第4話 私たち双子なんだよね
「お、おはよう! ほし…
「みど…あ、
向こうの告白が衝撃的すぎて薄れてしまっているが、僕は昨日、彼女に告白をしているのである。双子だの家族だのという話は置いておいて、シンプルにめちゃくちゃ恥ずかしいのだ。挨拶が一時間目の後というのもそこに
「まぁ双子なのに苗字で呼び合うとかおかしいしねぇ」
「名前で呼び合うのも当然っちゃ当然だね、三輝くん。」
僕と五月の様子を見ていたのであろう
「まあね。流石にまだ恥ずかしいけど。」
「別に女の子のこと名前で呼ぶのとか普通じゃないのぉ?」
「普通じゃねえよ。お前みたいなちょいチャライケメン野郎には分からないだろうけどな」
「ボクもそれは少し抵抗あるかな。兄さんみたいにイケメンじゃないし」
「いやお前ら顔は一緒じゃねえか」
使い古された双子ボケをやめてくれ十一。ツッコむの少し
ツッコミにはツッコミなりのプライドというものがあってだな。付き合いの長いお前らなら分かるだろ。いや、何の話だよ。
なお、彼らがイケメンだというのは割とガチの話で、それぞれ異性からのアプローチを受けている場面を目にすることは少なくないし、同学年の女子数十名による非公式の人気投票が開催されたという噂も耳に挟んだことがある。顔は同じイケメンでも、それぞれに違った良さがあるとかで。よく知らんしあまり知りたくもないけど。
それはさておき、折角の
ああ、『翠川さん』じゃなくて『五月』だよな。本当に慣れないなこれ。
———
あっという間の昼休み。正直、二、三、四時間目の内容は
「み、三輝」
「ど、どうしたの、さ…五月」
朝の挨拶以来の会話である。依然ぎこちなさは残るものの何とか返事をする。
自分が彼女の名前を呼ぶのも気恥ずかしいのだが、彼女に名前を呼ばれるというのもなかなかにむず痒いものである。双子相手に何言ってんだって話だけど、このケースは例外だよな?
「その…一緒にお弁当、食べない?」
「ふぇ?」
驚きのあまり間抜けな声を上げてしまった。
今までの五年間で、彼女と一緒に弁当を食べたことなど一度も無い。それどころか、誘ったことも誘われたこともないのだ。突然のお誘いにあたふたしてしまう。
「ほ、ほら! きょうだいの仲を深める、みたいな」
「な、なるほどね! そうだね! そうしよう!」
また脊髄で会話をしてしまった。やめたい。全肯定のヤバいオタクのような発言に自分でも少し引いた。
しかし僕はどうやら、彼女と弁当を食べることができるみたいだ。諸事情はあれど、夢にまで見た二人で過ごす昼休みだ。目的は他にあることを頭では分かっていても、
「流石に教室じゃ話しにくいこともあるし、場所変えない?」
「それもそうだね、移動しよっか」
というわけで僕らが来たのは校舎横の中庭である。ちょうどいいベンチもあるし、人通りも多くない。弁当を食べながら話をするにはうってつけの場所である。ちなみに、先程からいくらか言葉を交わしているので、徐々に緊張も解け、普段通り会話ができる程度には気持ちは落ち着いた。
ひとまずベンチに座り、お互いに弁当を広げた。
「えーっと、三輝」
「なに? 五月」
下の名前で呼ぶことにも徐々に慣れてきた。これは大きな成長である。別に誰に見せるわけでもないドヤ顔で、タコさんウインナーを頬張る。
「…ハグとか、してみない?」
「ッッ!?!?」
危ない。タコさんが口の外へと逃げ出してしまうところだった。
なんとか胃の中へと押し込み、僕は聞き返した。
「な、なななななんで急にそんな」
「…だ、だって私たち、家族なんだよ? そ、そそそそれくらいできて、と、当然じゃない?」
「…も、もしかして五月、なんか焦ってる?」
「えっ?! 焦ってない焦ってない全然全く必ず」
必ずってなんだよ。
何に、かは分からないが、五月は焦っている。確実に。
察するに、状況を飲み込めてないのは僕だけではない、と言ったところだろうか。彼女も彼女なりに悩み、今後どうすればいいのか、僕とどう接すればいいのかを考えた結果の発言だったのだと思う。だいぶずれてはいたけど。
まあ無理もない。恐らく彼女自身も、事実を知ってから僕にそれを伝えるまでにそこまでの時間をかけていないのだろう。ただし発言の内容が唐突すぎる。僕の心臓のためにも以後気をつけてほしい。
「と、とにかくハグは無し!」
「…そっかあ」
「なんでそんな悲しそうなんだよ」
「ハグ、嫌だった…?」
?????????????????
不安げな表情のあまりの可憐さに一瞬思考が停止してしまった。
そして嫌なわけが無い。思い出せ。昨日僕は君に告白をしたんだぞ。冷静に考えるんだ。つまりそういうことだ。どういうことだ。毎度のごとく全く冷静ではない。
「いやいやいや全くそんな嫌とかじゃなくて! やっぱりどうしても恥ずかしいというかなんというか・・・」
「・・・! そ、そうだよね! ごめんね突然!」
「い、いや良いんだよ」
いつの間にか、会話の流れが止まってしまった。
お互い少しずつ弁当を食べ進め、しかし食べ進めれば食べ進めるほど気まずさは増していった。直前の会話の恥ずかしさが凄まじいものなだけあって、話題が思いつかない云々ではなくそもそも話しかけることに勇気が必要なレベルである。しんどい。
「あ、ハンバーグ入ってるんだ」
「・・・えっ、ああ、昨日の夜作ったからついでに小さいのも焼いといたんだよ」
「ええ!? このハンバーグ三輝が作ったの!?」
「まあ・・・ハンバーグっていうよりはこの弁当全部だけど」
「本当に?! すごいなぁ、私なんていつもお母さんに作ってもらっててさ。私のお母さん、すっごく料理上手で。」
「…まあそのお母さん、僕のお母さんでもあるんだけどね」
「あっ。」
僕たちは顔を見合わせて、同時に吹き出した。
普通では絶対にありえない会話である。自分たちが双子であることを最近初めて知り、
「ふふ、そうだよね。私たち双子なんだよね」
「そうだよ、しかもついさっきまでその話してたのに、ははっ」
お互い変なツボに入り、しばらくお腹を抱えた。
「ねえ、あのさ、」
「ん?」
「一口、食べてみたいな。三輝のお弁当。」
「ええ…そんなに美味しくないよ…?」
「ううん、三輝の料理が食べてみたいの」
「そ、そっか」
少しのむず痒さを覚えながら、僕は自分のハンバーグを箸で少し割った。
「な、何してるの五月」
「え? 食べさせてくれるんでしょ?」
「え、ああ、まあ」
五月は口を少し開け、その顔をこちらに向けている。
「…! 美味しい! …って、あれ?」
「ど、どうしたの」
「これって、完全に『あーん』だったよね…?」
「…まあ、そうなるね」
「ええん…忘れてぇ…」
なんなんだこの可愛い生き物は。自爆じゃん、などとツッコむ余裕は当然無く、咄嗟に僕も口元を隠した。
これは後から聞いた話なのだが、僕のハンバーグは母親のものと同じ味がしたらしい。それ昨日父さんも言ってた。
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