#8 Birth

それから実に20年の歳月が経った。


リーは卒業後、志望通り未開域開拓軍に入軍。

マックスや他の者達と共に必死で頑張り、開拓を進めた。

彼はその類い稀な魔法の素質によりどんどん手柄を上げて、やがてその若さで軍の

准将にまで登り詰めた。

そして、レスリーと結婚し、2人の子宝にも恵まれた。

あと、驚くべき事にクリステン・シロンはキャフール・フェニックスと結婚した。人生何があるか分からない物である。


弟のサムも兄のお陰もあり父と共に幸せに暮らせる様になっていた。

その魔力が、6人の魔王にも匹敵するのではと噂されたリーはいつしか「七人目の魔王」と呼ばれる様になっていた。


そんなある日の事だった。

リー達開拓軍は未開域の森を抜け、辿り着いた場所にいたのは…





その日、人々は気づいた。

森の中からぞろぞろと一団が出てくるのを。

人々の目の前に立っていたのは…













「おいみんな!なるべくたくさん捕まえて帰るんだ!みんなが喜ぶぞ!」



『おい!みんな早く逃げろ!他のみんなにも知らせるんだ!』


お互い、相手が何を言ってるのか意味は通じていなかった。

ただ確かな事は、森から出て来たリー達の姿は、禍々しい怪物。


そして、逃げ惑うケルド達の姿は、だった。



その夜、久しぶりのケルド料理に皆が満足して寝入った夜。


リーは悪夢に魘されていた。



「お前は…誰だ?」


〈俺は、お前だよ〉


夢の中では見た事も無い男がいた。


「どういう事だ?」


〈俺は、元々違う世界にいた。だが、そこで俺は死んだ。殺された。死刑になった。だが気づいたら、俺はお前のもう1つの人格となってこの世界に転生していた〉


「僕のもう1つの人格⁉…そんな馬鹿な…」


〈分からないよなあ?だって俺が出ている間、お前の意識は眠ってたんだからよ。だがお陰で俺は動けた。元々痕跡を残さず、誰にも見つからずに動くのは得意なんでなあ、そうやって俺は前の世界で39人も殺した!…そしてこの世界でもなあ〉


「何だって!」


〈変だと思わなかったか?昔、お前の弟をいじめた奴らがその翌日に死体で見つかった時…〉


「あれは…お前が…いや、僕が?」


〈そうさ。他にも俺は、お前の体を、お前や他の奴らに気付かれぬ様使って、色々やってきたんだ。お前が今の地位にいるのも、俺のお陰だ〉


「何だって?どういう事だ!僕は自力で開拓軍に入って、ここまで…」


〈まだ分かんねえのか⁉お前の才能なんかじゃねえ。俺がお前が眠ってる間に、代わりに勉強や鍛錬に励んでやったから出来た事なんだよ。そうじゃなきゃ、田舎の貧しい漁師の小せがれなんかに、ここまでの事が出来る訳がねえ!〉


「な……!」


〈そしてお前は、俺の計画通り、開拓軍に入って世界を繋げてくれた。礼を言うぜ。に繋げてくれてよお!〉


「……………‼」


〈これでようやく、俺はあの世界に復讐出来るんだ。つまりお前は、生まれた時からずっと俺の作った人生を生きて来た、ただの人形に過ぎなかったって事だよ!〉


「うっ…くぅっ……………」


〈何がみんなの幸せだ!何が七人目の魔王だ!てめえらはただ人間を食い物としか見て無い怪物だったんだよ‼これからは、俺が永遠にお前の体の主となって、魔法使いの王なんてもんじゃねえ、本当の意味での魔王になってやるよ!〉


「うわーーーーーーーーーー!!!!!!」


今、一人の男の中で、2人の人格が戦い始めた。そして……………






『————お伝えしております様に、自衛隊の奮闘も空しく、怪物たちの使う理解不能な謎の力で、東京は、壊滅状態です。人々は連れ去られ、誰一人として、帰って来た者はいません。1年前から始まった、この怪物たちによる襲撃。もう、日本に安全な場所はありません。皆さん、さようなら……………』

テレビのニュースキャスターは絶望仕切った顔でそう言うと、とぼとぼとどこかへ去って行った。


やがて、この侵攻は魔王軍の侵攻と呼ばれるようになり、その魔の手は世界全域に及ぶ事となる。

そして、その魔王リー・ポートレスに立ち向かい、世界を救う勇者と呼ばれる者が現れるのは、今よりまだまだ、先の話である。



The End

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七人目の魔王 火田案山子 @CUDAKI

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