第9話:しんじつ

「協力?僕が?君に?なんで?」


 クエスチョンマークを一文に4個も入れて、由良透流はそういった。心底訳がわからないという顔だ。俺だってイケメンに頼み事なんてしたくなかった。が、俺は女子高生のことを知らなさすぎて、どこへ行ったのかなんて皆目見当がつかない。探すにしてもせめて何か情報がないと、探しようもない。だから、由良透流になんでもいいから、あの女子高生について教えて欲しかったのだ。


「……頼むよ。なんか知ってる風だったろ」

「そりゃね。でもそれを君に教える筋合い、僕にある?」

「……。もし、あいつが俺んとこ戻ってきたら、お前の探してる人とやらのこと、あいつに話させるから」


 頼むよ、と俺が再度言うと、由良透流は整えられた眉毛を少しだけひそめてから、大きくため息をついた。交渉は成立したらしい。


 **


 簡素な紺色のソファに座って、由良透流と向き合う。「喉かわいた」と俺がいうと、「はあ!?」と吐き捨てた後に、少しして由良透流は二人分のコーヒーを持ってきた。湯気がたっている。マグカップはシンプルなデザインだが、質のいいものだということがわかった。イケメンはあれか。持っているものもいいのか。


「君は、どこまであの女子高生のこと知ってるの?」


 ずぞぞ、とコーヒーを含んで、俺は少々考えた。どこまでもなにも、なにも知らない。俺がゆっくりと首を振ると、由良透流はため息をついて足を組んだ。


「1から説明するの、面倒だな。……とりあえず僕が何を言ってもいちいち突っ込まないでよ。面倒だから」

「わかった」

「じゃあ言うけど、……いい?君と一緒に暮らしてるあの女子高生は、元魔法少女だ」



 ぽん、と由良透流の口から放たれた言葉に、俺は口の中の苦味を、ごくりと喉奥に押し込む。ふーん、まほうしょうじょ、ね。あいつが。まほうしょうじょ。……魔法少女。魔法少女。まほう、しょうじょ。…魔法少女!?はあ!? 

あまりにも唐突すぎる展開に、思考がショートする。ファンタジーかよ!?あ、いや、女子高生が小さいってだけで、ファンタジーだったか。いやそれにしても、だ。それにしてもすぎるだろ。


「それで、僕は悪の組織の四天王の最弱ポジションだ」

「あ、それは何となくわかるわ」

「君僕のこと馬鹿にしてるだろ?!」


 コーヒーをすすりながら、頭の中であのピンクのアホ毛がフリフリの戦闘服で音のなるステッキを持って戦っているところを想像する。あ、意外とありそう。そんな想像と同時に、俺は少し心の中で首を傾げた。あれ、聞いた最初こそ驚いたけど、なんで、あいつが魔法少女ってことにあんまり違和感がないんだろう。……それどころか、するりと引っ掛かりもなく簡単に飲み込めた。由良透流がとんちんかんで素っ頓狂な嘘をついているなんて可能性が、頭の中にちっとも浮かばない。、という確証が、俺の中にあった。朝だから、まだ頭がよく回っていないのだろうか。



「だいたい、普通に考えて、頭と目がピンクの奴なんて、地球外生命体か魔法少女くらいしかいないよ」

「あいつ、ピンクってことは真ん中張ってたのか」

「そうだよ。いつも僕らの作戦を邪魔しにきて、いつも公共の道の真ん中で露出して、あたりめ食べながら変身してたからね」

「ふーん。で、お前が探してるっていうのは?」


 由良透流は、俺の問いに少し俯いたあと、足を組み直した。


「僕が探してるのは、最後の戦いでいなくなった、僕らの組織のボスだよ。……きっと、あのくそピンクに封印でもされたんだ」

「ボスって、悪いやつじゃん」

「違う!僕らは別に、悪いことをしたくて悪の組織なんてやってた訳じゃない。そういう役割を世界から与えられてただけだ」


 興奮したのか早口で捲し立てる由良透流に、俺はふーん、と返した。こいつらの事情になど興味はなかったので、適当に頷く。俺はただの元魔法少女と同居していた一般人なのだ。……それにしてもこのコーヒーうまいな。どこの豆だろ。


「魔法少女だってそうだ。「上」のやつらに正義の役割を与えられて実行してるだけ。……僕らもそう。「上」に悪の役割を押し付けられて実行してただけだ。この世界のバランスのために」


 虚な目をして、「この世界」とか言いはじめた由良透流から、少し距離を取る。話が壮大になってきたが、とりあえずなんとなく女子高生のことはわかった。やつはピンク担当の元魔法少女だった。


「……あー、お前らの事情とかはいいよ。それより、あいつが元魔法少女だったってんなら、同僚とかいたりしねえの?」


 女子高生が見ていた、日曜のプリキュアを思い浮かべる。たしか魔法少女って、ピンクとかブルーとかイエローとかいたはずだ。……ああ、そういえばあいつ、いつもあれ見てたけど、同族だったからか。自分と同じような職業だから、懐かしかったんだろうか。


「青なら、居場所わかるけど……、でもあいつ、おっかないよ?僕5回くらい殺されかけたし」


 由良透流は、その時のことを思い出したのか、少し顔を青ざめてそう言った。悪の組織が女子高生に怯えてどうする。「案内しろ」と俺がいうと、由良透流は「なんでこいつこんなに偉そうなの」とボソボソ言いながら、上着を羽織った。


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