第4話 勘違い
「東京行くことが決まったよ!」
年内の東京行きが確定し、あおいとやっと暮らせる。
二人の時間が訪れるんだと、心弾ませた。
付き合って4年と10ヶ月、長かった…
遠距離になって1年半、我慢してよかった。
色んな思いがこみ上げてきて、ゆっくりと頭の中を回った。
「あおい!改めてよろしくな!」
「うん、そうだね」
なんだろう?あまり嬉しくないのかな?
いや勘違いだな。自分一人はしゃぎすぎてるだけで、あおいが嬉しがってくれているのに気付いてないだけだな!
…と思っていた。
勘違い甚だしいのは、そこではなかった。
それから1週間後、あおいからあの別れの電話が来たのだ。
気持ちが薄れ、離れていっているのに気付かず、ずっと一緒にいるものだと盛大に勘違いしていた。
そんな単純なこともわからなかった。
本当、とんだ勘違い野郎だよ…自分自身が情けなくて、虚無感が心を覆いつくした。
.........
「明日、東京に発つよ」
以前の宅飲み後の一言を考えると、返信はないだろうと思いつつも一応ひかりには連絡をいれた。
そして、スマホを放り投げ、荷造りに取り掛かった。
時刻は21:00を回った。
思っていたよりもスムーズに荷造りが終わり、余裕ができた。
スマホアプリにでも勤しもうとしたとき、着信音が鳴った。
「今から外で飲もう」
意外だった。
自分から「もう二人で飲むことはない」と言っておきながら、誘ってくるとは思いもしなかった。
これが最後だろうになるんだろうな。
そう、思いながらひかりが待つ居酒屋へと向かった。
「東京進出祝いだからね」
そう言ってビールを渡してくれた。
ただ、いつもは美味しいはずのビールが、今日はちっとも美味しくない。
自分の中で、むず痒いものが引っかかっていたからだ。
これまで見てきたひかりのビールを飲む横顔は、いつもほっとするような気持ちで愛おしく感じていた。
だが、今日は見るのがつらい。心が痛かった。
2時間が過ぎ、終電の時間になった。
別れ際、どうしても聞かずにはいれなくて聞いてしまった。
本当、どこまでも女々しい男だと自分でも思う。
「なぁ、なんで俺じゃだめだったんだ。あんなに求めてくれたのに。
俺は本気で一緒にいたいと思ったし、ひかりもそうなんだと思っていた。
でも、それは全部勘違いだったのか?」
少し間をおいて、ひかりが一言だけ言った。
「それは…違ったんだよ」
まるで理解できなかった。
心臓に変な痛みが走り、頭がぐらぐらと正常さを失うのを感じた。
「そう…じゃあ元気でな」
そのまま駅に歩いて行った。
もう会うことはないし、これで良かったんだと一生懸命、自分に言い聞かせながら。
周りの人に、頬を伝う涙がバレないように。
電車を降りて、静かな歩道をふらふらと歩いた。
一人感傷に浸るのを邪魔するように着信音が鳴る。
相手はさっき別れたばかりのひかりだった。
忘れ物でもしたのだろうかと思う傍ら、もう電話なんかかけてくるなよとつらい気持ちがあふれた。
「もう帰ったよね。もうちょっと一緒にいたいとか無理だよね…」
「バカが…」
タクシーを拾ってすぐに向かった。
馬鹿は自分自身だろう。また、自分の心の傷を広げることになるのがわかっていながら、向かっているのだから。
自分のことすら制御できない、正真正銘の大馬鹿だ。
ひかりの家に着いてから、何も言わず、ただお互いを求めあった。
仮初の愛だということも分かっている。後々、つらくなることも。
しかし、ひかりを目の前にして想いを抑えることができなかった。
そして、一晩を共に過ごした。
この日、なぜひかりが自分をもう一度呼んだのかは今でも理解できない。
一つだけ言えるのは、自分がどっぷりと泥沼に溺れていたということだ。
「来月、名古屋に来る予定ある?」
「ないけど行くよ」
すっきりしたのかつらいままなのか、自分でもよくわからない感情を抱いて東京へと発った。
もうこれが本当に最後になるんだということも知らずに、新幹線で1時間と40分の間揺られて、東京に降り立った。
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