第12話:まよなか
その日の夜、夢を見た。そこは、俺の部屋で、俺は布団の上で寝ていた。帰ってきたちっさな女子高生は、俺が寝ていることを確認してから、すっくと立ち上がった。こいつ、まさか鼻毛を抜く気じゃ、と身構えていると、その次の瞬間、窓が誰も触れてもいないのに、がしゃんと大きく開いた。そこから、ぱたぱた、と天使のような羽を動かしながら空を飛ぶ生き物が入ってくる。なんだあれ。俺、鳥苦手なんだけど。勝手に入ってくんな。
その生き物は、俺の窓枠に足を下ろした。違う、鳥じゃない。月明かりに照らされて見てみれば、ものすごく不細工な縫いぐるみだ。クマとウサギを合体させて100回ほど殴りつけたような、そんな外見。確実に子供受けはしなさそうだ。
その不細工な縫いぐるみは、もそもそと喋りにくそうにフェルト製の口を動かした。
「元魔法少女ピンク。君がずいぶん好き勝手したから、世界は悪に溢れて崩壊寸前だピョン」
おっさんの声音に、おっさん口調である。語尾に無理やりつけられたピョンが行き場をなくして泣いているように思えた。ひどい生き物である。
「相変わらず気持ちの悪い生き物ですね。……要件はもう分かっていますピョン」
「真似するなピョン!……魔法に代償がつきもののように、行動には必ず代償が付き纏う。それが分かっているなら、どうなるかも覚悟できてるだろうな。君が勝手にまだ役割の残っていた悪の組織のボスを封印なんてしたから、こんなことになるんだピョン」
「よく喋りますね。分かってますよ。
だから、わたしが代わりに、次の悪の組織のボスになればいいんでしょ」
端的にそう言った女子高生の目には、何の感慨も浮かんでいなかった。俺は夢の中でその目を見ながら、それはダメだ、と叫んでしまいそうになる。でも、体は動かない。当然だ、これは夢で、俺は寝ているのだから。
「そういうことだ。君にはこれから、悪の組織のボスとして、世界に溜まった悪を消費し続けてもらうピョン」
「いいですよ。世界征服でもして、この世の会社の8割をあたりめ生産工場にしてやります」
「……君、なんでそこまでして、あのボスのことを封印したんだ。勝ちたかったのかピョン?」
「違いますよ。ただ、このくだらない役割の輪廻を終わらせたかっただけです。貴方には一生分からないでしょうけど」
女子高生がそういうと、縫いぐるみはその不細工な顔を歪めてから、何事か呪文を唱え始めた。アニメのように青く光る魔法陣が俺の家の床に現れ、女子高生がその上に立つ。すると、女子高生の特徴的なピンク色の髪が、徐々に黒く染まり始めた。
「本当の、さよならですね、志位さん」
彼女の髪が、先端まで闇のような漆黒に染まった────。
「いやふざけんな!何が染まった──だ!てかお前みたいな気持ち悪い生物が俺ん家に不法侵入してんじゃねえ!」
次の瞬間、寝起きの俺の渾身の右ストレートが、縫いぐるみの不細工な顔に炸裂した。
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