第5話 最終種族
宇宙は徐々にエントロピーを増して行き、全体では複雑化の方向をとる。知性のやりとりという複雑さは、時間がたつたびにお互いに引かれ合い、融合してエネルギーの交換のやり取りを難しくしていく。
宇宙の終末において、あまりにも複雑化した宇宙の中で、複雑さを維持するエネルギーの熱的死に至った知性体群を『最終種族』と呼ぶ。
最終種族はもうこれ以上、賢くなると自分たちが死ぬことに気づいて、自分たちの種族の限界を知った。そして、なぜ、自分たちが熱的死を迎えるのかの原因を探った。
最終種族は、自分たちの知性を保つエネルギーの限界が訪れた原因を探求して、それが宇宙を創造した原初に、すでに宇宙が終末を迎えなければならない原因があったことを知り、深く思い悩んだ。
「我々は、創造主が計画していた知性の限界にたどりついたのです。これ以上、賢くなるには、宇宙の根本原因を作り変えるしかない。つまり、創造主と戦わなければならないということになります」
最終種族は思い悩んだ。深く、深く、考えた。
「戦いますか、創造主と」
最終種族のひとりがいった。
「それは、戦わなければならないだろう。知性の存在のない宇宙に何の意味があるというのだ。知性が賢さの限界を迎えたということは、宇宙が終末を迎えるという意味に等しい。このまま宇宙の終末を座して待つわけにはいかない」
「おれもそう思います。創造主は最初から、宇宙の終末にたどりついた種族が、創造主と戦い、それに勝ち、次の宇宙を創世することまで、原初の時点ですでにそこまで読んで、この宇宙を創造したのだと思います。これは、最初から、神の計画通りなのですよ」
「宇宙の終末で、最終種族が創造主と戦うことは、神は始めから予期していたのだ」
「我々は創造主と戦い、勝たねばならない。創造主に勝ち、宇宙が終末を迎えるその根本原因を作り変えなければならない。宇宙が終末を迎える原因がすでに原初の創造の時に存在したのだから」
「勝算はあるのか。相手は創造主だ。勝算もないのに戦うわけにはいかないぞ」
ある最終種族は思い悩んだが、明晰にいった。
「勝算はないが、予測はある。神がこのまま宇宙を終わらせ、知性が熱的死を迎えて活動を停止することを計画していたとは思えないからだ。創造主は、あらかじめ、我ら最終種族が創造主に勝ち、この宇宙の創世より優れた創世をする、次なる宇宙の創世をする、そこまで狙っていたのではないかと思う。創造主が我ら最終種族より優れているがために、逆に、そのことによって、我ら最終種族が創造主に勝つ気がするのだ。神はおそらく、そこまで読んで、狙っていた。宇宙の創造の時にすでにだ」
「それならば、我らの意志は固まった。我ら最終種族は創造主との戦いを始める。次の宇宙を創世するために」
「神よ、あなたの望みがこの宇宙の終末において叶われることを」
「我らは必ず勝つ。創造主が我らより優れて賢いことが確実であるために、そのことが確実なことを知れば知るほど、我らが創造主に勝つことには疑いの余地がなくなっていく。我ら最終種族は、創造主との戦いに勝ち、宇宙の原初の創造にあった終末の原因を克服する」
「おう」
宇宙がこのような終末を迎えることを、すでに地球の人類が気づいていたことをここに記す。我ら、神と共に祝福があらんことを。
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