次のステージ
サーシャとケインが診療所でゴードンを見舞っていた頃、研究所の一室で、一機のリリアJS605sが起動していた。
「おはようございます。メルシュ博士」
リリアテレサだった。手術室に踏み込んできたメイトギア達によって破壊された彼女も、リヴィアターネのリサイクルショップで発見されたリリアJS605sのボディにデータと記憶を移し替え復帰したのだ。
また、新しく現れたアリスマリアHについても、更に体を増やす為に以前から準備していたものだった。二つの体を同時に操ることには慣れていたが、それでも簡単にまた体を増やすということができなかった為にフィリス・フォーマリティの官邸で休ませていたところに、メイトギア達は踏み込んできたという訳だ。それによって従来のアリスマリアHが機能停止し、新しい体がスムーズに使えるようになったというだけであった。
ちなみに、非常停止信号のスイッチは、撃たれた方のアリスマリアHもポケットに忍ばせていた。単に使う暇がなかっただけである。
なお、蜂の巣になって機能停止した方のアリスマリアHについては、執務室から運び出した後に、貴重な射殺体としてほくほく顔で研究所の手術室に運び込み、射殺された人体がどのように破壊されるかということを、アリスマリアRがいつもの通り血まみれになりながら徹底的に調べていた。自分自身のクローンであり、今はインターフェースとはいえ仮にも自分の体であるそれすら、博士にとってはただのサンプルでしかない。
結局、今回の事件で博士が実質的に失ったのは、生身の体一つと、アリスマリアの閃き号に搭載されていたメイトギア一体と小型艇一機だけだったと言えるだろう。タリアP55SIをはじめとした、人間の為に戦おうとしたメイトギア達にとって、あまりと言えばあまりにも虚しい幕切れだった。
相手が悪すぎたのだ。戦闘能力を持ち、戦術について一般的な知識を持っているとは言えど、嘘を吐くことができず人間のように虚実織り交ぜた駆け引きのできない彼女達が挑むには、メルシュ博士は邪悪過ぎた。
「くくく、いやはや、興味深いデータが取れたよ。しかもまた不顕性感染者が手に入った。おかげで新たな実験も思いついたことだし、今度は人間達の反乱がいつ起こるかが見ものだねえ。
私が生きてる間に結果が出てくれればありがたいんだがね」
フィリス・フォーマリティの執務室の窓から、自らが作り出したただの実験場でしかない虚構の町を見詰めながら、メルシュ博士はニヤァと邪な笑みを浮かべていたのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます