第10話

「多分ここから入れると思う。あくまで予想だけど」

「予想?」

「前はここから入れたんだよ。随分前だけどな」

「お前、過去にも不法侵入をした経験があったのか。前科者だとは知らなんだ」

「いや、その時はここの生徒だったんだよ。まぁダメなことなのは確かだけど。というかウルズル、お前は俺の過去を見てきたんだから、そのくらい知ってるんじゃないのか?」

「いや、過去の全てを見れるわけじゃない。決定機関が作成した書類に目を通しただけなんだ。その書類の文章量から類推するに、どうやらお前の過去の行いが抜粋されてるらしい」

「書類って、一気に現実感出てきてちょっと残念だわ」

ウルズルの口からそのワードが出てくるとは思わなかった。

というか、俗に言うファンタジー的な世界から来たんじゃないのかよ…

「お、開いてるな、良かった」

ひょいと軽々フェンスを越えられ…なかった。ただでさえニート生活を謳歌していた身だ。体力の低下は避けられない。

なんとかフェンスの上までよじ登り、地面を目視しながらゆっくりと降りる。

これだけでも重労働。本当に人間という生き物は少し怠けるだけで色々な要素が低下していくもんだな。

ウルズルとフェルニルは透過能力を使っているので、勿論フェンスも関係ない。クソが。

開け放たれていた窓から颯爽と侵入、そして成功。

だが、ここまで順調にいきすぎではないだろうか。

邪推をしているうちに、ウルズルが実体化し、嬉々として8時の方向に指を指している。

「お〜、あれが教室というやつか!?」

「違う、そこは体育館だ。主に集会とか、体育の授業をしたりする」

あと部活動、と言おうとしたが、部活は何やってたんだ?とか聞かれたら元も子もないのでやめておいた。

俺、部活入ってなかったし。

どうでもいいが、俺は帰宅部というフレーズが大嫌いだ。バカにされてる感じがたまらなく憎い。

帰宅なんて誰もがする行為だろうに。

嫌な記憶が、脳の奥深くから掬い上げられる。それを抑制するために、ウルズルに話しかけた。

「教室は2階から4階まである。見たいなら階段を上がるぞ」

持参したライトを使って廊下を歩いていく、体育館から1番近い階段を登ろうとした瞬間、向かいの保健室からガタガタッと、何かが倒れる音がした。

え、何これ。

風で倒れたにしては大きすぎる物音に怖気付く。

警備員?いや、そんなはずは無い。

あの時と同じように、あの窓が開放されていたということは、恐らく警備員は変わっていない。だとすると、この時間帯は詰所で寝ている筈なのだ。なにせ昔のことなので、多少の時間のズレはあるかもしれないが。

なんにせよ、確率は少ない。

他の人間がいるとしたら、相当まずい。

こんな静寂の中に、口煩いウルズルと甲高い声が特徴的なフェルニルが話し始めただけで通報されてしまう。

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