第2話 無知であってね

神谷和葉。趣のある名前とは正反対の稀にみる問題児だと僕は思う。欠席遅刻早退は数知られず、久々に学校に来てみれば大丈夫かと言いたくなるような髪と制服。なにかと逃げ回り僕に対してまるで、こう、比喩が合っているのかは知らないがゴミでも見るような目で見てくる。初めて話したのは指導中だった。



「百合根くん、かわいいよね。その睫毛とか」



そこで改めて神谷の顔をはっきりと見た。異常に大きく、潤いのある黒目に違和感を感じる。こんな顔だったか、目立つやつだったがこういった役目でもない限り関わることの無い人間だ。もちろんしっかり見たことは無かったし名前だけが一人歩きしている感じもあった。



「指導中だ」

「ねぇ、百合根くんって人好きになったりするの?」

「…どういう意図で聞いている」

「なんかさーもし恋したら全力そうだから」



いいよねーそういうの。言葉に反していかにもつまらなさそうな顔をして続ける。当の本人ももう話題にも飽きているようだし、それが本心かどうかなど僕は知る由も必要も無い。何を言っても身に染みないような感じに腹がたつ。暖簾に腕押しよりも、手応えがない。こいつにはどういう言葉なら通じるんだろうか…宇宙人でも相手にしてるみたいだ


「あー目乾燥する」

「今日は風が強いからな」

「違う違う、コンタクト付けてるから」

「目が悪いのか、」

「カラコン」

「カラ…?なんだそれは」

「親父かよ」


いきなり目に指を突っ込む、コンタクトを外す仕草らしいがどうも痛そうだ。僕もコンタクトを使っているがあんなに荒々しく無いように思う。無理矢理に取り出したそれは黒い縁取りがされていた…そんなものになんの意味があるんだ?



「ほら、目の大きさが違うじゃん?」

「…いや、目自体の大きさは違わないが錯覚で大きくは見えるな」

「……まぁ、うん。そんな感じ」

「で、なんでそんなものを学校にしてきているんだ」

「は?今言ったし」

「?」

「もしかしてわかんないの百合根くんって鈍いんだね」

「なっ!!」

「原始人じゃん、笑える」

「………指導表もう一枚追加だ!!」



とまぁ最初の会話はこんな感じだ。全くもって考える事がわからない。目を大きくしてなんになるというんだ。見える範囲が広がるのか?そもそもあいつはそんなに目が小さいというわけでは…いけない、僕がそう思っても彼女はそう感じていない可能性があるだろう。

それはそうとどこに行ったんだ、逃げ足速くはないと思っていたがもしかしたら機転が効くほうなのかもしれないな。



「………ん?」



きょろきょろと探していると廊下に縦長い紙切れを見つける。誰だこんな大きなゴミを捨てたのは。みんな、自分の学び舎を大切にしなさすぎではないか。校内を綺麗に保つのも生徒会の務めだし、仕方ないが拾っておこう。



「(……な、なんなんだコレは!!)」



これは確か簡易的に写真を撮れ落書きをするプリクラというものだろうが写っているものがおかしい。神谷と…もう一人北星高校の生徒が、女同士というのにも関わらずキスをしている。落書きにも神谷の名前である和葉という文字がはっきりと記されているから間違いないだろう。こ、これは本人に返さなければならないような気がする…!


僕はわけもわからずでもそれは見られてはならないものだろうと感じポケットに入れた。

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