第3話 右も左も前も後ろも自分のものなのに
毎朝思うことだけど電車に乗るまでの階段を降りる時に、すれ違う人にわたしの外見はどう映っているのだろう。なんて考えたりする。
登校中の女子高生、やや天真爛漫、だるそう、今にも家に帰りたそうにしている、今どき、まぁいろいろあるだろうけどどれも正解だしどれも不正解だと思う。あぁ、まぁ登校中は間違いじゃないんだけど。
朝起きてしんどいと思うけど家を出た瞬間には少なからずやる気はあるし、帰りたいのは家ではなくってどこか違う場所だし、今どきというのも今どきを分かっていない大人に言われるのは少しまた違うと思う。
あぁ、この思考も面倒だわ。
「和葉」
親がつけた名前を彼女が呼ぶ度にそれがわたしの名称なのだということを思い知らされる。別に悪いこととは思わないけど、先人から貰った名前で生きる様を見る人間のシステムを思うとつくづく子供というのは親の所有物だということを刻まれるな、なんて。そんな事を考えるのすら嫌になって、好きなことに身を任せてみたくなる。わたしはまだまだ若いし、取り返しのつかないことなんて滅多にない。だからこんな公園の人様の目にいつつくか分からないベンチで日が暮れるまで彼女と愛を語り合えるし手も繋げてしまう。
この姿を誰かに見られても誰も直接的には咎めて来ないだろうしそんな資格なんてないし罰だという考え方もおかしいし、つまりは愛は正しくあるべきなのだ。
「どうしたの?」
「ぼーっとしてるからさぁ…」
いいじゃん、ぼーっとしてて。好きな人といるんだから幸せに浸ってぼーっとくらいさせてよ。いつも、いつまでも気を張って生きているんだからさ。これだから同性愛者初心者は困るよ、なーんちゃって。好きな人に悪態ついちゃいたくなるのってなんなんだろうね、思考回路が幼稚園から発達できてないのかな?しかしこんな発達障害のわたしでもこういう時の返し文句は知ってるんだ。紛いなりにも女なもんで
「ごめん、幸せな時間なのに贅沢な使い方しちゃった」
あれ、やっぱり女心分かってないかもしれない。くだらないなぁ、1人の女も満足させられないんだって未熟さを認識するわ。案の定彼女は不服そうな顔でこっちを見てる。怖い。女が怒ると本当に怖い。私が譲歩してるんだから感がすごい。言えばいいのに。恋人なんだから、1人で思考して間違った方向に結論出すのやめて欲しい。
「今日はもう帰ろっか」
さて、どっちのセリフなんだか、と思う。言わせた側の問題なのか言った側の問題なのか、それとも2人とも悪いのか。
また、こうして潮時が近づく音がする。いままで何度も味わってきたダメになる前のこの、心の芯がすっと冷めていく感じ。こんな不安定な毎日に置いても明日はまた来るし、起きたらしなくちゃいけないことは積算してるし、また電車に乗る頃にはどう見られてるのか思考してそうして間違いだらけの評価に嫌になる。反対車線の電車に飛び乗りたくなるのを我慢してみんなのモブに溶け込む努力をしなくちゃいけない。なんでかなぁ、なんで、こうなのかなぁ。
「そうしよっか」
振り絞って出たのだろう声はベンチの前の方に落ちて、地面に馴染んで、直ぐにわからなくなった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます