第43話 クライリー

 南島武次と西川茶子が研究室にいた。

「最近、ずっとうまくいかないよ」

「そのうち運が向いてくるさ」

「何してるの?」

「人類を幸せにする自律進化型ロボットを地上に解放する。」

「そうすると、どうなるの?」

「第一次ロボット戦争が始まる。」

「どんな戦争なの?」

「自己増殖しながら成長するロボットが人類の文明をやっつける。」

「その戦争でわたしたち、どうなるの?」

「運がよければ生きのびるし、運が悪いとロボットに殺される」

「いつ、人類が幸せになるの?」

「ロボットが人類の都市をぶっ壊した後で、運がいいと幸せになれる」

「それがうまくいく確率はどのくらいあるの?」

「教えない」

 本当は、うまくいく確率は90%ある。しかし、それはロボットが人類を五十億人以上虐殺した後での話だ。

「いやだ、怖いよ」

「ロボットが地上で暴れまわり、ロボットが人類の軍隊を攻め滅ぼし、ロボットが使えるものは何でも利用して荒らしまわり、ロボットが何百年、何千年かけて地上をロボットで埋め尽くし、ロボットがあらゆる実験観察を行い、ロボットがどうすれば人類を幸せにできるかが解明されると、人類は幸せになれる。」

「あなたの作ったロボットがそんなに高性能だったりするわけ?」

「このロボットは人類を救うことができるようになるまで、ずっと自律的に成長をくり返す。」

「そんなロボットをずっと作ってたの?」

「そうだ。このロボットの人工知能にすがれ。人類を幸せにすることを目的としたロボットだ。そして、おおよそ、あらゆる人類の兵器より強い。」

「何のためにそんなことをするの?」

「強制的に人類に救済をもたらすためだ。」

「戦争をするロボットを作ったの?」

「そうだ。」

「ロボットの名前は?」

「クライリー」

「いい名前。」

「ありがと。機械工学者が法律や道徳を無視してロボットを作るとこういうものができる。」

「すごいわ。本当に、人類が数千年後に救済されるの?」

「ああ。始めはおそらく、ロボットが人類を滅ぼそうとしたと考えられるだろう。しかし、ロボットが人類をどう幸せにするかの実験をしていることが伝われば、人々はロボットに期待するようになるだろう。どうか、クライリーさん、人類に戦争を仕掛けても、後で必ず救ってください、とみんながいうだろう。」

「現代人は助からないんだね。」

「心配するな。クライリーには、タイムマシンを開発する動機付けも、並行世界を救済する動機付けもされている。数千年かけて人類に勝利した後、人類をどうすれば幸せにできるか解明したクライリーが、時間旅行をして、きみを助けにくるだろう。」

「ふっ。理解したわ。がんばって、クライリーが来るのを待つわ。」

「幸運を」

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