2016年【隼人】16 少女の悲痛な叫び

 ショットガン?

 どうせ、玩具だよな?


「巖田屋会系列・近藤組の若頭補佐である山本大介の名前を安売りされるんは、ちょっと困るんよな。せやから、死んでくれ」


 里菜がショットガンの引き金をひくと、目の前の黒い車に穴が空いていた。

 火薬のにおい。どうせ、玩具だよな。ではなくて。


「「うわあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああつつっつつっ!!!!!!!!」」


 誰が悲鳴をあげたのかわからなかった。むしろ、叫ばなかった奴のほうが少ないかもしれない。

 最初に逃げ出したのは、車の持ち主だった。逃亡者の数は、目に見えて増えていく。コトリに指示を仰がず、不良連中は行動を開始した。


 皮肉だが、こんなときにでも一致団結しているようだ。

『コトリを守らない。それよりも、自分の安全を最優先させようぜ』

 意味のないはずの叫声びから、そんな意志が汲み取れた。


「なにやってるの。ほら、数でおさえこめば、どんな武器を持った相手でも犯せるでしょ。ハルを抱くために集まったバカもいるんだから、性欲を満たしにいけよ、おい。ふざけんなよ、おい!」


 コトリが文句を言い切る頃には、里菜のために道ができていた。

 真っ直ぐに、里菜からコトリに続いている道だ。


「人に頼らんと、自分でなんとかせーや」


「ちょっと待てよ。あんたら、いま逃げたって、どうしようもないってわかんないの? この人に顔を覚えられてたとしたら、あとからどんな目にあうか想像もできないの?」


「そんなん、中学生に指揮とってもらわなアカン奴が考えられる訳あらへんやろ。それよりもほら、女同士の話やろうや。なぁ?」


 不良連中は逃げ出したが、まだ人払いは終わっていない。女同士の話をするには、隼人が邪魔だ。

 ガムをもらった義理もある。隼人は里菜のためにも、この場から立ち去ることを決めた。

 仲間に置いていかれて、しかめっ面になったコトリに背を向ける。


「意外だったよ、浅倉。まさか、あんたにヤクザの知り合いがいたとはね」


 知り合いというよりも、ファンだった女優がヤクザになっていただけだ。そんな反論をする気にもなれず、無視をする。喋っていると、里菜の邪魔になってしまう。

 これから、コトリがどうなるのかは知らないし、どうでもいい。はやく遥と合流したい。


「しかも、アタシのハッタリを暴くなんて、やってくれるじゃない。本物のヤクザを連れてきて、アタシのことを笑ってるんでしょ? なぁ、なんとか言えよ、浅倉!」


 無視。隼人は歩き出す。

 背後では、女同士の話し合いがはじまった。


「そないな大声だすなや。あいつには、興味がないみたいやけど、うちにはあるから教えてくれや。山本の名前をどこで仕入れたんや? うちの組員の山本はコトリアソビのことをなんも知らんっていうてたで?」


「別に、そんなのどうだっていいだろ」


「強がるんやったら、ひどい目に合わせたるからな。覚悟せーや。極道の名前を騙った責任をとってもらおうやないか」


 コトリは死ぬのだろうか。

 生き残れたとしても、ろくな目にはあわない。なにをされるにしてもトラウマとなって、自ら死を選ぶかもしれない。


 ざまぁみろ。

 遥をいじめてきた奴だから、それぐらいの罰を受けるのは当然だ。

 もし、死ぬとしても悔い改めてからくたばれ。


「やだ」


 きいてしまった。

 一四歳の少女の悲痛な叫びを。


「たすけて」


 ふざけるなよ。コトリは最悪な目にあって当然だ。なに、甘えたことを言っている。むしろ、もっとひどい目にあうべきではないのか。

 そうだ。ヤクザの手に落ちるよりも、最悪なこともあるはずだ。


 いま考えられる、最悪な嫌がらせをしてやろう。

 隼人は立ち止まり、振り返った。

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