第2話『あなたはひとりで泣けますか?』

 夏の入り口に入ったような気候。そんな一学期の終わり頃の、夕刻。

 俺は開放されている屋上のフェンス越しに、外の風景を見ていた。

「『ひとりで泣けるか?』ってか」

 はぁ、とため息をつきながら、ひとり呟く。

 俺は付き合っていた彼女に別れを切り出された直後。

 言うなれば、失恋による傷心状態というヤツだ。

 たそがれるのも切り上げて帰ろうとしたら、屋上のドアが乱暴に開かれるような音が聞こえた。

 金切り声を上げるような金属音に驚いて、その方向に目を向けると、急いできたのか、息を切らせた声を出しながら、俺を見る女の子がそこにいた。

優希ゆうき!? アンタ、大丈夫!?」

 呆れた表情をしながら俺は、見覚えのある女の子を見る。

 髪の毛を片方だけに束ねたサイドテールと呼ばれる髪型で、黒い瞳をしていて、そこそこ胸の大きさがあるからか、かがむとすこし谷間とブラジャーが見える。

 その女の子は、俺の幼馴染の瑞那みずなだ。

「そんな息を切らせて来る必要ねえだろ。俺が屋上でたそがれるのは、よくあることじゃねぇか」

「それは、知ってるけど、今回は、ちょっと、心配だったのよ!」

 走ってきたから呼吸が荒いのか、とぎれとぎれに話をする。

「はぁ。わざわざご苦労さん」と、ぶっきらぼうに答える。

「まあ、アンタがそういうことなら、別にいいけどさ。………」

 深呼吸して、呼吸を落ち着かせる瑞那。

「私がさて帰ろうかな、としたら、優希がいなくなっちゃうんだもん。どこ行ったんだろう、って思ったら、屋上に行ったって聞いたから」

「それで俺がこの世から消える、とでも思ったのか?」

「そうよ!」と、強気な声で言う瑞那。

「ホント、心配させないでよ」

「わりぃわりぃ」と、一呼吸おいて「それで、要件は? 一緒に帰ろうぜ、ってだけ?」瑞那に問う。

「それもあるけど、アンタと話がしたくてさ」

「おう?」

 屋上のドアを閉めて、フェンスに両腕を置く瑞那。

「なんでたそがれてたの?」

「ああ。さっき、ここで付き合ってた唯華いちかに別れ話を切り出された」

 同じようにフェンスに両腕を置いて話す俺。

「唯華が? そっかぁ……。理由は?」

「俺が唯華を疑った。最近素っ気ないからどうしてだ、と」

「あ~、そういうことね~」

 納得のいった顔をしている瑞那。

「それで思い出した。唯華から聞いたんだけど、優希が付き合ってても面白くないからだってさ」

「厳しい話だなぁ、おい?」

「アンタさ、ちゃんと唯華と向き合ってた?」

 そう言われると、答えられない。

「それが気に食わなかったらしいよ、唯華は。だから、もういいやって、私に話してくれたわよ」

 そうか、と返すしか出来なかった。

「まあ、でも、もしアンタが恋人がほしいなら、ここにいるわよ」

「は?」

 瑞那のセリフに、ポカーンとなる。

「だってさ、ちゃんとアンタのことをわかってあげられる女の子って、そうそういないわよ? それこそ、優希が心を開かないと。心の扉を閉じちゃったままだったら、どんなにいい女の子に告白して付き合ったとしても、唯華みたいに面白くないから別れて、って言われちゃうわよ」

「そ、そうだな」

 瑞那に痛いところを突かれて、そういう風にしか返せなかった。

「だから、私がいるじゃない」

「全く、……お前という女は」

 自信満々に言う瑞那に、すこしにこやかな表情になる俺。

「さ、じゃあ、帰るわよ、優希」

「ああ」

 このあと、俺は幼馴染の瑞那と、彼氏彼女の関係になるのだが、それはまた別の話というやつだ。

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