第4話

 ナマコを上から眺めているうちに、その色の違いに気づく。真っ黒なものと、灰色に見えるものがある。砂を被っているのか、体の斑点なのか……、木暮は確かめたくて指を伸ばしたが、ぎりぎりで届かない。

 水中の景色が、明るく、黄色く変った。小さな樹木の形をした珊瑚があちこちに現れた。水は暖かかった。珊瑚のそばに、小さな熱帯魚が群れ、鮮やかな色の点に見えた。水族館で直子と見たのと同じだった。砂底に不規則な縞模様が揺れている。

 進むにつれ、深さが増した。時たま、中形の魚が単独で泳いでいるのに出くわす。小暮は深さを確かめるために立とうとしたが、フィンが底の砂をこするだけで立てない。

 さらに進むと、水中にベッドのような形の岩があったので、二人はその上で少し休んだ。太腿がだるくなっていた。岩の上に立ち上がると腰から上がそっくり水面から出た。直子は先に立上がり、シュノーケルと水中メガネをはずしていた。

「クマノミがいたの、わかった?」

「クマノミ?」

 魚の名前だと気づくまで時間がかかった。

「水族館で見たじゃない」直子は少し不満そうに言う。

「あ、ああ」

「私が、好きだって言ったやつ」

「ああ」名前だけで、姿は思い出せない。だが、覚えていない、と言わなかった自分が不思議に思えた。自分の好みを人に押し着ける女の習性には、うんざりしているはずだが。

 あたりを見回すと、他にもシュノーケルをつけて泳いでいる人がいた。海面に陽が当たり、ぬめるように光っていた。首の後ろと太ももの裏が焼け、チリチリと痛い。直子が言った通りだ。

 直子はマスクをつけ直し、再び海面に身を伸ばす。木暮も後に従う。

 底が一段深くなる。陽の光はまだ底まで届いているが、景色は違ってくる。海草の葉は大きくなり、群れを成す熱帯魚も中型になる。木暮は顔を左右に向けて、めずらしい景色を眺めながら進む。

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