第3話

 死んでない。

 どうやらまだ生きていたらしいが、目の前は眩いばかりの閃光に包まれている。

 もしかして、これが噂に聞く走馬灯なのか。

 視界に黒いシルエットが映った。

 もしや、これがフランダースの犬でいう「天使」の迎えなのか。短い人生だった。

 人生の終焉に直面しているにも関わらず、諦観の念以外に感情が無かった。

 いつもそう。常に自分の人生に枷を掛け続け、人間社会の競争にすら参画しなかった。

 己の弱さがこの人生の結末を呼び起こしたのなら、それも一興。

 否。いや。それでいいのか本当に。

 ある哲学者は言った。後悔した者こそ赦されると。

 これは罪人に関する明言だが、これはこれまでの俺の人生にも大いに言えることだ。

 まだ諦めたくない。もしもチャンスがあるならやり直したい。

 あの日、あの時、あの場所で、別の選択を取っていれば──

「俺はっっっ!」

 慟哭と共に我に帰り、視界に入っていたシルエットは『フランダースの犬』に登場するような天使ではないことに気付く。

「なんだ…あれ」

 段々と接近してくる謎の物体が人型を成していることは分かった。ただ、俺が想像していた天使よりも随分大きい。

 あたり一帯は未だ燦々とした閃光に包まれていたが、少女のように見える。

 鳥類(なのかは分からないが)に捕まり、俺と対峙出来るくらいの高さで停止した。

 そもそもあたり一面がライトのように眩いので、地上も変だくれもない。

 黒いワンピースに煌びやかな金髪の髪とボブヘアー、王族の娘を彷彿とさせるビジュアルに圧倒され、声が出なかった。

 まごうことなき金髪の少女は一歩一歩、こちらに近づいてくる。

「お前、過去に戻ってやり直したいか?」

 開口一番に発せられた言葉に困惑する。

 何をどう返せばいいのか分からないので、出来るだけ会話のキャッチボールを成立させようと試みる。

「どういうことだ」

「言葉そのままの意味だ。お前、梅谷狛江は決定機関により選別され、先ほどの最終選別も通過した。規定により、過去への遡行許可が降りたんだよ」

 美少女とは思えない口調に気圧されたが、今日は不思議な事が起きすぎていて耐性が付いている。当たって砕けるしかない。

「そんな急に怒涛の説明ラッシュじゃ整理が付かないよ。まずこの空間はなんなんだ。そこから教えてくれないか」

 金髪少女は一瞬嫌悪感を表に出したが、続ける。

「これは外界と現界を繋ぐ要因だ。別にこんな眩しい空間じゃなくてもいいんだけどな。まぁ私がここに転移する為の引き金だと思ってくれていい」

「分かったような分からないような…まぁいいや。で、さっき言ってた決定機関?の人が俺に何の用だよ。さっき選別がどうのって言ってたけど」

「簡単に言えば、選別により、お前は過去に遡及出来る権利を与えられたんだよ。色々制約はあるけどな」

「過去へ戻る事が出来るって…本当なのか」

 半信半疑の最中であるにも関わらず、心なしか、俺の胸は高鳴りを覚える。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る