表を見ながら黒板を写していく。


「『赤涙の悲劇』によって発生した『魔法粒子』により、我々は魔法という力を手にいれた。この年号と時系列をしっかり覚えるように」


 赤いチョークで文字を書き付けたあと、黒板を手のひらでたたき、皆の注目を集める。

 教科書に沿った説明を聞きながら、俺は予習済みの内容と違っている箇所がないか、注意深くノートを照らし合わせていった。


 魔法粒子。

 第三次世界大戦、通称「赤涙(せきるい)の悲劇」以降、この地球上に現れた新種の物質。

 

 物質と言えるかどうかも定かではない。いまなおその存在については研究が重ねられている。

 非常に不安定で小さい粒子は、特定の振動によって姿を自在に変えることができた。

 分子レベルで形を変える粒子。

 それが、魔法の材料となる『魔法粒子』だ。


 いまから半世紀ほど前、石油や石炭などの化石エネルギーに頼っていた頃。徐々に枯渇し、価格を増していく資源を求めて各地で戦争が多発していた。

 石油が底をついたと同時に、第三次世界大戦が勃発する。

 その戦争は科学の進歩により甚大な被害をもたらした。


 特筆すべきは原爆だろう。

 A.D.1945年に日本が受けたものより強大なものが各地へと落とされ、いくつもの国が灰燼かいじんと化した。


 爆風だけではない。

 風雨に乗った酸性雨、放射線。死体から発生する疫病。


 世界人口を大幅に減らして、ようやっとその戦争は収束した。

 戦争の勝利国など在りはしない。

 原爆を落とした国、落とされた国。平和のために戦争の停止を呼びかけた国にいたるまで、すべてが被害を受けた。

 いまなお、世界地図に形は残っているものの、立ち入れない地域が多くある。

 痛手を受け、硝煙に包まれた街で、人々は絶望を抱きながら過ごしていた。


 そんな中、世界の理がひっくり返るような大事件が起きる。

 魔法粒子の発見だ。

 偶発的な出来事から発見された魔法粒子はすぐさまその原理を研究され、魔法の活用により街の復興が早まった。

 突如としてエネルギー不足という困難に光明が降り注いだのだ。

 発見から50年。専門の学校が設立され、魔法教育が進められている。


「石油など有限の資源に頼りすぎたせいで戦争が起きた。科学なんて過去の技術だ。またあの悲劇を起こしてはならない。そのためには魔法技術を磨き、さらなる発展を目指さなければならない」


 バンバン、と教師が熱っぽく語りながら黒板をたたく。

 俺は「有限の資源」の上に「戦争の原因」と書き加え、赤ペンで囲った。ここはきっとテストに出るに違いない。

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