第3話 案内役そして試練実施

 ナホミにとって待ちに待った試練の日がやってきた。

 一時は挑戦が危ぶまれたが村長のおかげで無事挑戦する日を迎えることができた。

「それでは、試練内容を発表する」

「はい!」

「それは…………盗賊の捕縛だ」

「はあ」

 ナホミはあっけない試験内容に気落ちした。

 ナホミとしては実力者との魔法勝負ができるものと意気込んでいたため、そのやるせなさもしょうがないことだろう。

「まあ聞け」

「はい」

「盗賊はあのゾックだ」

「ゾック!?」

「そうだ」

 ナホミが驚くことも当然であった。

 ゾックと言えば、近隣ではここ10年近くの盗みの9割はゾックがやったと言われているほどだ。

 ゾックはそこまで行動していて未だ姿すら確認されたことはない。

「そんなのどうやって捕まえれば……」

「怖気づいたか」

「いいえ全然、むしろその逆」

「そうかならいいが、確かに姿形もわからない相手を試練の対象とするのは無理があろう。そこでだ」

「こんにちは~」

「こんにちは」

 説明中に突然現れた女性はナホミの知らない人物だった。

 反射的に挨拶を返してしまったが敵か味方かわからない。

 しかし、村長は女性と気さくに言葉をかわしているため敵ではないと考えられる。

「この人がナホミ、お前のサポーターだ」

「ハナといいます。よろしくおねがいします~」

「よろしくおねがいします」

「続きはハナさんから効いてくれ、ワシはこれで」

「あ、ちょっと」

 そうして、村長はろくに説明をしないで去ってしまった。

「では、私から詳しく説明させていただきますね~」

「お願いします」

「まず、ナホミさんにお願いしたいのは荷車の護衛です~」

「護衛ですか」

「はい~ですが荷車に乗っていてもらって結構です~」

「それじゃあどうするんですか?」

「わざと襲われます~」

「そんな」

「しかし、ナホミさんならゾックはなんとかなると思いますよ~」

「何故そう思うのですか?」

「それは~」

 と言っておもむろに出してきたのはナホミの見たことのない布だった。

 その布にどんな意味があるのかナホミが測りかねていると、

「これは対魔法繊維です~」

「なんですかそれは」

「細かく説明すると時間がかかるので省きますが魔法の影響を減らすものです~ちょうどナホミさんのブレスレットのような~」

「なるほど」

 ナホミはそれで理解した。

 ゾックはその布を身に着けているため魔法を使えないということを。

 しかし、それはナホミにとっても同じことだということも考えた。

「それだと、私の魔法も効かないのでは?」

「その辺はご安心を~ナホミさんのブレスレットほどのものではありませんから~試しにブレスレットを外してやってみてください~」

 ナホミはハナに言われたとおりに行動した。

 ハナが布を放り投げるのを確認した後で、

「火炎術!」

 という気合を込めてはなった火炎は前日までとは比べ物にならない威力を持っていることをナホミは身を持って体感した。恐怖はなかった。

 それと同時に一瞬で布が燃え上がったことで布への知識を深めることができた。

「たしかにこれなら問題なさそうですね」

「はい~では準備を始めましょう~」


 ナホミ自身の準備はブレスレットを外した時点で終わっていたが試練全体の準備のため時間がかかった。

 ナホミの乗る荷車はあえて情報がゾックに届くようにした偽装車であり運転手も魔法の実力者だ。

 だが、ナホミの生命に危機が迫るまでは手を出さないこととなっている。

 案内役としてのハナも同乗するがハナには戦闘能力はないためそちらの護衛役でもあるということだ。

「さあ、行きましょ~」

「はい!」

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