第8話

俺と妹は母方の親戚に引き取られたが、あまり歓迎はされていない様子。

それもそうだ。

俺は中学2年生で、妹は小学5年生。少なくとも俺は大人が1番扱い難い年齢だし、妹だって普通の小学5年にしては達観者だ。

そもそも父親から暴力を振るわれ、学校にも居場所がなかったらそういう思考にもなるよ。

母親は、親戚の住所だけ書いて夜逃げしたらしい。

何故親戚の住所だけ書いたのか。

これが親心ってやつ?ハハ。泣かせるね。

嘘だよバーカ。

ふざけるのも大概にしろってんだよ。

人生、辛い。

まぁ正直言うと、今の学校のクラスに友人と呼べる存在がいないわけではない。

だが、会話についていけない。

同じ空間にいるはずなのに、心の距離は太陽と地球くらい離れている。

実際太陽と地球がどのくらい離れているのかは知らない。

興味がない。

先生と話しても憐憫の目を向けられるだけだ。

「可哀想だね」だとか「何かあったら相談してね」だとか。

良い教師ぶってるのが気持ち悪い。

大人は怖い。大人は怖い。

でも善悪の判断がつかない無教育のガキが1番怖いんだよ。

今からそれを証明してやる。

よくよく考えると、善悪の判断って言ったけど、 そんなことを考えてる時点で判断は付いている。

今からやることは悪いことだと理解しているからね。

人間という生き物は理性が強く働くからなー。

イライラする。

普通に生きてヘラヘラしてる人間に腹が立つ。

偽善者に腹が立つ。

これまでの様々なフラストレーションの蓄積をここで解放してやるんだ。

時は丑三つ時。場所は学校。

ただの学校じゃない。夜の学校だ。

学校という場所に良い印象を持たない俺ですら、このシチュエーションには胸の高鳴りを抑制出来ない。

敷地内に入るため、フェンスを超える。

滑り止めがばっちり効いた軍手を持ってきて正解だった。

さて、あの場所が開いてればいいんだけど。

裏門のすぐ横には体育館があり、保健室に続く連絡通路がある。この裏手にある窓が開いていればビンゴだ。

駆け足でその場へ向かう。

「よし、ビンゴ」

予想が当たっていた。

何も、今日初めて夜の学校に侵入したわけではない。出来る限りこの時間帯の校舎を観察していると、警備員が巡回しない箇所を発見したのだ。

中1の4月、つまり1年前、その時から同じ警備員が勤務していた筈だ。

同じ労働内容は、時に油断を生む。

いや、「時に」どころではないかもしれない。

正直、学校に不審人物が侵入してくる確率はとんでもなく低いだろう。安全大国日本に感謝。

という訳で、軽々と窓から校舎へ侵入成功。

不敵な笑いが、体内の何処からか込み上げてくる。

これから起こる事を思うと。

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