第2話 試練そして風邪

「こんにちは」

「はい」

「元気ないな」

「はい」

 ナホミのもとにとうとう試練がやってきた。

 その知らせを村長直々に伝えに来たわけだがナホミは元気がないらしい。

「何かあったのかな?」

「いえ、特には」

「なら何故そんなに元気がないのだ?」

「それは」

 そこでナホミは前日のことは思い出しながら村長へと伝えた。


「わーい。明日だー。明日だー」

「もう! そんなに騒いで! はしたない! さっきまではしゅんとしてたのに」

「人生は切り替えが大事なんだよ」

「全く誰に似たのやら」

 自分の罪を振り返りブルーになっていたのが嘘のようにナホミは騒ぎ立てていた。

 理由は単純だ。

「試練、試練。力の解放」

 そう、それは試練だから、そして、久しぶりの全力だからだ。

「いいから、もう寝なさい」

「いいじゃんママ、今日くらい夜ふかししても」

「今日だから夜ふかししちゃいけないんでしょ?」

「まあまあ、落ち着きなって」

「お父さんもなにか言ってやってくださいよ」

「ほどほどにな」

「はーい」

「全く娘には甘いんだから」

「ははは」

 そんな甘い父親の言う通り、ナホミにとってのほどほどで夜ふかしをした結果、風邪をひいたということだ。


「という訳です」

「なんともだらしないな」

「すみません」

 さすがのナホミも返す言葉が見つからないようである。

 なんとかは風邪を引かないというのが嘘なのだなと村長は思った。そして、なんとかとなんとかは紙一重というのも嘘だなと思った。

「どうしようか」

「あの、後日ってことにはできませんか?」

「前例はなかったと思うが、確かめてこよう」

「お願いします」

 一筋の救済への道が見えたことが風邪をひいたナホミにとって肩の荷が下りた思いだった。

 それからの時間は短かった。

 村の統治施設からナホミの家が特別近いわけではないが村長が戻ってくるのは早かった。

 時間にすれば一時間も立っていないような長さだった。

 だが、ナホミにとってはそれがこの世のどの出来事よりも長く感じられた。

 いっそこのまま人生が終わってしまうのではないかという思いが心に浮かぶのにそう時間はかからなかった。

 しかし、今回は現実は暖かく優しかった。

「見つかったぞ」

「何がですか?」

「試練当日の休みの事例だ」

「本当ですか?」

「ああ、この紙によると17歳になる日に風邪を引いて試験に受けられなかった者が過去にもいた」

「同じだ」

「そうだ。続けよう。その者は後日に試練に挑むことを望んだためそうした」

「同じだ」

「ここからは黙って聞け」

「はい」

「この代以降なにかの都合で当日の実施が難しい場合後日試練へ臨むことを許可する。と書いてある」

「ということは?」

「ああ、後日でよかろう」

「ありがとうございます」

「それまでに風邪を治すように」

「はい!」

 そうして一筋の希望は無事ナホミのもとへと届き現実のものとなった。

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