北緯27度、東経128度のヒレ

ブリモヤシ

第1話

 小さな湾の中の水は、明るく緑がかった青で、浅い部分が白っぽくまだらになっている。湾を囲んで、両側から堤防が延び、その中央が狭く開いている。堤防の向こうには、明るくて深々とした青色の海が、盛り上がっているように見えた。風は無く、水面はおだやかだった。太陽は強く、地上には影がほとんど無い。湾のまわりに人はいない。皆、陽射しを避け、家の中や木陰に入っていた。

 木暮の乗った船は、外海へ出ようと、堤防の開口部を目指して進んでいた。周囲の全てが止まっている。動く物は、その船以外に、頭上を飛び回る数羽のカモメしかいない。

 堤防の開口部は幅5センチほどにしか見えない。だが、船は、そこをすり抜けて湾を出る。外海のうねりに晒されると、船は大きく揺れた。船長がエンジンの出力を上げ、スピードを出すと、船は重心を取り戻した。

 視界の端から端まで、海は濃く透明な青色をしていた。木暮が振り返ると、堤防がどんどん小さくなり、船が出てきた切れ目もどんどん狭くなっていた。船の航跡が、白く水面に残っている。 船は定員六十人の連絡船で、ほとんどの客が地元の海水浴客だ。

 父親、母親、子供たち、そしておばあちゃんといった構成の家族、あるいは、中学生男女のグループ、みなこげ茶色に日焼けし、ツルツル光る肌をしている。

 木暮は外のデッキの手すりに肘をついて、海を眺めた。隣には直子が、やはり同じように肘をついて海をながめていた。二人とも、白い肌をしていた。

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