2016年【隼人】28 獣人マンション
「あー、マジかいな。そこまでいう? あ? うちが悪いんか。その理屈やと、あれやで。今年いっぱいでスマップが解散するんも、こち亀が終わるんもうちのせいになるで?」
ヤクザの情報網は、半端ない。スマップの解散騒動は年明けに出ていたが、沈静化したはずだ。今後、動きがあるというのか。こち亀に関しては、なにも知らなかった。ブリーチ完結と勘違いしてはいないのか。
「とにかく、専門家をすぐに呼んでや。それまでに、入り口の二重扉の切替を変更しとくから!」
ドン!
玄関の扉が叩かれて、隼人はびくっと震えた。里菜は気にもせずに、電話に集中する。
「わかっとるって。風除室の映像はモニタリングできるんやろ。間違っても、そこにUMAがおるタイミングでは切替えんから。で、そのやり方なんやけど。マニュアルを管理人室に置いて来とるから、教えてもらいたいんやけど――」
ドンドン!
ノックの音は激しさと回数を増していく。そのたびに、隼人の鼓動は速くなる。
「ほいほい、つまり。これをこうして。うん。なるほどな。わからんことがわかった。笑えや、ぼけ。せやけど、いけると思うで。なんとかしてみるわ」
ドンドンドンドンドン!!
じっとしていられなかった。ついに隼人は玄関に向かって歩きだす。だが、リビングから出る前に里菜が電話を終える。
「ほうっとけ。あいつの力やと、ここの扉は破れへんから。このマンションは浜岡博士の研究資料をアテにして建築しとるんやからな」
「研究って。外のあれを、モスマンを調べた人がいるっていうんですか?」
隼人が振り返り里菜に訊ねると、彼女は面食らった様子で驚いた。
「詳しいな。徘徊しとるUMAの名前は、コトリちゃんにも説明してへんはずやけど」
「てか、なんすかそれ。コトリに、UMAに関してなんかの説明したんすか?」
「ちょいまち、なんもきいてへんのか? どないなっとるねん! 伝えとけって言うたやろが」
ソファーに座ったままのコトリに向かって里菜が怒鳴り散らす。コトリはけろっとした顔のまま答える。
「すみません、里菜様。風呂場での話をしようとはしたんです。でも、浅倉はエロいところにくいついてばっかりで。話がすすまなかったんですよ」
「なら、しゃーないな」
「てめぇ」
嘘をついたコトリを隼人が睨むと、あろうことかあかんべーが返ってきた。
風呂場で里菜となにがあったのかは知らないが、コトリのらしさが戻ってきた感じがする。これぐらい人をムカつかせてこそ、コトリだ。
「あらためて説明したるから、そう怒んなや。この場所は、シンプルな目的のために使われとる建物って話や――獣人系のUMAが住んどるマンションなんや」
「獣人系のUMA? モスマンが、何匹もいるんですか?」
「複数の種類がおるというんが、正しいな。グラスマンやフォウク・モンスターやスカンクエイプとか。あと、なんやっけ。自分が関わってないもんは、あんまり覚えてへんなぁ」
フェラの上手な里菜の口から、精子ではなくてUMAの名前が出てくる。隼人の頭の中では、エクスタシーを感じるように脳汁が溢れ出る。その脳汁には、総江から借りた本から得た知識が混ざっている。
グラスマン――アメリカ、オハイオ州を中心にケンタッキー州、インディアナ州で目撃される獣人。名前の由来は、高い知能を活かしてグラス(草)でねぐらを作るからだ。強烈な異臭を放つと言われている。
フォウク・モンスター――アメリカ、アーカンソー州にある沼地のひとつ、ボギークリーク周辺に棲息する猿人。腐ったゴミのような悪臭をふりまきながら、沼地を徘徊する。民家周辺にも出没するので迷惑だ。
スカンクエイプ――アメリカ、フロリダ州周辺に主に棲息する。『スカンク』という名前が表すとおり、強烈な異臭を放つ。腐った卵やカビの生えたチーズにヤギの糞を混ぜた臭いで、まともに目を開けられないほどの刺激がある。この獣人は排泄物も発見されており、豆を常食にしていると分析結果が出た。
「なんだか、くさいUMAばっかりですね」
「それを逆手にとって、くさい格好して移動ができたんやけどな」
里菜が部屋にやって来たときにくさかったのにも、なにかしらの意味があったということか。
「でも、同情するで。あんだけのくささを手に入れたのに、どいつもこいつも目指してたものにはなれんかった。トドに到達できんかった悲しい獣人どもやで」
「トド? アシカを目指してたんすか? でも、なんで?」
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