第11話
女主人は僕をまじまじと見つめた。こういう態度を取られるのは苦手で、普段だったら引き下がってしまうのだが、この時ばかりは僕も負けずに少々きつい数秒間、僕たちは無言のままでにらみ合っていた。
「効き目ですって?」
女主人はようやく口を開く。
「あなたは一体何を期待されているんですか?」
「だから、恋愛に効くんですよね、これ。全然効いてる気がしないんですけど」
女主人は首を横に振った。
「わかってない……あなた、何もわかってないですね」
そんなことを言って、誤魔化すつもりなのではないか。
僕も負けていられない。これには、僕の恋愛がかかっているのである。その手には乗らないぞ、という心意気でもって、女主人を睨みつける。しかし彼女は少しもひるまない。
「いいですか? 石はあくまでもお客様をサポートするためのものです。石が幸運とかラッキーとか、そういったものを運んでくるわけではないんですよ。その点、ご理解いただいていますか?」
「……そうだったんですか」
てっきり僕はそういうものだと思っていた。使用上の注意点はくどくどと説明されたけれども、どういった役割のアイテムであるかということについては、そういえば僕は一度も質問していなかった。そのうっかりぶりは、いかにも僕らしいと言えなくもなかったのだが。
「それに、こう申してはなんですけど、お客様、ちょっと石に頼りすぎではないですか? 自分は何もしないで、石だけにやれ動け働けと言い続けて。まるで、御伽噺に出てくる悪役の王様が奴隷を扱っているようですわ」
そこまで言わなくてもいいじゃないか、一応客なんだから、と思うが言い返せない。このふてぶてしさ、誰かどうにかしてくれないか。この十代のガキがえらそうに、とでも思っているのだろうか。
「石のせいにばかりして、石が可哀想ですわ。そんな扱いしかできないのでしたら、返して下さい」
「嫌です」
「あなたみたいな方は、どんないい石を持ってても無駄ですよ。石は家来や奴隷じゃないんです。お客様のお友達です。善意であなたの協力をしてくれているだけです。失礼ですが、お客様のような方には、私だって協力したくはありませんわ」
女主人はそういってふふふ、と笑った。彼女が声を出して笑ったのを見たのは初めてだった……なんて言っている場合ではない。
「わかりました。では僕は、……僕は自分で動きます」
そう言うと、彼女の反応も見ずに店を飛び出した。
しばらく歩いて落ち着くと、携帯電話を取り出した。番号は聞いていたけれども、しのちゃんに電話をかけるのは初めてだった。
「話があるんだ。今から、橋のところまで来てくれないかな」
その橋で待ち合わせをするのは初めてだったが、彼女の家の近くだ、ということはきいたことがあった。しのちゃんは「珍しいね」と言いながらも、承諾してくれた。
自転車を力一杯漕ぐ。そうだ、しのちゃんは、僕に相談しながらも、結局は自分の力でなんとかしていた。レターセットを選ぶのだって、手紙を書くのだって、渡すのだって、全部一人でやったんだ。そんなしのちゃんに、石を頼ってうじうじしている僕が選ばれるわけないじゃないか。僕はやるぞ。しのちゃんに告白するんだ!
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