第2話 会いたい

あおいと知り合ったのは大学1年の初夏。

当時、お互い体育会に所属していて、顔を合わせることがしばしばあった。

体育会1年生全体の士気を高める合宿の最後にあった一発芸大会で優勝し、その話題をきっかけに二人の仲は深まった。


「再来週の15日空いてる?会えるかな?映画観たくて」


我ながら傑作だ。

大学1年生にもなって、もっとましな誘い方はないのかと。

ただ、あおいは快く承諾してくれた。


そのデートのあと、告白した。

大阪の梅田の路地裏。ビルの間から少しだけ月が顔を覗かせているその下で。

もっと他の場所があっただろう。

そう思いながらも、目の前にいる幸せの塊をぎゅっと抱きしめた。


.........


「もう1回会いたいんだけど」


仕事帰りにLINEが来た。ひかりからだ。

話は合うやつだったし、サクッと飲むくらい別にいいか。


「ええで。いつ?」

「今週末、空いていれば」


誰も予定入れるやつがいないから空いてるよ。

フラッシュバックに疲れて、少し気持ちがすさんでいる。

やっぱり情けないやつだ。


今日も一人、酒であおいの笑顔をかき消そうと一生懸命飲んだ。

思い出すたび、胸が痛くなるから…奥に奥にと押し込んで…

鳴らないスマートフォンを伏せて電気を消した。




着信音で目が覚めた。


「会いたい」


ひかりだ。

何時だと思ってんだこいつ。あほじゃねえのか。

そう思いながら準備している自分は何なんだろう。


タクシーに揺られながら向かった。

こんなこと、あおいの時でもなかった。

また浮かんでくる彼女の顔をかき消しながら向かう時間がつらかった。


呼ばれた場所には、もう一人女性がいた。

ひかりの先輩だった。

三人でコンビニで酒を買い、先輩の元カレの愚痴を聞かされた。


「ねえ、二人は付き合わないの?」


無神経なことを聞いてくる先輩だ。

そんなことあるわけないんだ。


「付き合うわけないでしょ!」


大げさに反応するひかりを見て胸が少しだけ痛む。

今、先輩に見えないようにポケットの中の俺の手を握っているそれは何なんだ。

わからなかった。

あれから女性が全くわからない。もとよりわかってなかったのかもしれないが。





先輩はしゃべりたいだけしゃべると先に寝てしまった。

それを見て寝ようとしたが、握られている手が気になり落ち着かない。


「ねえ、だいすけくん。起きてる?」

「どうし…」

唇が温かい。

頭の中でぐるぐるしていたものが一瞬静まり、勢いを増して動き出す。


本当に分からない。

ひかり…お前は…


来るんじゃなかったと思いながら、少し違う感情がゆっくり顔を覗かせようとしているのを感じた。


何も言わず背を向けるひかりの背中に手伸ばす。

触れようとして、もう片方の手で抑えて同じように背を向けた。


「また、会ってね」


聞こえないふりをして、眠りについた。

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