Episode8 夢のち夜明け
第73話 文化祭開幕
――お好み焼き! お好み焼きはいかがですか! 今なら天かす、キャベツマシマシだよーっ!!
――占い研究部です。あなたの前世でも恋人の不倫相手でも、何でも占いますよ……。
――まもなく『怠け者AIは億万長者の夢を見るか』午前の部、開演でーす! 体育館でやりまーす! 体育館は渡り廊下の先でーっす! お立ち寄りくださーい!
廊下は滑らかに進むのが難しいくらいの人で溢れかえっており、四方からは活気のある声が絶えず届く。
今日は、いよいよ文化祭。
代休が重なった為か、一般のお客さんに加えて他校の生徒も多く見受けられる。入場者数は昨年よりもずっと多く感じられ、校舎の中も外も人が忙しなく動いている。
そんな中、わたしも自分の教室の前で受付係を担当している。
「ありがとうございました。こちら記念のステッカーです、また遊びにきてください。……お待たせいたしました、次の方どうぞ。こちらゲームで使用するタブレットになります。詳しい操作方法は中で改めてご説明します」
まだ開会してから一時間ほどなのに、客入りは上々。長蛇まではいかないけど、教室前の廊下にはお客さんが列を成している。
案内係の子が誘導を行っていて、順番が回ってきた人からわたしが受付をするという具合だ。
最初はモタモタしていたけど、慣れてくると円滑に説明と案内ができるようになってきた。
そして、次のお客さんを見送って一呼吸つくと、教室の後ろドアから
「お疲れ、
「ううん全然。バイトで慣れてるから」
「そっか。笹希さんはカフェでバイトしてるんだっけ」
「それに、わたしは問題作成担当だったから、当日は仕事ないし。これくらいやらないとね」
「いやいや、クイズ作ってくれただけでも功労賞ものでしょ」
わたし達の出し物はリアル脱出ゲーム。問題を解きながら進んで閉鎖された教室からの脱出を目指す。
クラスの各地点に問題が表示されるモニターが設置されていて、参加者は配布されたタブレットに答えを記入する。
知識を試す問題だけでなく、室内に用意されたアイテムを駆使して正解を導くタイプもある。
「すごく好評だよ。正解すると『やったー』って喜んでるし、間違えると『くやしー! もう一回やりたい!』ってみんな言ってる」
海音さんがお客さんの様子を興奮気味に教えてくれる。
顔を綻ばせながら教室を後にしてくれるお客さんを見ると、きゅんと甘酸っぱい気持ちになる。
「むふふ。頑張って小道具作った甲斐があったね」
そこにひょっこり現れたのは、制服の上からパーカーを羽織った
そんな猫貝さんに「仕事サボらないで早く戻ってよ~」と次に現れた
――
次から次へと入ってくるお客さんを捌かなければいけない。教室内は流動的でかなり忙しい様子が廊下まで伝わってくる。
「休む暇もないくらい盛況だね」と改めて海音さんがニコっと笑う。
今まで文化祭なんて、わたしは居ても居なくても変わらない存在だった。でも今年はみんなの役に立てている。お客さんを笑顔にできている。それがすごく嬉しい。頑張ってよかったと思う。
「何か飲み物買ってくるよ。笹希さん何がいい?」
「じゃあ緑茶で。ありがとう、海音さん」
まだ客足の波は続きそうだ。最後まで楽しんでもらえうように頑張ろう。
***
「やっほー笹希さん!」
「雪原さん、来てくれたんだ! わあ! すごいね、その衣装! それがマーメイド喫茶の制服?」
「そう、人魚コスプレだよん」
雪原さんが衣装を披露するようにその場で一回転する。ぱっと見は人魚の尾なんだけどちゃんと歩けるような設計になっている。上半身は水兵をイメージしたマリンルックな白のワンピースで、もし今が夏ならかなりマッチした外観になっていただろう。
「雪原さんが人魚のコスプレを提案したって聞いたけど」
「うん、そうだよ! でも、こんなに可愛いものに仕上がるなんて思わなかったよ。うちの制作班は優秀だわ」
「雪原さんは今は休憩?」
「あさイチからシフト入ってたから、私のターンはもう終了! この衣装可愛いから、閉会式までこのままでいようかな~って思って」
「わたしもそろそろ交代なんだ」
「おっ、じゃあ私が笹希さんにとってラストのお客さんになるわけかぁ。ラッキー」
「はい、これ。ゲームで使うタブレットね。使い方は教室に入ったら係の子が説明してくれるから」
「脱出ゲームとは聞いてたけど、なかなか本格的だね……」
「いってらっしゃい、楽しんできてね」
「ふふん。天才の私にはちょっと物足りないかもしれないけどね~ふふん。”秒”でクリアしちゃったらごめんね~ホント」
分かりやすいフラグを立てて雪原さんは教室の中に入っていった。
――数分後。
「あ゛ぁ~~~~~だめだった~~~っ! うわあああん!!」
大きく悔しながら雪原さんが出てきた。他の生徒も親子連れもくすくす笑いながら見ている。恥ずかしい……。
「雪原さん、どうだった?」
「四問目で果てました……! あとちょっとだったのにぃ」
「あ~……確かにあそこら辺から少し難しくなるよね」
「でもすごく楽しかった。難易度もちょうどよかったし」
「小さい子でも楽しめるように、最初は簡単な問題にしてあるんだ」
「いや~もう一回やりたいなぁ。あの問題作ったの笹希さんなんだよね? やるね~」
真正面から褒められると嬉しさ以上に照れくささが勝ってしまう。
「一回りして時間が余ったらリベンジさせてもらうね」
「うん! 受けて立ちます! えへへ」
ノベルティのステッカーを雪原さんに渡して、交代に来てくれたクラスメートの子に受付の席を譲った。雪原さんと同様、わたしの本日の業務も終了となった。
「笹希さん、お腹減ったでしょ? うちらの喫茶店に行こうよ」
「うん、行ってみたいと思ってたんだ」
時刻は午前十一時。これからお昼にかけて校外からの流入はさらに増すだろう。
文化祭はまだまだ始まったばかりである。
人ごみを縫って、雪原さんと一緒に彼女の教室へ赴くことにした。
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