第7話 こうするしかない!
「待ってくれ落ち着いてくれ!!」
「嫌ですっ。お断りします!」
「おい!! 頼む
ここは恐らく、僕達の教室と同じ階にある空き教室だ。去年の文化祭のときにここに運んだ荷物が
もう一度言おう。目の前に半裸の女子生徒がいる。この状況の危なさを説明するにはもはやこの一文だけでよかった気がする。
「さあ、早く! どっちにするんですかっ!」
「待て!! か、考え直せ
そして言い忘れていたが、彼女はこの学校の新聞部の部長である。
勘の良い方ならもう察しているだろうが、先程の昼休みで僕と
僕はそれをネタに今まさに脅迫を受けている。
彼女の提示した脅迫内容はこうだ。
『
彼女は頭でも打ったのだろうか。自分が何を言っているのか分かっているのだろうか。
要するに彼女は、
やはり頭を強打したのだと思われる。
「て、ていうか
「隣の科学部からお借りした薬品で一発でした!」
「一発でした! じゃねえよ!! んで、それってあのクロロホルムとかいうやつか?」
「いえ、クロロホルムは実際には長時間嗅がせないと意味が無いみたいでしたので、もう少し強いお薬を頂きました!!」
どうりで意識を失ったときの記憶が無いわけだ。うちの高校の科学部はマッドサイエンティスト集団であることで有名だ。危険な薬を持っていてもそこまで違和感は持てない。頼むから先生たち、仕事してくれ。
「もうこんなことは・・・って、おい!」
「はい? ・・・なんでしょう?」
「なんでしょう? じゃねえ! ぼ、僕に
「お断りしますっ!」
語尾に音符でも付きそうな調子で依然として満面の笑みを浮かべる二偶。彼女は今、座っている僕の両膝に跨り、こちらを向いて座っている。ちなみに彼女は今下着以外を身につけていないので、これが他の人にでも見られようものなら間違いなく僕はお縄である。
というかその、女性特有の良い匂いと目の前の半裸体があまりにも暴力的でこのままではいろいろと危ない。
「は、ははは話をしよう二偶、頼むから・・・んぐっ!!」
「へへへ、
その体勢のまま僕は抱きつかれた。つまりどういうことか。僕が産まれて初めて女性の胸に顔を埋めたということだ。
彼女には僕の話を聞く様子が一切無く、このまま何も抵抗しなければ僕は社会的立場を完全に失うことになる
「はぁ・・・はぁ・・・。てかそもそも何で僕と付き合うことが交換条件なんだよ・・・!」
「・・・へ? 星野くんのことが好きだからに決まってるじゃないですかっ!?」
「・・・へ?」
待て待て意味がわからん。落ち着け。いや僕が。
「本当に言ってるのか・・・?」
「本気じゃないとこんなことしません!」
「でも、なんで・・・?」
「なんでって・・・星野くんが優しくてかっこいいからです!」
「・・・ふぇ?」
彼女の頭上に音符が浮かんでいるのだとすれば、今僕の頭上には疑問符が並んでいることだろう。全くと言ってもいいほど心当たりがない。好かれるようなことをした覚えなんて微塵もないし、第一、僕は決してかっこよくなどない。
「と、とりあえず降りてくれ話をしよう」
「わ、わかりました・・・」
そう言うと素直に他の椅子に座り直す二偶。あ、
「それでだ。何故こんなことをした。」
「だからさっきも言ったように、星野くんのことが――「ああ分かった分かったそこはもう言わなくていい!!」
そう、シンプルに恥ずかしい。悪いかよ。
「でもそれならそうとこんな事しなくたって・・・」
「だって星野くん、翠川さんのこと好きだったじゃないですか。」
「えっ」
「えっ」
「気づいてたのか」
「そりゃあもちろん、ずっと見てましたから」
最後の不穏な言葉は聞かなかったことにするとして。まさかあの片想いがバレているとは思わなかった。しかもこの最悪の相手に。
「星野くんが翠川さんと双子だって聞いて・・・」
「聞いて・・・?」
「こうするしかない! と思いまして」
「なんでそうなるんだよ」
「だってそうじゃないですか! 星野くんがどれだけ翠川さんのことを好きでも、二人は双子です、家族なんです! だったらわたしが星野くんの次の好きな人になってしまえば万事解決じゃないですか!」
「ごめん後半よく意味がわからなかった」
「もう!! でもそんな鈍いとこも好きです!!」
「っ・・・!」
人に『好き』と言われることの無い人生を送ってきたため、どうもそういう
「星野くんは翠川さんを忘れられるし、二人は新聞を書かれなくて済むし、わたしは星野くんと付き合うことができます! それってもう言うことないじゃないですか!!」
彼女の言いたいことは解った。たしかに
でも、それでも。
「・・・ごめん、二偶。やっぱり僕は君とは付き合えないよ。僕が五月のことを好きだからではなくて、そんな中途半端な気持ちで君と付き合うのは失礼だと思うんだ。」
「でもわたしは、それでも・・・!」
「・・・ごめん。」
「・・・。」
「僕だって最近まで、何なら今だって片想いをしてるんだから気持ちは分かる。痛いほど分かるよ。そりゃあ本人の気持ちは本人にしか分からないと思うし全部は分かりきれないけど。でも僕は、仮に五月と中途半端な気持ちで付き合ったとしてもきっと納得いかない。どこかで必ず傷付くと思うんだ。」
「・・・っ。・・・うあぁ」
泣き始める彼女に、僕は何もすることができなかった。・・・いや、まあ縛られてるからなんだけどね。
「・・・解いてくれるか?」
彼女は頷いて、僕を縛っていた
「・・・ごめんね、星野くん」
「ううん、いいんだよ」
「・・・ありがとう」
「こちらこそ。」
そう言葉を交わすと、彼女は涙を拭いた。
そしていつも通りの満面の笑みで、こう言った。
「いつか絶対、わたしに振り向いてもらいますから! 覚悟してくださいね、星野くん!!」
これは後日談だが、何日経っても、例の新聞が学校に貼り出されることは無かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます