2016年【隼人】11 集団で最後に現れる奴の大物感
車を背にしながら隼人は不良と対峙する。身震いしながらも、敵の数を把握した。この前、リンチを受けたときよりも数が多い。この中の誰が車の持ち主でもやばい目にあいそうだ。
「えっと、それで、何の話してたっけ」
「車ぶつけた人物とは無関係って話でしょ。なんとかしてごまかせ、がんばって」
隼人にしか聞こえない小声で、遥がフォローを入れてくる。ナイスだ。嫁にしたい。
「無関係なオレが見ていた限りだと、向こうで倒れてるムキムキの男が、いきなり鼻歌交じりで運転しだしてですね」
「先輩方、あいつは嘘をついてます。あれが浅倉隼人ですよ」
敵の集団に混じっているクソ野郎が、隼人を指差してくる。
不良連中の中で、口を開いたこいつが最年少のようだ。最強を誇っていたうちの学校の不良、なんとかの再来だ。
年齢イコール強さという単純な理屈がまかり通るならば、なんとかの再来が一番の雑魚になる。そう考えると、実におそろしい集団に睨まれている。身体の震えが止まらない。
「おい、なに黙っちゃってんだ。お前が浅倉なのか、ああん!」
小太りのオッサンが、唾をまき散らしながら怒鳴り声をあげる。こいつが、車の持ち主だと察した。それにしても、隼人よりも身長が低い。弱そうなのでホッとする。
「おい、なんか言えよボケが」
喋ったら「チビですね」と、悪口を言ってしまいますけど。隼人が必死で口を真一文字に締めていると、倉田が咳払いをする。
「黙ってるみたいだから、かわりにぼくが答えよう」
「ちょっと倉田くん。そんな余計なことしなくてもいいから」
遥の制止を聞かず、倉田は正直な生き方を貫く。
「彼は浅倉隼人です。間違いありません。そして、あなたの車をぶつけるのを、ぼくはしっかりと見ていました」
「なんなんすか、オレに恨みがあるんですか、倉田さん?」
向かい合っている不良よりも、えげつない敵と肩を並べていたようだ。せいぜい、恋愛面における邪魔者だと思っていただけだが、見積もりが甘かったらしい。
「いちゃもんをつけないでほしい。ぼくは正しいと思ったことをしているに過ぎないだけだ。そんなにおかしいか?」
濁りのない真っ直ぐな瞳でたずねられる。不思議なもので、隼人のほうに非があるように思えてきた。まっすぐな相手に対して、おいそれと反論できそうにない。チラリと遥を見ると、仕方がないとうなずいてくれた。
「相変わらず、反吐が出るほどのピュアボーイだな、倉田くんよぉ。わかってんのか。そんな生き方してるから、恨みを持たれてんだよ。お前がふりかざす正義の犠牲になったもんが、こんなに集まってきてんだ」
大げさに両手を広げる金髪の背後には、いまから合流しようとする不良たちの姿があった。遅れてきている奴ほど大物のように感じてならない。
「あれ? なんで、浅倉がこんなところにいるのよ」
話しかけられるまで、隼人は目を逸らしていた。見知った顔なのに怯えていたとは情けない。
「おまえ、コトリか?」
「その名前で呼ぶなって、なんべん言ったらわかるんだ」
「コトリちゃん。なんで?」
「なにに対するなんでなのよ、ハル?」
きつい表情でコトリは遥を睨みつける。遥の横顔に怯えた様子は皆無だ。むしろ、こんな状況でも慈愛に満ちていた。コトリのせいでひどい目にあったはずなのに、まだコトリを友達だと思っているのだろう。
それは、睨み返されるよりもコトリの心に響くものがあったようだ。コトリは遥から目を逸らすと、きつい視線を隼人に向けてくる。
「あんたがいるのは、意外っちゃ意外だけど。いや、むしろハルのピンチだから当然なのかな。まぁいいや。それより、浅倉。あんたこっち側につかない? 倉田を殴れるわよ」
「べ、べつに、オレはそんなの」
倉田を殴りたいと、いまも思っている。だが、それでも集団で襲いかかるような真似は、隼人が求めている決着の方法ではない。
「じゃあ、この条件はどう? こっち側についたら、ハルに中出しできるわよ。それでもこない?」
「なんの冗談だよ! 殺すぞ、このクソが!」
一番殴りたい相手が、倉田からコトリに更新された。女でも関係ない。遥を辱めるような真似をするのは、誰だろうが許さない。
隼人の爆発が最速すぎたために、当事者の遥とその彼氏が、逆に冷静でいられるようだ。そんな反応を見せつけられて、コトリはバカにしたように拍手をする。
「さすがだ、浅倉。ハル本人や彼氏の倉田よりも怒るんだから」
「ヘラヘラしてんじゃねぇよ。てめぇらは、なんの恨みが遥にあるってんだ」
「勘違いすんな。ハルは恨まれてひどい目にあうわけじゃない。倉田と付き合ったのが悪いんだ」
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