第10話

「じゃあ、運転手さん、お願いします」

運転手さんが、バスを動かす・・・


って、父さん?


「よう」

「ようじゃないよ。どうして?」

「作家にはライセンスはないからな。もしものために、大型免許は取っておいた」

「そうじゃなくて・・・」


聖良お姉ちゃんに、手を掴まれる。


「細かい事は、気にしない。レッツゴー」

細かくないです。


バスは走る。

山を越え、谷を越え、湖のそばを通り・・・

って、ここはどこだ?


「父さん、方向音痴か?」

「いや。正確なルートを走っているよ」

「で、どこへ向かっているんだ?」

「行けばわかる」

「行けば?」


車窓を流れる景色・・・

あれ?

見たことあるような・・・


断片的にではあるが、記憶が蘇ってきた。


そうだ。

ここには、前に来た事がある。


意図的にではなく、偶然に・・・


確か、まだ物ごころつくか、つかないかの頃だ。

両親と3人で、来た。


母は、この後に他界した。


間違いない。

懐かしい・・・

とても・・・


そうだ。

この時、ひとりの女の人に、お世話になった。


いつか恩返しをするという、約束をした。

でも、当時の僕には、無理だった。


間違いない。


ここは、僕の人生の拠点だ。

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