第10話
テストが終わってから、今日もバイト、明日もバイトとせわしなく働き、バイトで貯めたお金で高い洋服やアクセサリーなんかを買っているのだ。彼女が好きなブランドの服は最低一万円はするらしく、数着買おうと思うと、バイト代なんてすぐに吹き飛んでしまうらしい。そのままでも十分可愛いのに、彼女は一体何を求めているのだろう。美人コンテストにでも出るのだろうか。誰かと競ってでもいるのだろうか。あんなに頑張らなくてもいいのに。
服装も、高い服を買うせいなのか、最近急に大人びてきている。以前のように花模様のものをそれことが減り、今日は不思議な幾何学模様の服を着ていた。
そうだな、可愛いというよりも、大人びてきているといったほうが合っているかもしれない。さっき着ていた服は、水色と白のワンピースだったが、花火のような、水紋のような、涼しげで、はかなげで、ちょっと不思議な模様だった。きれいな模様だなと思ってみていると、これはなんだろうと思いつつ吸い込まれてしまいそうだった。ああいうのは、店員さんと相談して選ぶのだろうか。心なしか、しのちゃんの周りに甘めの柑橘系の香りが漂っていた気がするが、香水でもつけていたのか。口紅の色も、少し前よりも色づきがしっかりしていた気がする。
あるいはあの男のことが、彼女を何かに駆り立てているのだろうか。もう二度と失恋しないように、あるいは自分をふった男を見返してやろうとでもするかのように。なんだか悔しいなあ、君はそんなにあの男のことが好きだったのか。もうどうでもいいじゃないか、そんなやつ。ろくに話したこともなかったんだろう、忘れればいいじゃないか。僕がいるのに。
そんな彼女は、気づけば高嶺の花のような存在になっている気もするのは気のせいだろうか……?
「浜野、お前、篠原さんとつきあってないよな?」
「はい」
「それはよかった」
最近、何人かの先輩から同じような質問を受けた。僕が一番有利な立場にいると信じたいが、これはうかうかしていられない。
そして、僕らの友人としての関係が確立していくに従って、告白しにくくなっていくのだということに気づく。きれいにできあがった「友人」という関係を壊したあと、新たな関係をもし築けないとしたら、僕たちは一緒にいられなくなってしまうのだ、そう思うとますます勇気が出なくなる。うう、こんなことなら、さっさと告白しておけばよかったぜ……自分の先見性のなさに腹が立つのだった。
大学には終業式がないので、気づけば僕は夏休みの真っ只中にいた。
恋愛用のパワーストーンを持ってから、もうかなりの月日が経っている。それなのに、しのちゃんとの関係に何の進展もないとは、これはどういうことなのか。
このままでいるなんて嫌だ。そろそろ、本気モードに切り替えないといけないのではないか?
そこで僕は、ミンミンゼミやアブラゼミが鳴き叫ぶ暑い日に、だらだら汗を流しながらもう一度パワーストーン屋へと足を運んだ。
「いらっしゃいませ」
女主人は、今日は白い半そでの、襟に白い糸で花模様の刺繡が入ったブラウスを身につけて、石を磨いていた。
「あら、お久し振りですね。どうされましたか」
今度は僕のことを覚えているようだった。
「あの、この間買ったブレスレットですけど」
「はい」
「これ効き目ないんですけど」
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