第13話:おしまい

「志位さん」


 女子高生は、ぽつりと呟いて、黒とピンク色の瞳で俺の方を見た。慌てて魔法陣の上からその小さな体を摘み上げてどかせる。


「何をするんだお前は!というか、誰だお前はピョン!」

 見れば、あの不細工がぱたぱたと飛びながら、また俺の部屋に侵入しようとしている。俺はそれを睨みつけて、再度殴り飛ばした。

 不細工はバウンドして、部屋の隅にコロンと転がる。


「何故お前のような一般人がボクに触れられるんだ!というか、ボクの魔法陣に触れても平気って、お前、まさか」


 俺は黙って不細工を窓の外に摘み出して、何事かを喚きつづけるそれを無視して、窓を閉めた。


 静かになった部屋には、元のピンク髪に戻った女子高生が、呆然とした顔でちょこんと座っている。俺は、サイドテーブルに飾っておいた女子高生から貰ったあたりめを見た。


「お前、誕プレ、直接渡す気なかったんだな」

「……」

「本当はもう、俺の前に姿を現す気、なかったんだろ」


 誕プレを選ぶと言っても、夜中は帰ってくればいいだけの話だ。こいつはもう、悪の組織のボスになる気で、俺の家に帰ってくる気は本当は無かったのだろう。あたりめを置き土産にして、勝手に俺の前から姿を消そうとしていた。こうなることがわかっていて、俺に迷惑をかけまいとしていたのか?全く、いつもいつも、勝手なやつだ。別れの理由くらい説明したらいいのに。





「……志位さん。もう、記憶が戻ってたんですね」


 女子高生は、俺の顔を真っ直ぐに見ながら、そう言った。あの最後の戦いの時と、全く同じ表情で。懐かしい気分だ。まさか、舞台が1Kの平凡なマンションの一室だなんて、思いもよらなかったけど。




「お前なあ、いくら敵同士だったからって、何も言わないで勝手に一人で決めてんじゃねえよ」


 俺はそう言って、久しぶりに悪の組織のボスらしく、捻くれた笑みを浮かべた。


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