第2話
直子は、地元の海水浴客で一杯のデッキを歩き回り、木暮のところに戻って来ては海を眺め、またデッキを歩き回り、戻って来ては海をながめた。エンジンの音は、ずっと同じ高さで続いている。
前方の水平線に、はりつくように平らな島影らしいものがある。
「あそこかしら」
「うん」小暮はうなずく。だが、初めて来ている小暮に、わかるはずはない。
エンジンの音が軽くなる。島が近づくと、左右に伸びた白い砂浜に、純白のパラソルが立っているのが見えた。その数は、小暮が見たことがないほどまばらだった。
日焼けした家族連れや、学生のグループが、船の降り口へと集まった。浜の中央から突き出た桟橋に船が着くと、二人は他の客を先にやって最後に降りた。
桟橋のたもとに売店があり、木箱に、貸し出し用のシュノーケリング道具が山盛りにしてあった。
小暮は立ち止まり、水中メガネを一つ取り上げる。どうせここ以外に借りる所はない。
「顔にピッタリじゃないと、水が入るよ」と直子が言う。
小暮は、ご親切に、と思うが口には出さず、水中メガネを顔に当てる。鼻の部分が三角のカップになっていて、変装の付け鼻のようで何となく可笑しい。仕事で関わったダイビング雑誌を見て知っていたが、自分が実際に着けるとは思っていなかった。
ゴムバンドを頭の後ろに回し、位置を決めると、目の縁に隙間ができた。これはだめだ、と思い、別のものを試す。
直子は自分のフィンを選んでいる。他の道具は持って来ていたが、かさばるフィンだけは借りることにしていた。
彼女は足が小さいので、合うフィンが見つからなかった。やっと一つ見つけ、それを脇に置き、別のものを探し始める。
「それもピッタリじゃないといけないのか?」
「隙間に砂が入ると、痛いよ」
「そうか」
小暮は自分のフィンを選び始める。いくつか履いてみたが、どれもしっくりこない。だが、俺には何がしっくりくるのか分かるはずはないのだ、と思い、適当に決めてしまう。
道具を借り、白い布のパラソルを借りると、二人はそれを持って、海水浴客がいなくなる所まで浜を歩いた。パラソルを立て、ビニールシートを敷き、短パンとアロハシャツを脱いで、二人とも水着になった。
直子の水着姿はかっこうが良かった。シンプルなハイレッグのワンピースは、細い体に合い、引き締まった下腹部が美しい。ホテルの部屋で見た時の淫麼さはまるでなかった。
彼女はしゃがんで、ブルーの縞のスポーツバッグから、日焼け止めオイルを取り出し、体に塗り始める。
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